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37.それぞれの再出発
きっかけにして欲しい
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そわつく気持ちを落ち着けたくて、窓外を流れる夜景を見つめながらオロオロと視線を彷徨わせたら、背後から更に、想の低められた声が被さってくる。
「なぁ結葉。ひとつだけ先に聞かせてくれ」
街灯などの前を通過するたび、外の明かりのせいで窓ガラスが鏡面になる。
そのたび、そっぽを向いていても想の顔が見えてしまうことに結葉はドギマギして。
「……なぁに?」
それを気取られないよう一生懸命心を落ち着けて短く答えたつもりだったけれど、声が震えてしまった気がした結葉だ。
「全部色んなことを取り払った上で純粋に答えてくれな?」
「……? ……うん」
「結葉は……俺のこと、男としてどう思ってる?」
さすがに結葉も、こんなに直球で聞かれるとは思っていなかったから。
「あ、あの……っ」
驚いて思わず想の方を振り返ったら、想は至極真剣な顔で前方を見つめていた。
運転中なのだから当たり前だと思う反面、いつもの想ならちらちらとこちらを気にしてくれるはずなのに、と思って、結葉は逆に落ち着かない気持ちにさせられる。
ふと見ると、ハンドルを握る手に、ギュッと力がこもっているのか、想の手首の辺りに筋が浮いて見えているのに気づいた結葉だ。
結葉は、今の質問を投げかけるのに、想自身ものすごく勇気を振り絞ってくれたんじゃないかと今更のように気付かされる。
「――想ちゃん……私……」
結葉は太ももに乗せた両の手をギュッと握り締めると、想の質問に〝好き〟と一言短く返そうとして……。
でもその途端、偉央の切ない声と顔が思い出されて言葉に詰まってしまった。
音楽もラジオも掛かっていない静かな車内。
エンジン音とエアコンの音に紛れて二人の吐息ばかりがやたらと大きく聞こえてしまう。
想はじっと前方を見つめたまま、結葉にその先を早く言えとも何とも急かして来ない。
それがまた余計に結葉の胸をギュッと締め付けてきた。
「ごめんね。私、……まだ想ちゃんに何も伝えられそうにないよ……」
泣きそうにか細い震える声でそう言ったら、想が「やっぱりそうか」と小さな声でつぶやいて。
そのままウィンカーを上げて路肩に車を停車した。
「想……ちゃ?」
別にどこかにたどり着いたというわけでもなさそうなのに急に車を停められて、結葉は戸惑って。
薄暗くてよく見えない窓外にじっと目を凝らしてハッとした。
「ここ……」
「お前が住んでたタワマンの真ん前だ」
結葉は時折窓の外に視線を流していたはずなのに、意識がすっかり想に持って行かれていたことに今更のように気付かされた。
いくら外が暗かったからと言って、抜けているにも程があるではないか。
「……な、んでこんな所に?」
「言ったろ? お前に見せたいものがあるって」
(まさかこのマンションの一室を買ったとか言う話じゃないよね?)
言われて、即座にそんなことを思ってしまった結葉だ。
確かにこのマンションはセキュリティ面ですごく充実しているし、住み心地は悪くなかったから。
でも……。
いくら何でもそれはないよね?と思って。
不安に瞳を揺らめかせながら想を見つめたら、「バーカ」と額を軽く小突かれた。
「――いくら何でもここに部屋を買ったとかそういう馬鹿なことは言わねぇから安心しろ」
想の言葉に、結葉はにわかに恥ずかしくなる。
(何にも言わなくても、やっぱり想ちゃんは私の考えていることなんて全部全部お見通しなんだ)
でも、だったら何故こんなところに?とも思ってしまった。
結葉の疑問に答えるように、
「俺が見せたいのはあっち」
言って想が指差したのは、道路を挟んで反対側の、『みしょう動物病院』の方だった。
そっちこそ尚のこともう縁なんてないはずなのに何で?と思ってから、結葉は駐車場の一角に見慣れない影の一群が出来上がっていることに気がついた。
「あれって」
「マンション売ったからじゃねぇか? 家を建ててるみたいだ」
想は、「俺も今日たまたまこの道通って気付いたんだけどな」と付け加えてから、結葉をじっと見つめてくる。
「想……ちゃん?」
想が何を言いたいのかよく分からなくて、結葉がオロオロと想を見返したら、想が吐息を落とす。
「今は暗くてよく見えねぇけど、おそらくは3LDK。三人家族想定の家だと思う」
想の言葉に、結葉は「さん、にん?」とつぶやいて。
「なぁ結葉、正直に答えろ。お前はあれを見て、お前の元旦那が親父さんやお袋さんと住む家を建ててると思うか?」
想にじっと挑むような目で見つめられて、結葉は瞳を見開いた。
***
「それとも――」
その先は言われなくても分かったのだろう。
「想、ちゃん……」
結葉の泣きそうな顔を見て、想はちょっとだけ胸の奥がチクチクと痛んだ。
本当は、もっと裏を取ってから結葉にこの現状を見せるつもりだったのだけれど。
結局のところ、実際がどうであれ結葉自身がどう感じるのか?が一番重要なんじゃないかと気が付いた想だ。
結葉が、御庄偉央の手を振り払った自分に罪悪感を覚えているのは明白だったから。
ならば、お前一人がいつまでもそんなことを感じる必要はないのだと――。
どういう形にせよ、元旦那だって前を向いて歩き始めているのだと――。
結葉が、彼女自身も何も気兼ねすることなく新しい生活に向けて歩き出してもいいと思えるきっかけにして欲しかった。
「なぁ結葉。ひとつだけ先に聞かせてくれ」
街灯などの前を通過するたび、外の明かりのせいで窓ガラスが鏡面になる。
そのたび、そっぽを向いていても想の顔が見えてしまうことに結葉はドギマギして。
「……なぁに?」
それを気取られないよう一生懸命心を落ち着けて短く答えたつもりだったけれど、声が震えてしまった気がした結葉だ。
「全部色んなことを取り払った上で純粋に答えてくれな?」
「……? ……うん」
「結葉は……俺のこと、男としてどう思ってる?」
さすがに結葉も、こんなに直球で聞かれるとは思っていなかったから。
「あ、あの……っ」
驚いて思わず想の方を振り返ったら、想は至極真剣な顔で前方を見つめていた。
運転中なのだから当たり前だと思う反面、いつもの想ならちらちらとこちらを気にしてくれるはずなのに、と思って、結葉は逆に落ち着かない気持ちにさせられる。
ふと見ると、ハンドルを握る手に、ギュッと力がこもっているのか、想の手首の辺りに筋が浮いて見えているのに気づいた結葉だ。
結葉は、今の質問を投げかけるのに、想自身ものすごく勇気を振り絞ってくれたんじゃないかと今更のように気付かされる。
「――想ちゃん……私……」
結葉は太ももに乗せた両の手をギュッと握り締めると、想の質問に〝好き〟と一言短く返そうとして……。
でもその途端、偉央の切ない声と顔が思い出されて言葉に詰まってしまった。
音楽もラジオも掛かっていない静かな車内。
エンジン音とエアコンの音に紛れて二人の吐息ばかりがやたらと大きく聞こえてしまう。
想はじっと前方を見つめたまま、結葉にその先を早く言えとも何とも急かして来ない。
それがまた余計に結葉の胸をギュッと締め付けてきた。
「ごめんね。私、……まだ想ちゃんに何も伝えられそうにないよ……」
泣きそうにか細い震える声でそう言ったら、想が「やっぱりそうか」と小さな声でつぶやいて。
そのままウィンカーを上げて路肩に車を停車した。
「想……ちゃ?」
別にどこかにたどり着いたというわけでもなさそうなのに急に車を停められて、結葉は戸惑って。
薄暗くてよく見えない窓外にじっと目を凝らしてハッとした。
「ここ……」
「お前が住んでたタワマンの真ん前だ」
結葉は時折窓の外に視線を流していたはずなのに、意識がすっかり想に持って行かれていたことに今更のように気付かされた。
いくら外が暗かったからと言って、抜けているにも程があるではないか。
「……な、んでこんな所に?」
「言ったろ? お前に見せたいものがあるって」
(まさかこのマンションの一室を買ったとか言う話じゃないよね?)
言われて、即座にそんなことを思ってしまった結葉だ。
確かにこのマンションはセキュリティ面ですごく充実しているし、住み心地は悪くなかったから。
でも……。
いくら何でもそれはないよね?と思って。
不安に瞳を揺らめかせながら想を見つめたら、「バーカ」と額を軽く小突かれた。
「――いくら何でもここに部屋を買ったとかそういう馬鹿なことは言わねぇから安心しろ」
想の言葉に、結葉はにわかに恥ずかしくなる。
(何にも言わなくても、やっぱり想ちゃんは私の考えていることなんて全部全部お見通しなんだ)
でも、だったら何故こんなところに?とも思ってしまった。
結葉の疑問に答えるように、
「俺が見せたいのはあっち」
言って想が指差したのは、道路を挟んで反対側の、『みしょう動物病院』の方だった。
そっちこそ尚のこともう縁なんてないはずなのに何で?と思ってから、結葉は駐車場の一角に見慣れない影の一群が出来上がっていることに気がついた。
「あれって」
「マンション売ったからじゃねぇか? 家を建ててるみたいだ」
想は、「俺も今日たまたまこの道通って気付いたんだけどな」と付け加えてから、結葉をじっと見つめてくる。
「想……ちゃん?」
想が何を言いたいのかよく分からなくて、結葉がオロオロと想を見返したら、想が吐息を落とす。
「今は暗くてよく見えねぇけど、おそらくは3LDK。三人家族想定の家だと思う」
想の言葉に、結葉は「さん、にん?」とつぶやいて。
「なぁ結葉、正直に答えろ。お前はあれを見て、お前の元旦那が親父さんやお袋さんと住む家を建ててると思うか?」
想にじっと挑むような目で見つめられて、結葉は瞳を見開いた。
***
「それとも――」
その先は言われなくても分かったのだろう。
「想、ちゃん……」
結葉の泣きそうな顔を見て、想はちょっとだけ胸の奥がチクチクと痛んだ。
本当は、もっと裏を取ってから結葉にこの現状を見せるつもりだったのだけれど。
結局のところ、実際がどうであれ結葉自身がどう感じるのか?が一番重要なんじゃないかと気が付いた想だ。
結葉が、御庄偉央の手を振り払った自分に罪悪感を覚えているのは明白だったから。
ならば、お前一人がいつまでもそんなことを感じる必要はないのだと――。
どういう形にせよ、元旦那だって前を向いて歩き始めているのだと――。
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