【完結】【R18】結婚相手を間違えました

鷹槻れん

文字の大きさ
227 / 228
■雨の中のふたり/気まぐれ書き下ろし短編

確かな事実は思い出とともに

しおりを挟む
***


「よし、帰るか」

 デザートまでしっかり堪能して。
 せっかく二十歳はたちになったのだから、とほんのちょっとだけアルコールもたしなんだ結葉ゆいははほんのりほろ酔い気分。

 ほわりとした気持ちでそうと二人、店を出て歩き始めてしばらくしたら、突然ぽつりぽつりと空から水滴が落ち始めた。

「マジか。――なぁ、今夜って天気予報、雨降るとか言ってたか?」

 フルフルと首を降る結葉に、想は「だよな」と舌打ちをしながら着ていたコートを脱ぐと、結葉の頭にバサリと掛けてくる。


 3月の半ば。

 夜はまだまだ冷え込むのに。

 コートを脱いでスーツ姿になった想に、結葉はオロオロしてしまう。

「想ちゃんが風邪ひいちゃう」

 言いながら被せられたコートを返そうとしたら、頭の上からグッと押さえつけられてさせてもらえない。

 仕方なく上着の内側から想を仰ぎ見たら、「とりあえず本格的に降り始める前に走れ」と不意に手を引かれて。

 掴まれた想の手が思いの外大きくて温かくて……。結葉はドキドキが止まらない。


「ここなら雨宿り出来るか」

 ほんの少しひさしが突き出した仕出し屋の軒下に入って、いよいよ本降りになり始めた空を溜め息まじりに見上げたそうの横顔がカッコよくて。
 ぼんやりとしばらく見惚れてから、結葉ゆいははハッとしてカバンの中を探った。


(あった)

 いつも持ち歩いている小さな赤い折り畳み傘。

 それをカバンの底から引っ張り出した結葉は、想にコートを返しながら「傘、あったよ」と声をかける。



 ここからお互いの家まで徒歩十分圏内。

 雨はどんどん酷くなるし、メインストリートから少し離れたこの路地裏は、車通りも少なくてタクシーも通りかかりそうにない。


 小さく吐息を落とすと、想はコートを羽織り直しながら結葉にうなずいて。


「――あんま出たくねぇけど行くか」


 小さな赤い傘を手に、結葉の肩を抱いた。

「俺にしっかりくっ付いとけよ?」

 こちらを見ないままにぶっきらぼうに告げられた言葉に、結葉ゆいはは緊張の余りギュッと身体を固くする。


 そうして二人、小さな傘の下、土砂降りの雨の中へと躍り出たのだけれど。



「バカ! 結葉。何で傘の押してくんだよ。大人しくしとけ」

「想ちゃんが傘、こっちに傾け過ぎるから」


 結局二人して傘の下を譲り合うものだから、あっという間にびしょ濡れになってしまった。


 水を吸った想のコートは凄く重そうだし、結葉の白いコートもえり口とそで口のファーが濡れそぼって悲しいくらいぺったんこのになってしまっている。


 それでも――。

 想と二人、まるで恋人同士みたいに肩を寄せ合って相合傘が出来ていることが、結葉にはこの上なく嬉しかった。


 お互い相手のことを思い合っているくせに、ほんのちょっとの勇気が出せなかった想と結葉は、この後数年間すれ違い続けることになるのだけれど。


 それでも一緒にコースディナーを食べたのも、相合傘をしたのも、お互いがお互いにとって初めて同士だと言うことだけは確かな事実だから――。

 数年後、結婚した後でこの時のことを思い出しながら笑い合う未来が待っている。


  END(2022/10/20)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

【完】経理部の女王様が落ちた先には

Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位 高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け ピンヒールの音を響かせ歩く “経理部の女王様” そんな女王様が落ちた先にいたのは 虫1匹も殺せないような男だった・・・。 ベリーズカフェ総合ランキング4位 2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位 2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位 関連物語 『ソレは、脱がさないで』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位 『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位 『初めてのベッドの上で珈琲を』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位 『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』 ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位 私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。 伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。 物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私を抱かないと新曲ができないって本当ですか? 〜イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い〜

入海月子
恋愛
「君といると曲のアイディアが湧くんだ」 昔から大ファンで、好きで好きでたまらない 憧れのミュージシャン藤崎東吾。 その人が作曲するには私が必要だと言う。 「それってほんと?」 藤崎さんの新しい曲、藤崎さんの新しいアルバム。 「私がいればできるの?私を抱いたらできるの?」 絶対後悔するとわかってるのに、正気の沙汰じゃないとわかっているのに、私は頷いてしまった……。 ********************************************** 仕事を頑張る希とカリスマミュージシャン藤崎の 体から始まるキュンとくるラブストーリー。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

処理中です...