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■僕惚れ②『温泉へ行こう!』
ハプニング1
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迂闊、だった……。
同じフロアにあるし、大丈夫だよねと思って一人で出てきたけれど、実は私は結構な方向音痴で――。
この旅館は一階だけでも四棟の宿泊棟と、本館の大浴場、売店スペース、果ては宴会場などに枝分かれしていて、私たちが泊まっている露天風呂付の客室はその中でも結構奥まった場所に位置していた。
理人と一緒に歩いたときには何とも思わなかったけれど、立地によっては数段の階段を上がり下りしたり、スロープ状の通路を歩いたりしなくてはいけない。
棟の境目にはそれと分かる継ぎ目が残っていて、床や天井の様相がそこを境に変化する。
そういうところを進む方向の確信もないままにウロウロしているうちに、私はすっかり迷子になってしまった。
天井や壁面に設置された標識や館内案内図を見ても、大まかな現在地しか把握できなくて……。
いったい自分がどう動けば売店に向かえるのか……はたまたどちらに進めば元居た部屋に戻れるのか、さっぱり分からなくなってしまった。
恥ずかしいけれど理人にSOSを出すしかないのかも。
そこまで考えて、でも……と思う。
彼の性格を考えると、目覚めていて連絡をよこさないことは考えられなかった。未だ何のリアクションもないと言うことは、理人はまだ眠っている可能性が高い。
だとしたら起こすの、申し訳ないな。
あれこれ考えて、スマホを手に立ち尽くしていたら、突然後ろから呼びかけられた。
「……丸山?」
不安で堪らなかったところに聞きなれた声が聞こえて、ゆっくり振り返ると、正木くんが立っていた。
知人に出会えたという安心感で気が緩んだ私は、へなへなと脱力してその場にへたり込んでしまう。
「えっ、ちょっとどうしたんだよ!? 大丈夫か?」
いきなり座り込んでしまった私に、正木くんが心配して駆け寄ってくる。
「ご、ごめんなさい……。ちょっと正木くんの顔見たらホッとしちゃって……」
地べたに這いつくばったまま彼のほうを見上げてそう答えると、期せずして瞳から、涙がポロリと零れ落ちた。
「……え? ……あ、あれ?」
びっくりしてしまった。
泣くつもりなんて微塵もなかったし、こんなところでいきなり泣かれても彼も困るだろう。
急いでごしごしと涙を拭ったけれど、一度堰を切ったそれはなかなか止まってくれなくて。
「とりあえず、こっちに」
正木くんは通路の壁に縋るようにして崩れ落ちた私の手を引いて立ち上がらせてくれると、少し奥まった死角に連れて行ってくれた。
さすがにあのままは誰か通りかかったら目立つし、私が恥ずかしい思いをすると気を遣ってくれたんだろう。
壁を背にして何とか立つ私を隠すように、正木くんが前に立ちはだかってくれる。
「ごめんね」
ややして落ち着きを取り戻すと、私は彼に謝罪の言葉を述べる。
「いや、それはいいんだけど……丸山、一人でどうしたんだよ?」
正木くんは仁王立ちで私をじっと見据えてから、探るように付け加える。
「――彼氏は?」
「え?」
「だから、池本さんだっけ? あの人はどうしたの?」
丸山一人で行動してるとか有り得ねぇだろ、と言われた。
同じフロアにあるし、大丈夫だよねと思って一人で出てきたけれど、実は私は結構な方向音痴で――。
この旅館は一階だけでも四棟の宿泊棟と、本館の大浴場、売店スペース、果ては宴会場などに枝分かれしていて、私たちが泊まっている露天風呂付の客室はその中でも結構奥まった場所に位置していた。
理人と一緒に歩いたときには何とも思わなかったけれど、立地によっては数段の階段を上がり下りしたり、スロープ状の通路を歩いたりしなくてはいけない。
棟の境目にはそれと分かる継ぎ目が残っていて、床や天井の様相がそこを境に変化する。
そういうところを進む方向の確信もないままにウロウロしているうちに、私はすっかり迷子になってしまった。
天井や壁面に設置された標識や館内案内図を見ても、大まかな現在地しか把握できなくて……。
いったい自分がどう動けば売店に向かえるのか……はたまたどちらに進めば元居た部屋に戻れるのか、さっぱり分からなくなってしまった。
恥ずかしいけれど理人にSOSを出すしかないのかも。
そこまで考えて、でも……と思う。
彼の性格を考えると、目覚めていて連絡をよこさないことは考えられなかった。未だ何のリアクションもないと言うことは、理人はまだ眠っている可能性が高い。
だとしたら起こすの、申し訳ないな。
あれこれ考えて、スマホを手に立ち尽くしていたら、突然後ろから呼びかけられた。
「……丸山?」
不安で堪らなかったところに聞きなれた声が聞こえて、ゆっくり振り返ると、正木くんが立っていた。
知人に出会えたという安心感で気が緩んだ私は、へなへなと脱力してその場にへたり込んでしまう。
「えっ、ちょっとどうしたんだよ!? 大丈夫か?」
いきなり座り込んでしまった私に、正木くんが心配して駆け寄ってくる。
「ご、ごめんなさい……。ちょっと正木くんの顔見たらホッとしちゃって……」
地べたに這いつくばったまま彼のほうを見上げてそう答えると、期せずして瞳から、涙がポロリと零れ落ちた。
「……え? ……あ、あれ?」
びっくりしてしまった。
泣くつもりなんて微塵もなかったし、こんなところでいきなり泣かれても彼も困るだろう。
急いでごしごしと涙を拭ったけれど、一度堰を切ったそれはなかなか止まってくれなくて。
「とりあえず、こっちに」
正木くんは通路の壁に縋るようにして崩れ落ちた私の手を引いて立ち上がらせてくれると、少し奥まった死角に連れて行ってくれた。
さすがにあのままは誰か通りかかったら目立つし、私が恥ずかしい思いをすると気を遣ってくれたんだろう。
壁を背にして何とか立つ私を隠すように、正木くんが前に立ちはだかってくれる。
「ごめんね」
ややして落ち着きを取り戻すと、私は彼に謝罪の言葉を述べる。
「いや、それはいいんだけど……丸山、一人でどうしたんだよ?」
正木くんは仁王立ちで私をじっと見据えてから、探るように付け加える。
「――彼氏は?」
「え?」
「だから、池本さんだっけ? あの人はどうしたの?」
丸山一人で行動してるとか有り得ねぇだろ、と言われた。
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