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(17)サイン会ハプニング
料理上手
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***
夕飯がまだだった信武がとりあえず何か食うもん……と思って台所へ行くと、アイランドキッチンの天板の上に皿が乗っていて、レンコンのきんぴらやおからの炒り煮、酢豚などがワンプレート料理になってふんわりとラップがかけられていた。
炊飯器は保温後四時間を現す「4H」を表示していて。
今の時刻から換算するに、日和美の帰宅時間の十九時頃に合わせて炊かれたご飯だと分かった。
それを茶碗によそって、プレートを電子レンジで温めたらいいだけにしてある心遣いが有難くて。
ラップがかかったままの皿を電子レンジに入れながらふと視線を転じたら、日和美も同じものを食べたのだろう。
今レンジに入れたばかりのプレートと同じ白い皿と、信武のとペアになった夫婦茶碗が綺麗に洗われて流しの水切りかごに立てかけられていた。
そう言えば、昨夜はそういう生活の気配が全く感じられなかったから、もしかしたら日和美は食事も喉を通らないくらい思い悩んでいたのかも知れない。
そう思い至った信武は、日和美にちゃんと萌風もふとの関係を話さねぇとな、と嘆息して――。
(あー、けどなぁ)
そうすると必然的に打ち明けねばならないことが芋づる式にズルズルと出てくることを思って、軽くめまいを覚えてしまう。
日和美は一連のあれこれを全部打ち明けた時、自分のことをどう思うだろうか?
そんなことを取り留めもなく考えて、無意識に吐息が零れ落ちる。
と、電子レンジが仕上がりの音楽を鳴らしてきて、信武は頭を軽く振って気持ちを切り替えた。
(ま、なるようにしかなんねぇだろ)
いずれにしても、信武は折角手に入れた日和美を手放すつもりはない。
そこだけはっきりしてりゃ、十分だろ……と思った。
***
「あ、そう言えば信武さん、『ある茶葉店店主の淫らな劣情』、読み終わりましたよ」
お互い好き同士のはずなのに、日和美の月のもののせいで今まで通り添い寝のみで悶々とした一夜を明かした翌朝。
そんな信武とは真逆でよく眠れたのだろう。すっきりとした表情でほかほかのクロワッサンをちぎりながら、日和美がニコッと微笑んだ。
今日の朝食は少し大きめのクロワッサンと、カボチャのポタージュスープ、目玉焼き、ハーブ入りソーセージ、サラダ……と言った、ホテルの朝食みたいなお洒落な洋食。
クロワッサンは日和美の職場近くにあるパン屋の人気定番商品を、昨日仕事帰りに買っておいたらしい。
それは、軽くトーストしただけでバターの香りがふわりと広がる、食欲をそそられる三日月パンだった。
ポタージュスープは、日和美があらかじめ一口大に切って蒸かしていたカボチャを冷凍庫から数欠片取り出してレンジで解凍した後、牛乳とコンソメを入れてミキサーにかけてから鍋で温めたものだ。
スープカップの中でふわりふわりと湯気をくゆらせるトロリとしたスープの表面には、乾燥パセリまで散らされているという憎らしさ。
それに加えてクロワッサン横。
美味しそうに軽く焦げ目の付けられたハーブ入りソーセージも日和美の手作りだと聞いた時には、信武は心底驚いて。
「あ。って言っても腸とか買えなかったのでラップに包んで蒸しただけの皮なしソーセージなんですけどね」
何でも豚ミンチに香草やスパイスを入れて一晩寝かせたものを、ラップに包んで蒸したものが冷凍してあったらしい。
それを取り出してレンジで温めてから、フライパンで焼き目を付けたのだと言う。
それだけでも十分なのに、キュウリやレタス、ミニトマトを添えたサラダに、目玉焼きまで付けてくれて……。
若いのに、日和美は本当に手際よく料理をする女性だなと改めて感心した信武だ。
夕飯がまだだった信武がとりあえず何か食うもん……と思って台所へ行くと、アイランドキッチンの天板の上に皿が乗っていて、レンコンのきんぴらやおからの炒り煮、酢豚などがワンプレート料理になってふんわりとラップがかけられていた。
炊飯器は保温後四時間を現す「4H」を表示していて。
今の時刻から換算するに、日和美の帰宅時間の十九時頃に合わせて炊かれたご飯だと分かった。
それを茶碗によそって、プレートを電子レンジで温めたらいいだけにしてある心遣いが有難くて。
ラップがかかったままの皿を電子レンジに入れながらふと視線を転じたら、日和美も同じものを食べたのだろう。
今レンジに入れたばかりのプレートと同じ白い皿と、信武のとペアになった夫婦茶碗が綺麗に洗われて流しの水切りかごに立てかけられていた。
そう言えば、昨夜はそういう生活の気配が全く感じられなかったから、もしかしたら日和美は食事も喉を通らないくらい思い悩んでいたのかも知れない。
そう思い至った信武は、日和美にちゃんと萌風もふとの関係を話さねぇとな、と嘆息して――。
(あー、けどなぁ)
そうすると必然的に打ち明けねばならないことが芋づる式にズルズルと出てくることを思って、軽くめまいを覚えてしまう。
日和美は一連のあれこれを全部打ち明けた時、自分のことをどう思うだろうか?
そんなことを取り留めもなく考えて、無意識に吐息が零れ落ちる。
と、電子レンジが仕上がりの音楽を鳴らしてきて、信武は頭を軽く振って気持ちを切り替えた。
(ま、なるようにしかなんねぇだろ)
いずれにしても、信武は折角手に入れた日和美を手放すつもりはない。
そこだけはっきりしてりゃ、十分だろ……と思った。
***
「あ、そう言えば信武さん、『ある茶葉店店主の淫らな劣情』、読み終わりましたよ」
お互い好き同士のはずなのに、日和美の月のもののせいで今まで通り添い寝のみで悶々とした一夜を明かした翌朝。
そんな信武とは真逆でよく眠れたのだろう。すっきりとした表情でほかほかのクロワッサンをちぎりながら、日和美がニコッと微笑んだ。
今日の朝食は少し大きめのクロワッサンと、カボチャのポタージュスープ、目玉焼き、ハーブ入りソーセージ、サラダ……と言った、ホテルの朝食みたいなお洒落な洋食。
クロワッサンは日和美の職場近くにあるパン屋の人気定番商品を、昨日仕事帰りに買っておいたらしい。
それは、軽くトーストしただけでバターの香りがふわりと広がる、食欲をそそられる三日月パンだった。
ポタージュスープは、日和美があらかじめ一口大に切って蒸かしていたカボチャを冷凍庫から数欠片取り出してレンジで解凍した後、牛乳とコンソメを入れてミキサーにかけてから鍋で温めたものだ。
スープカップの中でふわりふわりと湯気をくゆらせるトロリとしたスープの表面には、乾燥パセリまで散らされているという憎らしさ。
それに加えてクロワッサン横。
美味しそうに軽く焦げ目の付けられたハーブ入りソーセージも日和美の手作りだと聞いた時には、信武は心底驚いて。
「あ。って言っても腸とか買えなかったのでラップに包んで蒸しただけの皮なしソーセージなんですけどね」
何でも豚ミンチに香草やスパイスを入れて一晩寝かせたものを、ラップに包んで蒸したものが冷凍してあったらしい。
それを取り出してレンジで温めてから、フライパンで焼き目を付けたのだと言う。
それだけでも十分なのに、キュウリやレタス、ミニトマトを添えたサラダに、目玉焼きまで付けてくれて……。
若いのに、日和美は本当に手際よく料理をする女性だなと改めて感心した信武だ。
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