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(18)すべての真実
泊まれる準備をして待ってろ
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「日和美、今日は休みか?」
私服で……しかもこの長蛇の列の最後の最後に現れたということは、恐らくそういうことなんだろう。
いくら長いこと会えなかった信武のサイン会だからと言って、日和美が就業中にこういうことをするとは思えなかったから。
自分に今日休日だったことを教えてくれなかったのは、もしかしたら日和美なりのサプライズのつもりだったのかも知れない。
(あー、くそっ。……折角日和美が会いに来てくれたっちゅーのに……変に驚かせちまったじゃねぇかっ)
あらかじめ日和美が来ることを知っていたら、茉莉奈をどうにかすることだって出来たかも知れない。
今更なことを思いながら、それでも一応確認してみた信武に、日和美が心ここにあらずな雰囲気のままコクリとうなずくから。
信武はそれを踏まえた上で話を続けた。
「だったら……泊まれる準備してアパートで待っててくれ。色々片付け次第必ず迎えに行く」
呆然と立ち尽くしたままの日和美が、中途半端に差し出していた本を引っ手繰るようにして奪い取ると、信武はサインを走り書きして、頼まれてもいないのにその横へメッセージを添えた。
「泊ま、れる準備……?」
信武が本をパタリと閉じて差し戻したと同時、日和美がそれを受け取りながらポツンとつぶやくから。
「ああ、泊まりだ。今夜、俺ん家で全部ちゃんと説明すっから。って言うかさせろ」
強気にそこまで言ってみたものの、前にこんなことがあった時、日和美が弁解もさせてくれずに心を閉ざしたのを思い出してにわかに不安になった信武だ。
「その……間違っても前みたいにシャットアウトだけはしてくれるな? ……分かったな?」
それで声のトーンを低めて窺うような口調でそう懇願したら、日和美が寸の間逡巡してから……それでも「……分かりました」と言ってくれて。
信武はガラにもなく心底ホッとした。
一ファンへの対応とは明らかに違うそのやり取りの最中、茉莉奈が何も言ってこないところを見ると、彼女も目の前にいる日和美の正体を察してくれたんだろう。
決してファンの前で信武が〝俺〟と称することを許さなかったはずの茉莉奈が、黙って成り行きを見守ってくれていることがその何よりの証に思えた。
幸い日和美が最後尾に並んでいてくれたことも功を奏したに違いない。
これが、日和美の後ろにまだ別のファンが並んでいるような状況だったなら、例え相手がずっと長いこと信武が気にかけていた女性だと気が付いていても、茉莉奈は今みたいな私的なやり取りを絶対に許さなかったはずだ。
日和美がサイン本を胸に抱えて信武を不安そうな顔で見詰めてくるから。
信武は日和美に〝大丈夫だから〟とうなずいて見せる。
書いているとき、日和美が見ていたかどうかは分からないが、いま彼女に手渡したサイン本に書き添えた『お前のことが好きだ。俺を信じろ』と言うメッセージに嘘偽りはない。
私服で……しかもこの長蛇の列の最後の最後に現れたということは、恐らくそういうことなんだろう。
いくら長いこと会えなかった信武のサイン会だからと言って、日和美が就業中にこういうことをするとは思えなかったから。
自分に今日休日だったことを教えてくれなかったのは、もしかしたら日和美なりのサプライズのつもりだったのかも知れない。
(あー、くそっ。……折角日和美が会いに来てくれたっちゅーのに……変に驚かせちまったじゃねぇかっ)
あらかじめ日和美が来ることを知っていたら、茉莉奈をどうにかすることだって出来たかも知れない。
今更なことを思いながら、それでも一応確認してみた信武に、日和美が心ここにあらずな雰囲気のままコクリとうなずくから。
信武はそれを踏まえた上で話を続けた。
「だったら……泊まれる準備してアパートで待っててくれ。色々片付け次第必ず迎えに行く」
呆然と立ち尽くしたままの日和美が、中途半端に差し出していた本を引っ手繰るようにして奪い取ると、信武はサインを走り書きして、頼まれてもいないのにその横へメッセージを添えた。
「泊ま、れる準備……?」
信武が本をパタリと閉じて差し戻したと同時、日和美がそれを受け取りながらポツンとつぶやくから。
「ああ、泊まりだ。今夜、俺ん家で全部ちゃんと説明すっから。って言うかさせろ」
強気にそこまで言ってみたものの、前にこんなことがあった時、日和美が弁解もさせてくれずに心を閉ざしたのを思い出してにわかに不安になった信武だ。
「その……間違っても前みたいにシャットアウトだけはしてくれるな? ……分かったな?」
それで声のトーンを低めて窺うような口調でそう懇願したら、日和美が寸の間逡巡してから……それでも「……分かりました」と言ってくれて。
信武はガラにもなく心底ホッとした。
一ファンへの対応とは明らかに違うそのやり取りの最中、茉莉奈が何も言ってこないところを見ると、彼女も目の前にいる日和美の正体を察してくれたんだろう。
決してファンの前で信武が〝俺〟と称することを許さなかったはずの茉莉奈が、黙って成り行きを見守ってくれていることがその何よりの証に思えた。
幸い日和美が最後尾に並んでいてくれたことも功を奏したに違いない。
これが、日和美の後ろにまだ別のファンが並んでいるような状況だったなら、例え相手がずっと長いこと信武が気にかけていた女性だと気が付いていても、茉莉奈は今みたいな私的なやり取りを絶対に許さなかったはずだ。
日和美がサイン本を胸に抱えて信武を不安そうな顔で見詰めてくるから。
信武は日和美に〝大丈夫だから〟とうなずいて見せる。
書いているとき、日和美が見ていたかどうかは分からないが、いま彼女に手渡したサイン本に書き添えた『お前のことが好きだ。俺を信じろ』と言うメッセージに嘘偽りはない。
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