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17.出しっぱなしのカップ
置き去りの気持ち
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偉央は結葉のために動物病院から持ち帰った小箱やビニール袋を玄関先に置くと、怯えた顔で自分を見上げる結葉をじっと見下ろした。
そんな二人の横、箱の中からカサカサと微かな音が聞こえている。
「結葉、まさか僕に隠れて彼とうちで密会してたわけじゃないよね?」
あの男からの話を信じるならば、想と結葉が水道管のことで話をしていたのは一階の共有ロビーで、ここに二人でいたのは結葉が途中で体調を崩したから、ということだった。
それを鵜呑みにしてもいいのか?という意味を込めて問いかけたら、結葉が消え入りそうな声で「密会なんて……してません。そ、それに……家の中にも入れたり、してません。……こ、コンシェルジュさんたちに聞いて下さっても……構わ、ない。だから……お願い、信じてっ……」と涙目になる。
偉央だって鬼じゃない。
こんな、今にも倒れてしまいそうな雰囲気の結葉に無体なことをする気はさらさらなかった。
さっき想に牽制された言葉が心の中に引っかかっていて、誰か第三者に結葉のことをどうこうされるくらいなら、自分が頼ってもらえるように結葉に信頼されたい、とも思っていて。
「――分かった。信じるよ」
いつになく寛大な気持ちでそう言って、さっき床に置いた箱を取り上げると、結葉に手渡す。
「随分前に約束したのにキミのご両親の海外赴任やなんかであやふやになってしまって。遅くなって悪かったね。――開けてごらん?」
となるべく優しく声を掛けた。
結葉はそんな偉央をオロオロとした目で見上げて。
そうして、恐る恐る箱のふたを開けた。
「ハム、スター……?」
小さくつぶやく声に、偉央が頷く。
「うちのスタッフのところで生まれたのを一匹もらえるよう頼んでたんだ。今日もらう約束になってたんだけどね、この雪だし延期かなって思って。――期待させといて連れ帰れなかったらガッカリさせるだろう? だから今朝、キミには言わずに出たんだ」
そう前置きをして偉央が続ける。
「けど案外律儀な子でさ、ちゃんと約束通り連れてきてくれてね。すぐ結葉に見せてやりたかったんだけどこの雪だ。足元も悪いし、キミに連れにおいでとは言えなかった」
だから、自分がほんのちょっと職場を抜ける形で連れ帰ってきたのだと言う。
「猫や犬も考えたけど……やっぱり飼い慣れた生き物の方がいいだろう?」
偉央のその声に、結葉は無言で福助に似たゴールデンハムスターの子供を見詰める。
福助が死んでしまってから、確かに結葉は寂しくてたまらなかった。
けれど、彼女がその穴を埋めるために本心から望んだのは猫でも犬でも……ましてやハムスターでもなかったから。
偉央との赤ちゃんを希望して拒絶されたことを思い出した結葉は、何も言えなくなってしまう。
こうやって、偉央はまた結葉の本心なんて全部まるっと置き去りにしてしまうんだと思ったら、悲しくてたまらなかった。
「結葉? 嬉しくないの?」
何も言わなかったから、偉央を不審がらせてしまったらしい。
結葉は慌てて「ううん、ちょっとびっくりしただけ」と取り繕ってから、色んな気持ちを押し殺してただ一言、「可愛い」と付け加えた。
偉央は結葉のために動物病院から持ち帰った小箱やビニール袋を玄関先に置くと、怯えた顔で自分を見上げる結葉をじっと見下ろした。
そんな二人の横、箱の中からカサカサと微かな音が聞こえている。
「結葉、まさか僕に隠れて彼とうちで密会してたわけじゃないよね?」
あの男からの話を信じるならば、想と結葉が水道管のことで話をしていたのは一階の共有ロビーで、ここに二人でいたのは結葉が途中で体調を崩したから、ということだった。
それを鵜呑みにしてもいいのか?という意味を込めて問いかけたら、結葉が消え入りそうな声で「密会なんて……してません。そ、それに……家の中にも入れたり、してません。……こ、コンシェルジュさんたちに聞いて下さっても……構わ、ない。だから……お願い、信じてっ……」と涙目になる。
偉央だって鬼じゃない。
こんな、今にも倒れてしまいそうな雰囲気の結葉に無体なことをする気はさらさらなかった。
さっき想に牽制された言葉が心の中に引っかかっていて、誰か第三者に結葉のことをどうこうされるくらいなら、自分が頼ってもらえるように結葉に信頼されたい、とも思っていて。
「――分かった。信じるよ」
いつになく寛大な気持ちでそう言って、さっき床に置いた箱を取り上げると、結葉に手渡す。
「随分前に約束したのにキミのご両親の海外赴任やなんかであやふやになってしまって。遅くなって悪かったね。――開けてごらん?」
となるべく優しく声を掛けた。
結葉はそんな偉央をオロオロとした目で見上げて。
そうして、恐る恐る箱のふたを開けた。
「ハム、スター……?」
小さくつぶやく声に、偉央が頷く。
「うちのスタッフのところで生まれたのを一匹もらえるよう頼んでたんだ。今日もらう約束になってたんだけどね、この雪だし延期かなって思って。――期待させといて連れ帰れなかったらガッカリさせるだろう? だから今朝、キミには言わずに出たんだ」
そう前置きをして偉央が続ける。
「けど案外律儀な子でさ、ちゃんと約束通り連れてきてくれてね。すぐ結葉に見せてやりたかったんだけどこの雪だ。足元も悪いし、キミに連れにおいでとは言えなかった」
だから、自分がほんのちょっと職場を抜ける形で連れ帰ってきたのだと言う。
「猫や犬も考えたけど……やっぱり飼い慣れた生き物の方がいいだろう?」
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福助が死んでしまってから、確かに結葉は寂しくてたまらなかった。
けれど、彼女がその穴を埋めるために本心から望んだのは猫でも犬でも……ましてやハムスターでもなかったから。
偉央との赤ちゃんを希望して拒絶されたことを思い出した結葉は、何も言えなくなってしまう。
こうやって、偉央はまた結葉の本心なんて全部まるっと置き去りにしてしまうんだと思ったら、悲しくてたまらなかった。
「結葉? 嬉しくないの?」
何も言わなかったから、偉央を不審がらせてしまったらしい。
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