老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

文字の大きさ
99 / 342

99話 パーティ戦

しおりを挟む
「ヴァリィ、ソーカいつもレンの魔法を意識してまとめるように立ち回ってー、釣るときは壁に寄せる感じ。そうすれば自分も背後守れるでしょー。レンもそういう動きをしてくれることを考えてそれを助けるように、あと常にバフ、デバフの時間管理と魔法のCTキャストタイムは体に染みつけてね。タロはかわいいねー」



 ユキムラによるブートキャンプは絶賛継続中だ。

 今戦っているのはアースオーガ、オーガ種の中ではそこまで巨大ではないが、それでも2mは超えている。基本的には近接攻撃にたけているが、膂力を用いた弓攻撃や、あまり得意ではないが一部は魔法も使う。

 今の敵のパーティ構成は、両手剣というか石の塊を振り回す戦士、鉄製の剣を使う剣士、大きな両手持ちの斧を振るう戦士、弓使い、魔法使いの5体を相手している。

 ヴァリィは敵の攻撃を見事にさばき続けていて理想的なタンクとして機能している。

 その隙にソーカが弓や魔法を阻害しつつ確実に敵前衛に手傷を負わせている。

 ダメージソースはレンによる魔法攻撃だ。味方への援護、敵への阻害、そして攻撃。

 一番負担は大きい。ユキムラはほとんど指示だけを出している。

 ユキムラが出たらもう戦闘は終わっていることが全員わかっているので、貴重な実戦での指導を必死に自分の身体に叩き込んでいる。

 タロはほんの少しでも綻びそうなときに的確に、その綻びを事前に修正していく。

 ユキムラでさえもこれほどのバランサーをVOプレイ時代に見たことがないほどの働きだ。



「レン、バフ切らしすぎ。あとあいつらは地属性なんだから火につなげる魔法使おうね、精神魔法とかはもう少し高度な知能持つ方が効くから。

 ヴァリィはすごくよかったよ。壁としてどんどん今後も頑張って。

 ソーカはダメージをばらけすぎかな、タゲ管理をしながら最初にこいつを落とすって計画をしっかりと立てて、いち早く敵の数減らしていこう」



 みんな死んだ目でユキムラからの指摘を聞いている。

 この調子で戦闘ごとに徹底的にダメ押しをされ続ける。

 ユキムラに悪意はない。悪意がないから逆につらい。

 自分ができていないことに恥じるしかできない。

 それでも何度も戦闘を重ねることでパーティーとしての動きができてくると、ユキムラの指示の意味もより明確に理解できるし、それがどれだけ的確な指示だったのか理解できてくる。

 

 ヴァリィがソーカから聞いた話はユキムラを見て、そして尊敬すれば新しい世界が開く。

 というまぁ宗教のような話だった。

 しかし戦闘において、自分以外の皆の戦いかたが自分自身より高いレベルにいることは間違いなく、それなりの修羅場を超えて手に入れた力が、若い人間にあっさりと超えられるような悔しさもあった。

 それでも素直にユキムラのいうことは自分の身体に入ってきた。

 そして自分自身が今までの鍛錬をあっさり覆すほどに成長を実感できていた。

 そして、その扉を開くのに時間はさほどかからなかった。



 現在は37階。数限りない戦闘を繰り返してきて、問題点を指摘され、それを直すことで自分が成長する。それは麻薬のようなものだった。

 もっと高くへ行ける。ユキムラの言葉で自分が間違いなく成長できている。

 長年の修練と苦難を経て高みへ至ったと勘違いしていた自分をとんでもない高さへと連れてって行ってくれる。ユキムラに信仰にも近い感情が生まれるのは仕方のないことだ。

 そういった精神状態がヴァリィをもう一つ高いステージへと連れていくことになる。

 これは完全な洗脳に近い方法なのだが、残念ながら皆気がつけない。



 ダークエルフのパーティとの戦闘中にその変化は訪れた。

 素早い剣士の攻撃を見事に捌き、同時に襲い掛かって来た剣士の胸部を撃ち抜き一撃のもとに絶命させた。まさにその瞬間だった。

 感知できない死角からの一撃。倒した敵の遺体が一瞬仲間のダークエルフアサシンの身体を覆い隠し、命を懸けた不意の一撃を生み出したのだ。

 流石に他の人間が俯瞰視点で状態を把握していても防げない一撃だった。

 タロとユキムラは気がついていたが、ユキムラが微妙なヴァリィの動きの変化を感じ取ってタロに目配せして様子を見た。

 ヴァリィは一瞥することもなくその一撃をひらりと避けて、そのアサシンの首筋に一撃を食らわせた。そこから自分の視界に新たな進化がなされたことを知る。

 レンやソーカから聞いていた周囲の状態の把握、ヴァリィもこの戦いを通してVOのバトルシステムを手に入れることに成功したのだ。

 

「ヴァリィも見えるようになったみたいだね。最初は頼りすぎないように気をつけてね」



「ちょ、なんで分かるのよ! ほんと怖いわ……」



 ユキムラは途絶えることなく全体への指示とダメ出しを的確に続けている。

 その中で能力発現を寸分たがわぬタイミングで指摘してきたユキムラにヴァリィは少し恐怖した。

 どれだけ全体を把握しているのだろうか……

 ユキムラは状況を見ているんじゃなくて感じていた。

 何十年もモニターを通して見える範囲のすべてを把握することを、息を吸うように続けてきた結果。

 意識することなく理解出来ているというわけのわからない能力を手に入れている。

 味方や敵の動き、配置、行動から予言にも近い予測が勝手に導き出される。あとは現実との僅かなズレに対応していくというプレイスタイル。



「レン、狙うのはそっちじゃなくて隣、そうすれば射線を使って今狙っている方の行動も制限できる」



 こんな指示が出せるのもそういった能力の賜物だ。

 レンはまだ狙おうと考えただけで行動に移していない、しかしその視線の動きや無意識の予備動作から狙いを把握し、その問題点を指摘する。

 こんなことを続けられたらユキムラは神なのか? と勘違いしても仕方がない。

 こうしてユキムラの神格化はより高まっていくのであった。

 

 また、この一連の指導を収めた記録はサナダ隊の教本となり、どんどん信者を増やしていくことになる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

yukataka
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...