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8.バレンタインデー
中学生のようなふたり
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***
くるみはクリノ不動産から少し行った先、二号線沿いにあるファミリーレストラン『ガストン』でドリンクバーでお茶をにごしながらそんな実篤のことを待ってくれていた。
「お忙しい時期なのにすみません」
くるみにとってこの時間は、いつもならもう家に帰っていて、明朝の早起き――パンの仕込み――に備えて就寝する頃だ。
ましてや今いる立石町からくるみが住む御庄までは車で片道二十分は掛かる。
実篤の方こそくるみの睡眠時間を削ってしまって申し訳ないと思っているのに、くるみはどこまでも謙虚で優しかった。
「俺の方こそごめんね。くるみちゃんと約束しちょったのに遅ぉなってしもーて」
実篤はガストンに入るなり「こっちです」と手を振ってくれたくるみへ駆け寄ると、二人してペコペコと頭を下げ合って。
何だかその様がおかしくなって、顔を見合わせて笑ってしまう。
「くるみちゃん、もう夕飯とか食べた?」
とりあえず何か注文しようとメニューを広げながら実篤が聞いたら、くるみがフルフルと首を振って、ドリンクバーだけで粘っていたと答えた。
「それならさ、もし食べる時間ありそうなら折角じゃし一緒に食べん?」
くるみが、そんな実篤の提案に嬉しそうににっこり微笑んで頷いてくれるから。
実篤はもう一揃えあったメニュー表をくるみに手渡した。
「俺はこれにする」
「うちはこれ」
二人で、銘々が見ていたメニューをパタリと机に広げて「これ」と指差したら同じもの――香るキノコトッピングのチーズインハンバーグセット――で。
そんな些細なことですら何だか嬉しくなってしまった。
***
「明日、お休みじゃったら良かったですね」
ゆっくりできないのは残念だと言外に含ませながら、くるみが綺麗なリボンの取り付けられた紙袋を手渡してくれた。
実篤はそれを受け取りながら「本当にそれっちゃ」と眉根を寄せる。
「……えっと、それ、バレンタインデーの……です」
本題はそっちだろうに、くるみが照れ臭そうについでみたいにポツンと付け加えるから、実篤まで何だかあてられて恥ずかしくなってしまった。
まるで中学生同士の初々しいバレンタインみたいなやり取りが、ガストンの駐車場の片隅――奥まった一角の外灯下――で繰り広げられている。
「中、見てもいい?」
それは実篤の手のひらに載るぐらいの小ぶりな紙袋で、大きさの割に結構軽め。
雰囲気的に中身はパンかな?と思った実篤だ。
くるみがコクッと頷いたのを確認して、実篤は綺麗な赤のチェック柄マスキングテープで留められた封を解いて中を覗き込んだ。
「あ、あの……か、変わり映えがせんのんですけど……うちが初めて実篤さんに食べてもらったのがそれじゃったけぇ」
くるみが言った通り、中には二人の思い出の品――甘さ控えめなビターチョコ入りの大人向けチョココロネ――が一つ入っていた。
「ホンマはもっと一杯入れた方がええかな?って思うて……。三つ、四つ包もうかとも思うたんです。じゃけど――」
実篤と付き合っていく中で、彼が甘いモノが余り得意ではないと知ったくるみだ。
クリノ不動産に出向いた際、実篤は従業員用にチョココロネを沢山買ってくれるのを常とはしているけれど、必ずそれとは別に自分用の惣菜パンをいくつか購入するのを知っている。
「沢山あったら実篤さん、食べるんに困ってしまいそうですけぇ」
そんなことはないとは思うけれど、もしかしたら従業員の誰かにあげてしまう可能性だって無きにしも非ずだ。
確実に食べてもらうならひとつだけに限る。
くるみはそう考えたのだと言う。
実篤はくるみの言葉に思わず笑わずにはいられなくて。
「くるみちゃん、俺のこと把握しすぎじゃろ。照れるわ」
それが、凄くくすぐったくて嬉しかった。
くるみはクリノ不動産から少し行った先、二号線沿いにあるファミリーレストラン『ガストン』でドリンクバーでお茶をにごしながらそんな実篤のことを待ってくれていた。
「お忙しい時期なのにすみません」
くるみにとってこの時間は、いつもならもう家に帰っていて、明朝の早起き――パンの仕込み――に備えて就寝する頃だ。
ましてや今いる立石町からくるみが住む御庄までは車で片道二十分は掛かる。
実篤の方こそくるみの睡眠時間を削ってしまって申し訳ないと思っているのに、くるみはどこまでも謙虚で優しかった。
「俺の方こそごめんね。くるみちゃんと約束しちょったのに遅ぉなってしもーて」
実篤はガストンに入るなり「こっちです」と手を振ってくれたくるみへ駆け寄ると、二人してペコペコと頭を下げ合って。
何だかその様がおかしくなって、顔を見合わせて笑ってしまう。
「くるみちゃん、もう夕飯とか食べた?」
とりあえず何か注文しようとメニューを広げながら実篤が聞いたら、くるみがフルフルと首を振って、ドリンクバーだけで粘っていたと答えた。
「それならさ、もし食べる時間ありそうなら折角じゃし一緒に食べん?」
くるみが、そんな実篤の提案に嬉しそうににっこり微笑んで頷いてくれるから。
実篤はもう一揃えあったメニュー表をくるみに手渡した。
「俺はこれにする」
「うちはこれ」
二人で、銘々が見ていたメニューをパタリと机に広げて「これ」と指差したら同じもの――香るキノコトッピングのチーズインハンバーグセット――で。
そんな些細なことですら何だか嬉しくなってしまった。
***
「明日、お休みじゃったら良かったですね」
ゆっくりできないのは残念だと言外に含ませながら、くるみが綺麗なリボンの取り付けられた紙袋を手渡してくれた。
実篤はそれを受け取りながら「本当にそれっちゃ」と眉根を寄せる。
「……えっと、それ、バレンタインデーの……です」
本題はそっちだろうに、くるみが照れ臭そうについでみたいにポツンと付け加えるから、実篤まで何だかあてられて恥ずかしくなってしまった。
まるで中学生同士の初々しいバレンタインみたいなやり取りが、ガストンの駐車場の片隅――奥まった一角の外灯下――で繰り広げられている。
「中、見てもいい?」
それは実篤の手のひらに載るぐらいの小ぶりな紙袋で、大きさの割に結構軽め。
雰囲気的に中身はパンかな?と思った実篤だ。
くるみがコクッと頷いたのを確認して、実篤は綺麗な赤のチェック柄マスキングテープで留められた封を解いて中を覗き込んだ。
「あ、あの……か、変わり映えがせんのんですけど……うちが初めて実篤さんに食べてもらったのがそれじゃったけぇ」
くるみが言った通り、中には二人の思い出の品――甘さ控えめなビターチョコ入りの大人向けチョココロネ――が一つ入っていた。
「ホンマはもっと一杯入れた方がええかな?って思うて……。三つ、四つ包もうかとも思うたんです。じゃけど――」
実篤と付き合っていく中で、彼が甘いモノが余り得意ではないと知ったくるみだ。
クリノ不動産に出向いた際、実篤は従業員用にチョココロネを沢山買ってくれるのを常とはしているけれど、必ずそれとは別に自分用の惣菜パンをいくつか購入するのを知っている。
「沢山あったら実篤さん、食べるんに困ってしまいそうですけぇ」
そんなことはないとは思うけれど、もしかしたら従業員の誰かにあげてしまう可能性だって無きにしも非ずだ。
確実に食べてもらうならひとつだけに限る。
くるみはそう考えたのだと言う。
実篤はくるみの言葉に思わず笑わずにはいられなくて。
「くるみちゃん、俺のこと把握しすぎじゃろ。照れるわ」
それが、凄くくすぐったくて嬉しかった。
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