【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

文字の大きさ
202 / 228
37.それぞれの再出発

夜のドライブ

しおりを挟む
「えっ、な、んでそんなこと……」

「違うのか?」

 もしそうじゃなければ、結葉ゆいはがこんなに長いこと返事が出来ない理由は〝断りづらいから〟になってしまう。

 そうとしてはそんな風には思いたくないのだ。

「違っ、……わ、ない」

 明らかに一瞬「違う」と言おうとして。
 だけどそうの真剣な目を見た途端、良くも悪くも馬鹿がつくぐらい真面目で正直な結葉ゆいはは、嘘がつけなくなってしまったらしい。

「――ごめんなさい、そうちゃん。私、本当に煮え切らないね」

 言いながら、結葉ゆいはがとても申し訳なさそうにしゅんとして謝るから、そうとしてはその先に踏み込みづらくなってしまった。

「……なぁ結葉ゆいは。何がお前の気持ちに歯止めを掛けてんのか、俺に話してくんねぇか?」

 結葉ゆいはに気付かれないよう小さく吐息を落とすと、

「俺にはそれを聞く権利があると思うんだ」

 そうは、結葉ゆいはをじっと見つめた。


***


「――場所、移してからでもいい?」

 そうの真剣な眼差しに、結葉ゆいははとうとう観念したのだけれど。

 いま二人がいるのは山波家やまなみけのキッチン。

 たまたまみんな他所にいてこの場にいないけれど、いつ誰が来てもおかしくない共有スペースで話すのは、さすがにはばかられてしまった。

 結葉ゆいはは、「出来れば二人きりで話せる場所に移りたいの」と、そうを不安に揺れる目で見上げる。

「だったら……少し見せたいモンもあるし、ちょっと外に出ないか?」

 そうの部屋は公宣きみのぶと純子の主寝室に近い。
 かといって結葉ゆいはの部屋はせりの部屋の隣だったから。

 夕飯後、各々が自分達の部屋で思い思いに過ごしている時間帯ではあったけれど、ゆっくり話すなら家を出た方が良いと、そうは判断したらしい。

「夜に勝手に家を出ても平気……?」

 まだ、偉央いおの監視下にあった時の癖が抜け切らない結葉ゆいはは、オロオロとそうを見上げて。

「声掛けりゃ平気だろ」

 一応同居している手前、何も言わずに抜け出すのはそうも良くないと思ったらしい。


 言うが早いか、そうは廊下に出て、階段下から二階に向かって声を張り上げた。

「なぁ! 俺、結葉ゆいはとちょっとドライブしてっから!」

「――こんな夜にぃ~?」

 そうの呼びかけに、せりがひょこっと階段の上から顔を覗かせて。

 そうは「デートだよ、デート!」と、悪びれもせずに答えて、せりに意味深な表情をさせた。

 せりは――と言うよりこの家の家族みんなが――そう結葉ゆいはが想い合っていることに、何となく勘付いていたりする。
 なのに全然進展しないのは何らかの事情があるんだろうことも薄々察してくれている様で。


「とりあえず玄関、チェーンロックは掛けねぇようにしといて?」

 そうが言うと、「了解」とせりが答える。

「父さんと母さんは?」

「多分映画鑑賞中。そんな音がしてるから」

 公宣きみのぶと純子が、夜に二人で映画鑑賞に夢中になるのは珍しいことではないので、せりの言葉にそうは小さく頷いた。

「ならさ、もし聞かれたら父さんたちにも言っといてくれるか?」

OKおっけぇ~♪」

 せりが頭の上に両手で大きく輪を作るのを見届けると、そうは彼の背後で所在なく立ち尽くしたままの結葉ゆいはを振り返る。

「じゃ、行くぞ」

 言うなり、自分の手を取って歩き出すそうに、結葉ゆいはは「あのっ、行くってどこへ?」と問わずにはいられなくて。

「さっき言っただろ? ドライブだよ、ドライブ」

 玄関先に掛けてあった車のキーを手に取ってニヤリと悪戯っ子のような笑みを向けるそうに、結葉ゆいはは(その目的地を知りたいのに)と心の中で抗議する。

 声に出さなかったのは、きっとそうが、結葉ゆいはの言いたいことなんてお見通しのくせに、わざとはぐらかすような言い方をしていると分かっていたからだ。


***


 夜のドライブにそうが選んだのは、当然会社の軽トラではなく、そうの愛車――黒のヴォクシーだった。

 基本的に仕事以外で出かけるとき、そうはこの車に結葉ゆいはを乗せてくれるのだけれど、そうが乗っているヴォクシーは七人乗り仕様らしい。

 そう一人や、結葉ゆいはと二人だけだととても勿体無く思えてしまう。

「何か広すぎて落ち着かないね」

 今更のようにソワソワしながら結葉ゆいはが後部シートを眺めたら、「家族全員乗せるのにはいいんだけどな」とそうが言って。

「けどこの車おっきいから、そうちゃんとせりちゃん、公宣きみのぶさん、純子さん。全員で乗っても余裕だね」

 結葉ゆいはが三列目まであるシートを数えるようにして指を折ったら、

「俺はその中にお前も居たらいいとずっと思ってる」

 と静かな声音で返された。

「わ、たしも……?」

 ずっと好きだと言われ続けてきたのだから今更なのに、何だかそういう具体的な例を挙げられると、やたら照れてしまった結葉ゆいはだ。

 それを誤魔化すみたいに「それでもまだ二席余っちゃうねぇ~?」って努めて明るく笑ったら、「子供が出来たら足りなくなるんじゃね?」と言われて。

「こ、ども……っ?」

 まだそうの告白を受けるとも何とも答えられていないのに、そうがその先の未来を語るから、結葉ゆいははどうしたらいいのか分からなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜

入海月子
恋愛
「君といると曲のアイディアが湧くんだ」 昔から大ファンで、好きで好きでたまらない 憧れのミュージシャン藤崎東吾。 その人が作曲するには私が必要だと言う。 「それってほんと?」 藤崎さんの新しい曲、藤崎さんの新しいアルバム。 「私がいればできるの?私を抱いたらできるの?」 絶対後悔するとわかってるのに、正気の沙汰じゃないとわかっているのに、私は頷いてしまった……。 ********************************************** 仕事を頑張る希とカリスマミュージシャン藤崎の 体から始まるキュンとくるラブストーリー。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

処理中です...