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■僕惚れ②『温泉へ行こう!』

ハプニング2

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「あ、……彼は……その、まだ寝てるの」
 それで一人で売店に行こうとしたら迷子になっちゃって……と続けようとしたら、いきなり顔の横にドン!と手を付かれた。……おまけにあごつかまれて顔を上向けられてしまう。

「え、ちょッ、何!?」
 びっくりして顔に掛けられた手を払いのけたら、「キスマーク」とぶっきら棒な口調で言われた。

「え?」
 一瞬何のことを言われたのか分からなくてきょとんとしたら、正木まさきくんは自分の首元を指差して「首にあざ」と言った。

 さっき、顔を上向けられたのは、痣を見るため?
 得心とくしんはいったものの、彼の台詞に私は顔が熱くなるのを感じた。

「う、うそ……」
「嘘じゃねぇよ。くっきり付いてんだろ、キスマーク」
 少なくとも昨日夕飯食いに桜庵さくらあんへ来たときにはなかった、とつぶやかれ。

 正木くんがそこまでよく私を観察していたことに驚いてしまう。

「あ、こ、これは……」
 言い訳しようにも何も思い浮かんでこなくて口ごもる。

「いや、別にさ、俺に言い訳する必要はないだろ。ただ――」
 そこで私の瞳をじっと見つめると、「その彼、本当に丸山のこと、大事に思ってるの?」と聞かれた。

 そんなことを言われたのは初めてで。

「何でそんなこと、言うの?」
 理人りひとが私を大切に思っていないはずがない。
 不安になるようなこと言わないでよ。

 正木くんの言葉に、私は段々腹が立ってきて、彼をキッと睨みつけた。

「んな怖い顔すんなって。たださぁ、そんな目立つところにキスマークつけるとか……自己顕示欲の固まりすぎるだろ。丸山が恥ずかしい思いするかも、とか考えられてねえって事だろうし」 

 そこまで言って、正木くんは
「俺ならそんなこと、絶対にしない」

 そう、断言する。

 確かに言われて見れば正木くんの言葉には一理あって……でも、でも、と思ってしまう。

「わ、私! 嫌じゃない……っ!」
 理人にこういうことをされるの。

 首筋のキスマークを押さえながら正木くんの目を負けじと見つめ返した。

「そっか……。なら」
 正木くんの顔が首筋に迫ってきて――。

 私はびっくりして彼を押し戻す。
「いや!」
 はっきりと拒絶の声を発したら、
「こう言うのされるの、いやじゃないんだろ?」

 耳元で、そう、ささやかれた。
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