老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

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293話 シャル・ウィー・ダンス

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 ケラリス王国のほぼ中央に位置する聖都ケラリス。

 中央部は比較的平坦な草原になっており、美しい花々が散りばめられた青々とした草原をバスは走る。

 山道や林道から抜けると非常に走りやすい草原となり、バスの速度も上がる。

 周囲の情報はいち早く空に浮いた魔道具から、運転するGUへと反映され危険などは事前に察知できる。

 全開に近い走行をすれば、当初の予定より遥かに早く聖都の姿が見えてくる。

 もちろん、ケラリスの霊峰と呼ばれる神山ラグナの麓に広がる巨大な聖都は見えてからもまだまだ距離がある。

 それでも目に見えてグングンと近づいてくる聖都の姿に皆は驚きを隠せない。



「さて、日も暮れましたし、今日はここでキャンプとしましょう」



 レンがGUに指示を出し、ちょうどいい水場近くの高台をキャンプ地とする。

 すでに数日キャンプをこなしている一同だが、まぁコテージ出して、それで準備は終わりだ。



「明日には聖都ですし、今日は外でパーッとやりますか」



 ユキムラの提案に皆大喜びだ。積極的に設営準備を手伝いながらウキウキしている。



「それでは短い間でしたが、聖都ケラリスまでの道のりをともに歩んだ仲間たちに、乾杯!!」



「かんぱーい!」



 白狼隊、コウ、ナオ、キーミッツ、デリカ、それとお付き6名総勢15名で夜空の下の乾杯である。

 予定よりだいぶ早い到着とはいえ、夜はだいぶ冷えるようになってきている。

 キャンプ地は周囲に設置された魔道具が魔物避け、虫よけ、照明、天候コントロールと多岐にわたる働きをしてくれているために、非常に過ごしやすい空間を作り出してくれている。



「んーーーーーーーっ! ぷはーっ! やっぱり外で飲むキンキンに冷えたビールは最高ですな!」



 キーミッツとデリカはすでにビール教信者だ。

 この旅だけでも信者は増加している。

 キンキンのビールを注げるサーバーの周囲にはものすごくいい笑顔をしたおっさんたちが、和気藹々とたむろしている。とても微笑ましい光景だ。

 つまみは定番の串焼き、焼き鳥、刺し身に揚げ物、女子のためのチーズフォンデュなども豊富に揃えてある。どれも極上の品でお酒をより美味しく彩る。



「いやー、生の魚がこんなに美味しいとは……」



 キーミッツはすでにお刺身で日本酒を楽しむというスタイルへと移行している。

 漬物も確保して盤石の空間を自らのテーブルに作り上げている。



「炭酸と合わせる飲み方もなんでもスッキリするだけじゃなくて甘みがでたり、興味深い……」



 デリカは焼酎の炭酸割りに最近ハマっている。

 どんな食材とも相性が良いので今は甘いタレの付いた焼き鳥をほうばっている。

 ユキムラはからあげとウイスキーのソーダ割り。つまりハイボールを楽しんでいる。



「からハイは神が作りし至高の組み合わせ」



「ストレートも美味しいけど、餃子とはソーダ割りよねぇ……」



 ヴァリィは後半戦は大体ブランデーやウイスキーをストレートかロックで飲むが、今は食事との相性を考えてブランデーのソーダ割りだ。



 コウとナオはまだお酒は嗜まないが、目の前に広がる食事を仕事をしながら上手に楽しんでいる。

 また、楽器を演奏したりと、万能執事とメイドっぷりを遺憾なく発揮している。



 皆お酒が回って気持ちよくなってくると、音楽に乗せてダンスが始まったり陽気な時間が流れていく。

 空を見上げれば満天の星空、まるで幻術にかかったかのような楽しい時間がユキムラの周りには流れている。



「ユキムラさん! たまには踊りましょうよ!」



 ソーカも大量の料理を消費して軽く果実酒で気分が高揚している。

 ユキムラの手を取るとパーティの中央に躍り出る。

 曲調が情熱的で激しい曲へと切り替わる。

 まるで組手のような見事な踊りでユキムラとソーカが舞い始める。

 その素晴らしい舞に周囲の人々は大いに盛り上がり、ドンドンと足踏みをして興奮のボルテージを上げていく。我こそはと沢山の人が舞を交わして、どんどん会場が盛り上がる。

 まさに盛り上がりの最高潮だ。



「レン様……よろしければ踊って頂けませんか……」



 ナオが勇気を振り絞ってレンをダンスパートナーに誘う。

 女性からの申し出を断るような野暮な事をレンはしない。

 見事な振る舞いでナオの前に膝をつき、手袋にキスをする。



「こちらこそ、喜んで……」



 ヴァリィの脳内で、こういうのもサイコー!! という叫びが上がる。

 音楽は一気にムーディになる。

 見事なステップでナオをエスコートするレン。

 その流暢な振る舞いに思わずナオもうっとりとしてしまう。

 ギリギリと歯ぎしりしそうなのをコウは固まった笑顔で隠している。



「コウ! 私とも踊って頂けるかしら?」



 ソーカはコウにパートナーのお願いを出る。

 ユキムラはすでにおっさん連中の輪に戻っている。

 

「喜んで、ソーカ様」



 慣れた振る舞いでソーカの手を取るコウ。



「上手くやってあげるわよ」



 そんなコウの耳元でソーカがつぶやきウインクする。

 レンとも軽く目配せをする。

 ムーディな曲に合わせた二組のダンスは皆の視線を独占する。

 いつの間にか二組以外の人は席に座りその素晴らしい踊りに酔いしれていく。



「さぁ! 二人の踊りを見せてちょうだい」



 頃合いをみてソーカとレンがナオとコウにパートナーを交代する。

 少しポップな楽しげな曲に変わり、ナオとコウは見事に息の合ったダンスを披露する。

 ナオはまるで一つになったかのようなコウとのダンスに、少し戸惑いつつも、その時間を心地いいと感じていた。

 憧れていたユキムラとレンとは違った、一緒に育った幼馴染の意外な一面を見て。

 あれ? こいつこんな大人な顔をしてたっけ? と気がついた瞬間。

 そんな思春期の女子にありがちな表情が隠しきれていない。



 実際のコウは、嬉しさで顔が崩れないか必死で頑張っている。



 そんな微笑ましい二人を見て、周囲のおっさんやおねーさん達はニヨニヨと楽しんでいるのでありました。



 音楽が終わり、万雷の拍手が二人に送られる。

 素晴らしい達成感が二人を包み込み、思わず見つめ合ってしまう。

 そして、今まで感じたことがない気恥ずかしさからナオは頬を染めてしまう。

 ただの幼馴染が、すこし特別な存在に変わる瞬間。



「「いい」」



 ソーカもすっかりそっちの仲間入りである。



 こうして、聖都へと向かう旅の最後の夜は、最高の夜となる…… 

 
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