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嵐の前の……

何で怒ったの?

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「お前さ、それ冗談抜きで言ってる?」

 ムスッとした声音で問いかけられて、キョトンとする。
 思わず腰を抱かれたまま後ろを振り返ったら、至極不機嫌そうな顔をした温和はるまさと目が合った。

「はる、まさ?」

 何で彼は急にご機嫌斜めになってしまったんだろう?
 さっぱりわからなくて小首を傾げると、「お前が鈍いのは知ってたけど、ここまでだったなんてな」って溜め息をつかれた。

 温和はるまさは私の腰から手をほどくと、玄関先に置いていた荷物を手に取ってスタスタとリビングへ行ってしまう。

「な、何で怒ったの?」

 慌ててそんな温和はるまさの後を追ってオロオロする私を、温和はるまさが睨んでくる。

「本当に分かんねぇの?」
 分かるのが当然みたいに聞かれたら分からないって言うの、躊躇ためらわれるよ。
 でも、ここで嘘をついても私には彼の心変わりを察することは出来ないと思ったから。
 恐る恐る「……ごめんなさい。分かりません」って小声で言ったら、盛大な溜め息をつかれてしまった。

「バカ音芽おとめ
 ややしてポツンとつぶやかれた声はどこか寂しそうで。

温和はるまさ……もしかして」

 この感じ。彼は怒ってるんじゃなくて多分――。

「拗ねてる?」

 リビングに突っ立ったままの温和はるまさの手をそっと握って顔を覗き込んだら、サッと目を逸らされた。

 ああ、これ、絶対そうだ。

温和はるまささん、すごく分かりづらいんですけど……」

 掴んだ手をギュッと握ってもう一度声をかけたら「分かれよ」って小さく吐き捨てられた。

「付き合い始めて初めての週末だろーが」

 続けて、聞こえるか聞こえないかの声でそう言われて、温和はるまさが何を言いたいのかやっと分かった。
 彼はきっと、週末に勝手に予定を入れてしまったことを寂しく思ってるんだ。

「ごめんなさい。温和はるまさ付き合うこうなる前から佳乃花かのかと飲みたいねって話してて……それで」

 言ったら、「たち?」って思わぬところに反応されてしまう。

「“たち”って……朝日さんのほかは誰だよ」
 睨み付けるように聞かれて、私はドキッとしてしまう。
「……い、一路いちろ
 うつむいてそう言ったら「一路って……三岳みたけ一路か?」って睨まれる。

 他に一路なんて変わった名前の知り合いはいないよ、温和はるまさ。その一路だよ?

 思ったけどそんなこと言えるような雰囲気じゃなくて。

「うん……」
 温和はるまさの顔色を窺いながらそっと頷いたら思いっきり睨まれた。

温和はるまさ……」
 所在なく握ったままの彼の手をそっと引っ張ったら、「どこで……」って言われて。
 一瞬何のことを言われたのか分からなくて言葉に詰まってしまう。

「どこで飲むのか?って聞いてるんだけど」
 温和はるまさは一路のことについてはそれ以上何も言わなかったけれど、明らかに不機嫌さに拍車がかかったのは分かった。

「ま、まだ……決めてない……」

 つぶやくように言ったら舌打ちされてしまった。
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