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真相が知りたい

彼って…

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「彼が怪我をしてしまったとき、真っ先に私を思い浮かべてくれたこと、私、心底嬉しいって思ったんです。いつも一緒にいらした鳥飼先生あなたに、ではなく私に電話をくれたことが。本当にたまたま連絡先の並びのせいだったとしても……そこに運命を感じてしまうほどに……嬉しかったんですっ」
 あの瞬間、鳥飼とりかい先生に勝ったって思ってしまった私は、すごく浅ましい女です。

 逢地おおち先生が一気に吐き出していらした言葉に、私は「え?」と思う。

 ちょっと待って、逢地おおち先生、今、何て?

「お、逢地おおち先生……。か、彼って……」

「え? もちろん、鶴見つるみ先生……です」

 逢地おおち先生が鶴見つるみ先生の名前を口にした瞬間、私はへなへなとその場にしゃがみ込んだ。

「と、鳥飼先生……!?」

 逢地おおち先生が慌てて立ち上がると、へたり込んだ私のすぐ横に膝を付く。

「お、逢地おおち先生、誤解……です」

 私は泣き笑いのような変な表情になりながら、逢地おおち先生につぶやいた。

「わた、私が好きなのは……霧島きりしま先生、です……。鶴見先生じゃ、ありません」

 私のその言葉に、逢地おおち先生が息を飲まれたのが分かった。

「え? 霧島きりしま……先生?」

 逢地おおち先生は私のセリフを繰り返してから、しばし後にハッとした顔をなさる。

鳥飼とりかい先生、それ、本当ですか?」

 ふたりして保健室の床にしゃがみ込んだまま、間近で表情を探りあう。

「本当です……」

 何だか改めて問われると恥ずかしくなってしまって、うつむき加減でそう言ったら、いきなり逢地おおち先生に抱きしめられた。

「鳥飼先生ぇーっ!」
「ひゃっ!?」

 ぎゅーっと抱きしめられて、思わず変な声を出して膝をついてしまった私に、逢地おおち先生が涙混じりの鼻にかかった声で言うの。

「本当に……良かったです。私……鳥飼先生にどうお話ししたらいいか……ずっとずっと悩んでいたんです」

 それで仕事中もついぼんやりしてしまって『保健だより』の作成が上の空になってしまって。
 そう続けていらした逢地おおち先生に、私は凄く申し訳ない気持ちになってしまう。

 こんな逢地おおち先生にあの日の疑惑を聞いても大丈夫かな。

 何を馬鹿なことをって笑われちゃうかな。

 でも……それを聞かないと私、前に進めない……。

 それに何より……。私、逢地おおち先生にお聞きしたいこと、もうひとつ増えてしまったから。


 何で鶴見つるみ先生からお電話があった時、校長や教頭をすっ飛ばして温和はるまさに電話していらしたの?
 鶴見先生と同じ2年部の――確かに学年主任ではあるけれど、でもそれだけだよ?

 普通に考えて、不自然じゃない?
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