【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

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34.出て来ない結葉*

だからお願い。帰って来て?

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***


「ごちそうさま」

 偉央いおの声に、結葉ゆいはは「お粗末様でした」と答えて席を立って。

「片付けますね」

 そう声を掛けてベッドの方へ向けていたサイドテーブルを、トレイを載せたままキャスターのロックを解除してベッドを避けるように動かした。

偉央いおさん、今度こそ横になって身体を休めていてください。私、食器を洗ってきますので」

 ベッド横の定位置にサイドテーブルを固定すると、自分が使っていた湯呑みをトレイに一緒に載せて、偉央いおの方を振り返る。



「――っ!」

 それと同時、いきなり強く手を引かれて、結葉ゆいは偉央いおの腕の中に抱きしめられていた。

 食事の間中、偉央いおが纏う穏やかな空気感に完全に油断していた結葉ゆいはは、突然のことに何が起こったのか理解出来なくて。
 悲鳴すら上げられないまま偉央いおに捕まえられてしまう。

「――あ、あのっ、偉央いお、さっ」

 偉央いおの腕の中に閉じ込められた事で、嫌と言うほど嗅ぎ慣れた偉央いおの香りが、結葉ゆいはの鼻腔に流れ込んできた。

 〝偉央いおの香り〟と言っても、偉央いおは仕事柄香水などをつけるタイプではない。

 だから偉央いおから漂ってくるのは、いつも彼が身に纏っている服に使われた洗剤や、ボディソープの香りに、彼自身の体臭がほんの少し混ざった感じの仄かなものだ。

 同じ石鹸を使って身体を洗っていた時ですら、自分とは違って感じられた偉央いおのにおいだったけれど、こんな風に弱っている時でさえも、彼は汗臭かったりしなかった。


 思えば、偉央いおは仕事から帰ると真っ先にシャワーで身体を清める男だった。

 家の中に病院からのアレコレを持ち込みたくないからだよと説明されたことがあるけれど、そのせいで必然的というべきか。
 家で偉央いおを待つ結葉ゆいはには、夫=風呂上がりの香りが定着してしまっていて。

 不意打ちのように偉央いおに抱きしめられた結葉ゆいはは、その香りとの相乗効果で、偉央いおにされた数々のことを思い出して恐怖心がブワリと再燃する。

 ギュッと身体を固くして、震える声で「偉央いおさ、お願っ……離して……」と懇願してみたけれど、聞こえているのかいないのか。
 偉央いおは一向に腕を緩めてくれないのだ。

 しかも、何度呼びかけても偉央いおが何も言ってくれないから、怖くて堪らない結葉ゆいはだ。


「……、さん……」

 震える手でグッと偉央いおの身体を自分から引き剥がそうとしてみた結葉ゆいはだったけれど、偉央いおの力は思いのほか強くてびくともしない。

「お願い、離し、て……」

 さっきまでの凪いだ気持ちが嘘みたいに、結葉ゆいはの心は千々に乱れて嵐の中に放り込まれたみたいな錯覚を覚えている。



 ややして――。

「今まではずっと要らないって言い続けてきたけど……」

 結葉ゆいはが必死にもがくのを封じたまま、偉央いお譫言うわごとのようにつぶやいた。

 耳元近くで発せられた、あまり抑揚よくようの感じられない偉央いおの低音ボイスに、結葉ゆいはの恐れは否が応でも高まってしまう。

 それは、結葉ゆいはを散々苦しめてきた、〝怖い時〟の偉央いおの声そのものだったから。

 偉央いおの腕の中、小動物のように小さくなって震える結葉ゆいはに、偉央いおが静かに語りかける。

「もしも……。もしも僕が子供を作ってもいいって言ったら……結葉ゆいはの憂いはひとつ消えるよね?」

「こ、ども……?」

 偉央いおの発した言葉の意味が分からなくて、結葉ゆいはは彼のセリフを無意識につぶやいて。

 それと同時、くるりと向きを変えた偉央いおにベッドに押し倒される。

「やっ、――偉央いおさっ……、ん、んーっ!」

 偉央いおに組み敷かれて唇を強引に塞がれて初めて。
 結葉ゆいは偉央いおが発した言葉の意味を明確に理解した。


結葉ゆいは、いまから僕らの子供を作ろうか。子供はきっとかすがいになってくれるはずだから」

 強引な口づけを解いた偉央いおからそう宣言された結葉ゆいはは、必死に首を振る。

「いやっ。……だって偉央いおさんっ、私たちもう……」

「うん。壊れかけてる。だからこそ、だよ」

 偉央いおの目を見て、結葉ゆいはは彼が本気でこんなことを言い出したんだと悟って。

 一生懸命偉央いおの下から逃れようと暴れてみたけれど、偉央いおはびくともしなかった。

結葉ゆいは、安心して? 今日は……いや、これからはずっと。酷くしたりしないから。ちゃんとキミを気持ち良くして――」

 話しながら偉央いおの手が結葉ゆいはの身体に伸びてくる。

 今日は先ほどキッチンで脱いだコートの下に、オフホワイトのダボっとしたハイネックチュニックを着て、下着がわりのヒートテックを重ねて薄着のわりに暖かい格好にしてきた結葉ゆいはだ。
 そのトップスに合わせたのはベロア素材のプリーツスカート。

 偉央いおに、頬から首、胸から腹部、そうしてその下へと身体に沿って手を這い下ろされた結葉ゆいはは、全身を震わせて、ジタバタともがいた。

 その動きのせいでプリーツスカートの裾がまくれて膝上ひざうえ辺りまで二の足がむき出しになってしまう。


「ココもしっかり濡らしてから挿入いれるから」

 スカートの上から秘所の辺りをそろりと撫でられた結葉ゆいはは、恐怖で動けなくなる。

「ぃやっ……」

 涙目で偉央いおを見上げて、掠れたか細い声音でイヤだと意思表示をしてみたけれど、偉央いおにやめる気はないようで。

「まだ離婚届、出してないんだよね? だったら間に合うじゃないか。ねぇ結葉ゆいは、子供と僕とキミの三人でやり直そうよ。キミが僕の子供をもう無理に閉じ込めたりしないし、キミの行動にも目をつぶるって約束する。だから――」

 そこで偉央いおにギュウッと抱きしめられた結葉ゆいはは、耳元で小さく「帰ってきて、お願い……」とささやくように偉央いおが懇願する声を聴いた。
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