【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

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17.出しっぱなしのカップ

懐かしい笑顔

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「あの、偉央いおさん、私……」

 結葉ゆいは偉央いおから手渡されたパジャマを受け取りながら、甲斐甲斐しく自分の世話を焼いてくれる偉央いおに、申し訳なくて堪らなくなる。

 思わず、「寝込むほど体調、悪くないんです」と言おうとして、偉央いおに「ん?」と聞かれた途端、言葉に詰まった。

 馬鹿正直に「そんなに辛くないの」と告げてしまったら、「じゃあ何で幼馴染みの彼に玄関先まで付き添ってもらったの?」と聞かれてしまうと思い至ったからだ。

 言えるわけない、と先の言葉を飲みこんだ結葉ゆいはは、
「……ごめんなさい」
 と、自分の仮病に振り回されてしまっている偉央いおに、謝罪の言葉を述べるだけに留めた。

 そもそも、いま偉央いおは診察時間のはずなのだ。
 こんなところで結葉ゆいは相手に油を売っている場合ではないのでは?

 そう思ってソワソワと偉央いおを見つめたら、

「仕事のことを気にしてくれてる?」

 ふっと柔らかく、偉央いおに笑いかけられた。
 その笑顔は結葉ゆいは偉央いおと付き合い始めたばかりの頃にはよく自分に向けられていた懐かしい笑みで。

偉央いおさん……)

 結葉ゆいはは、この笑顔を長いこと見ていなかったことに気が付いて、胸がキュッと切なくうずいた。

(私たちはどこで間違えてしまったの?)

 泣きそうな目で偉央いおを見上げたら、
「そんなに気にしなくて大丈夫だよ、結葉ゆいは。この雪で今日は患者もほとんど来ないんだ。ハムスターのこともあったし、何かあったら連絡もらえるよう受け付けに言って、少し抜けてきただけだから。――こう言うことができるのってさ、やっぱり家が職場の前だからこそ、だよね」

 そこまで言ってスッと瞳をすがめると、偉央いおの声のトーンがほんのすこし下がったのを感じた結葉ゆいはだ。

「それに……帰ってきたの、ある意味正解だったなって思うよ」

 それは、結葉ゆいはが弱っていたから面倒が見られて良かったという意味なのか、それともそうと一緒にいる現場を押さえることが出来て、間違いが起こるのを未然に防ぐことが出来て良かったという意味なのか。

 偉央いおの言葉の真意を測りかねて、結葉ゆいはは思わず俯いた。

 頭頂部を、偉央いおうかがうような視線が撫でている気がして、結葉ゆいははキュッと身体を縮こまらせる。


「――さぁ、部屋も暖まってきたし、着替えてベッドにお入り」

 チリチリとこめかみが痛むような、そんな張り詰めた空気を断ち切ったのは偉央いおのその言葉だった。

 結葉ゆいはは「はい」と小声で答えると、ロビーしたから上がってきた時のまま、着っぱなしになっていたコートをそろそろと脱いだ。
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