【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

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37.それぞれの再出発

きっかけにして欲しい

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 そわつく気持ちを落ち着けたくて、窓外を流れる夜景を見つめながらオロオロと視線を彷徨さまよわせたら、背後から更に、そうの低められた声が被さってくる。

「なぁ結葉ゆいは。ひとつだけ先に聞かせてくれ」

 街灯などの前を通過するたび、外の明かりのせいで窓ガラスが鏡面になる。
 そのたび、そっぽを向いていてもそうの顔が見えてしまうことに結葉ゆいははドギマギして。

「……なぁに?」

 それを気取られないよう一生懸命心を落ち着けて短く答えたつもりだったけれど、声が震えてしまった気がした結葉ゆいはだ。

「全部色んなことを取り払った上で純粋に答えてくれな?」

「……? ……うん」

結葉ゆいはは……俺のこと、どう思ってる?」

 さすがに結葉ゆいはも、こんなに直球で聞かれるとは思っていなかったから。

「あ、あの……っ」

 驚いて思わずそうの方を振り返ったら、そうは至極真剣な顔で前方を見つめていた。

 運転中なのだから当たり前だと思う反面、いつものそうならちらちらとこちらを気にしてくれるはずなのに、と思って、結葉ゆいはは逆に落ち着かない気持ちにさせられる。

 ふと見ると、ハンドルを握る手に、ギュッと力がこもっているのか、そうの手首の辺りに筋が浮いて見えているのに気づいた結葉ゆいはだ。

 結葉ゆいはは、今の質問を投げかけるのに、そう自身ものすごく勇気を振り絞ってくれたんじゃないかと今更のように気付かされる。

「――そうちゃん……私……」

 結葉ゆいはは太ももに乗せた両の手をギュッと握り締めると、そうの質問に〝好き〟と一言短く返そうとして……。

 でもその途端、偉央いおの切ない声と顔が思い出されて言葉に詰まってしまった。

 音楽もラジオも掛かっていない静かな車内。
 エンジン音とエアコンの音に紛れて二人の吐息ばかりがやたらと大きく聞こえてしまう。

 そうはじっと前方を見つめたまま、結葉ゆいはにその先を早く言えとも何とも急かして来ない。

 それがまた余計に結葉の胸をギュッと締め付けてきた。

「ごめんね。私、……まだそうちゃんに何も伝えられそうにないよ……」

 泣きそうにか細い震える声でそう言ったら、そうが「やっぱりそうか」と小さな声でつぶやいて。

 そのままウィンカーを上げて路肩に車を停車した。

そう……ちゃ?」

 別にどこかにたどり着いたというわけでもなさそうなのに急に車を停められて、結葉ゆいはは戸惑って。

 薄暗くてよく見えない窓外にじっと目を凝らしてハッとした。

「ここ……」

「お前が住んでたタワマンの真ん前だ」

 結葉ゆいはは時折窓の外に視線を流していたはずなのに、意識がすっかりそうに持って行かれていたことに今更のように気付かされた。

 いくら外が暗かったからと言って、抜けているにも程があるではないか。

「……な、んでこんな所に?」

「言ったろ? お前に見せたいものがあるって」

(まさかこのマンションの一室を買ったとか言う話じゃないよね?)
 言われて、即座にそんなことを思ってしまった結葉ゆいはだ。

 確かにこのマンションはセキュリティ面ですごく充実しているし、住み心地は悪くなかったから。

 でも……。

 いくら何でもそれはないよね?と思って。

 不安に瞳を揺らめかせながらそうを見つめたら、「バーカ」と額を軽く小突かれた。

「――いくら何でもここに部屋を買ったとかそういう馬鹿なことは言わねぇから安心しろ」

 そうの言葉に、結葉ゆいははにわかに恥ずかしくなる。

なんにも言わなくても、やっぱりそうちゃんはなんだ)

 でも、だったら何故こんなところに?とも思ってしまった。


 結葉ゆいはの疑問に答えるように、
「俺が見せたいのはあっち」
 言ってそうが指差したのは、道路を挟んで反対側の、『みしょう動物病院』の方だった。

 そっちこそ尚のこともう縁なんてないはずなのに何で?と思ってから、結葉ゆいはは駐車場の一角に見慣れない影の一群が出来上がっていることに気がついた。

「あれって」

「マンション売ったからじゃねぇか? 家を建ててるみたいだ」

 そうは、「俺も今日たまたまこの道通って気付いたんだけどな」と付け加えてから、結葉ゆいはをじっと見つめてくる。

そう……ちゃん?」

 そうが何を言いたいのかよく分からなくて、結葉ゆいはがオロオロとそうを見返したら、そうが吐息を落とす。

「今は暗くてよく見えねぇけど、おそらくは3LDK。の家だと思う」

 そうの言葉に、結葉ゆいはは「さん、にん?」とつぶやいて。


「なぁ結葉ゆいは、正直に答えろ。お前はあれを見て、お前の元旦那が親父さんやお袋さんと住む家を建ててると思うか?」

 そうにじっと挑むような目で見つめられて、結葉ゆいはは瞳を見開いた。



***


「それとも――」

 その先は言われなくても分かったのだろう。

そう、ちゃん……」

 結葉ゆいはの泣きそうな顔を見て、そうはちょっとだけ胸の奥がチクチクと痛んだ。

 本当は、もっと裏を取ってから結葉ゆいはにこの現状を見せるつもりだったのだけれど。

 結局のところ、が一番重要なんじゃないかと気が付いたそうだ。


 結葉ゆいはが、御庄みしょう偉央いおの手を振り払った自分に罪悪感を覚えているのは明白だったから。


 ならば、お前一人がいつまでもそんなことを感じる必要はないのだと――。
 どういう形にせよ、元旦那だって前を向いて歩き始めているのだと――。


 結葉ゆいはが、彼女自身も何も気兼ねすることなく新しい生活に向けて歩き出してもいいと思えるきっかけにして欲しかった。
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