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8.バレンタインデー
バレンタインデーに残業
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***
就業後にくるみと会う約束をした二月十四日。
実篤の仕事が終わったのは、定時を大幅に過ぎた二十時過ぎだった。
いくら繁忙期とは言え、実篤は従業員らにはあまり残業をさせたくないと思っている。
そもそも経理の野田には家庭があるし、総務の田岡と営業の井上には、各々ラブラブの恋人がいる。
ましてや今日はバレンタインデーだ。
自分のことをくるみが待ってくれているように、きっと田岡と井上にも恋人が待っているだろう。
「ホンマすみません」
三人が申し訳なさそうにペコペコと頭を下げるのを見て、「バカじゃのぉ、みんな。定時過ぎちょるんじゃけ、何を遠慮することがあるんよ」と言って笑顔で送り出した実篤だ。
「社長。俺、彼女もおらんですし、独り暮らしですけぇ最後まで付き合いますよ⁉︎」
彼女との結婚が秒読みらしい井上と同じく、営業をしてくれている宇佐川――前にくるみを狙っていたと暴露したことがある前科持ちの二十四歳――がそう言ってくれたけれど、彼にだけ残業をさせるわけにはいかないではないか。
「変な所で気ぃ遣わんでええよ。ホンマ、俺だけで大丈夫じゃけ、宇佐川くんも遠慮せんと早よ帰りんさい」
彼女がいなくたって、家へ帰ればそれなりにやることもあるだろう。
最近仲間と共闘してモンスターを狩るオンラインゲームにはまっているらしい宇佐川は、ギルドマスターの女性にご執心で夜更かし気味だと話していた。
恋人はいないのかもしれないけれど、気になる女性がオンライン上にいると言うならば、早く帰ってその趣味に時間を費やせばいい。
そう思った実篤だったけれど、ここ数日あくびが目立つ宇佐川を思い出して、ちょっとだけ軌道修正。
(まぁたまにゃー自制して、日付が変わる前に寝れよ?)
そんなことを思って。
それでも尚も「でも」と言い募る宇佐川に、「ゲームん中。バレンタインイベントとかないんか?」と聞いたらハッとしたように瞳を揺らせた。
どうやらビンゴだったらしい。
「ほら、あるんじゃろうが。だったら遠慮せんと帰れ」
ニヤリと笑いながら言ったら、宇佐川は「ひっ」と声を漏らしてから、何度も何度も頭を下げて申し訳なさそうに帰って行った。
そんなこんなで一人残って残務処理をこなした実篤だ。
今日は契約件数もいつもより多めだったので、書類も常より多かった。
くるみが、そんな自分をヤキモキしながら待ってくれているのは分かっていたけれど、それと同時。実篤はここの最高責任者として、くるみに会うことを理由に仕事の面で手を抜きたくないと思ってしまった。
きっと自分のために実篤がそんなことをしたと知ったら、くるみだって怒るだろう。
就業後にくるみと会う約束をした二月十四日。
実篤の仕事が終わったのは、定時を大幅に過ぎた二十時過ぎだった。
いくら繁忙期とは言え、実篤は従業員らにはあまり残業をさせたくないと思っている。
そもそも経理の野田には家庭があるし、総務の田岡と営業の井上には、各々ラブラブの恋人がいる。
ましてや今日はバレンタインデーだ。
自分のことをくるみが待ってくれているように、きっと田岡と井上にも恋人が待っているだろう。
「ホンマすみません」
三人が申し訳なさそうにペコペコと頭を下げるのを見て、「バカじゃのぉ、みんな。定時過ぎちょるんじゃけ、何を遠慮することがあるんよ」と言って笑顔で送り出した実篤だ。
「社長。俺、彼女もおらんですし、独り暮らしですけぇ最後まで付き合いますよ⁉︎」
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(まぁたまにゃー自制して、日付が変わる前に寝れよ?)
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それでも尚も「でも」と言い募る宇佐川に、「ゲームん中。バレンタインイベントとかないんか?」と聞いたらハッとしたように瞳を揺らせた。
どうやらビンゴだったらしい。
「ほら、あるんじゃろうが。だったら遠慮せんと帰れ」
ニヤリと笑いながら言ったら、宇佐川は「ひっ」と声を漏らしてから、何度も何度も頭を下げて申し訳なさそうに帰って行った。
そんなこんなで一人残って残務処理をこなした実篤だ。
今日は契約件数もいつもより多めだったので、書類も常より多かった。
くるみが、そんな自分をヤキモキしながら待ってくれているのは分かっていたけれど、それと同時。実篤はここの最高責任者として、くるみに会うことを理由に仕事の面で手を抜きたくないと思ってしまった。
きっと自分のために実篤がそんなことをしたと知ったら、くるみだって怒るだろう。
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