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今ならちゃんと

お前じゃ音芽をこう言う風にはできない

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 小声で謝罪の言葉を述べてから、温和はるまさのネクタイをギュッと引っ張って彼の顔を自分のほうに引き寄せると、私は背伸びして温和はるまさの唇を塞いだ。

 温和はるまさがびっくりしたように瞳を見開いたのが分かったけれど、許して、どうか今はこのまま――。

 そう思っていたら、強く抱き寄せられて口付けの角度がグッと深くなった。

「っ、……は、るま、さ? ぁ、……んっ」

 川越かわごえ先生がすぐ後ろにいらっしゃるのにそんなのお構いなしと言う風に、温和はるまさの舌が私の口中を這い回って。
 私はその動きに翻弄ほんろうされるように彼に縋りつく。

 身体中の血液が沸騰するほど気持ちよくて、全身が温和はるまさをもっと欲しいと叫んでしまう。
 ここは教室の中だと……すぐ後ろに川越先生がいらっしゃるのだと……頭の奥底では分かっているのにそんなのどうでもいいと思ってしまいそうなくらい、私は温和はるまさを求めてしまう。

 温和はるまさが、チュッと音を立てて私の舌を吸い上げるようにして名残惜しそうに私の唇から離れる。

 そのまま温和はるまさに支えられて立っているのがやっとの私を川越先生に見せ付けるようにしながら、温和はるまさ

「お前じゃ、音芽おとめをこういう状態には出来ない。諦めろ」

 って勝ち誇ったように宣言した。

 川越先生が、そんな私と温和はるまさを睨みつけながら、悲しげに小さく一言、「……そんなの、最初から分かってたわ……」って、つぶやいた。


 ふいっと逸らされた川越かわごえ先生の目尻に、薄っすらと涙が浮かんでいるように見えたのは気のせい……かな?

「でも、私、あきらめ悪いわよ? 音芽おとめちゃん」

 教室を出て行きぎわにふと立ち止まった川越先生が、こちらを振り返らずにそうおっしゃって。

 私はそんな彼女に、
「大丈夫です。何度いらしても、今の私はちゃんとお断り出来ます」

 温和はるまさの手をギュッと握ってそう言い返せた。


 だからね、温和はるまさ

 もう今、この時から!

 私を守るために川越先生のことを監視する必要はなくなったし……何だったら今からすぐにでも! 一緒に……帰れるよ?

 さっきのキスの続きがしたいって思ってるの、私だけじゃ、ないよ、ね?

 ファーストキスが温和はるまさじゃなかったと思い出してしまったのは、正直私にとってすごくションボリすることだったけど。

 でも、過去は変えられないから。

 だからそれを忘れるくらい沢山沢山、私にキスをしてください。
 お願い、温和はるまさ

 過去に一瞬引きずられかけて震えそうになった足にグッと力を入れると、私は温和はるまさにニコッと微笑みかけた。
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