【完結】【R18】社長さんの溺愛は、可愛いパン屋さんのチョココロネのお味⁉︎

鷹槻れん

文字の大きさ
157 / 230
8.バレンタインデー

中学生のようなふたり

しおりを挟む
***

 くるみはクリノ不動産から少し行った先、二号線沿いにあるファミリーレストラン『ガストン』でドリンクバーでお茶をにごしながらそんな実篤さねあつのことを待ってくれていた。


「お忙しい時期なのになんにすみません」

 くるみにとってこの時間は、いつもならもう家に帰っていて、明朝の早起き――パンの仕込み――にそなえて就寝する頃だ。

 ましてや今いる立石町たていしまちからくるみが住む御庄みしょうまでは車で片道二十分は掛かる。

 実篤の方こそくるみの睡眠時間を削ってしまって申し訳ないと思っているのに、くるみはどこまでも謙虚で優しかった。

「俺の方こそごめんね。くるみちゃんと約束しちょったのにおそぉなってしもーて」

 実篤はガストンに入るなり「こっちです」と手を振ってくれたくるみへ駆け寄ると、二人してペコペコと頭を下げ合って。

 何だかその様がおかしくなって、顔を見合わせて笑ってしまう。


「くるみちゃん、もうはぁ夕飯とか食べた?」

 とりあえず何か注文しようとメニューを広げながら実篤が聞いたら、くるみがフルフルと首を振って、ドリンクバーだけで粘っていたと答えた。

それならほいじゃあさ、もし食べる時間ありそうなら折角じゃし一緒に食べん?」

 くるみが、そんな実篤の提案に嬉しそうににっこり微笑んでうなずいてくれるから。
 実篤はもう一揃えあったメニュー表をくるみに手渡した。


「俺はこれにする」
「うちはこれ」

 二人で、銘々めいめいが見ていたメニューをパタリと机に広げて「これ」と指差したら同じもの――香るキノコトッピングのチーズインハンバーグセット――で。
 そんな些細ささいなことですら何だか嬉しくなってしまった。


***


「明日、お休みじゃったらかったですね」

 ゆっくりできないのは残念だと言外に含ませながら、くるみが綺麗なリボンの取り付けられた紙袋を手渡してくれた。
 実篤さねあつはそれを受け取りながら「本当ほんにそれっちゃ」と眉根を寄せる。

「……えっと、それ、バレンタインデーの……です」

 本題はそっちだろうに、くるみが照れ臭そうについでみたいにポツンと付け加えるから、実篤まで何だかあてられて恥ずかしくなってしまった。

 まるで中学生同士の初々しいバレンタインみたいなやり取りが、ガストンの駐車場の片隅――奥まった一角の外灯下――で繰り広げられている。

「中、見てもいいええ?」

 それは実篤の手のひらに載るぐらいの小ぶりな紙袋で、大きさの割に結構軽め。

 雰囲気的に中身はパンかな?と思った実篤だ。

 くるみがコクッとうなずいたのを確認して、実篤は綺麗な赤のチェック柄マスキングテープで留められた封をいて中を覗き込んだ。

「あ、あの……か、変わり映えがせんのんですけど……うちが初めて実篤さんに食べてもらったのもろうたんがそれじゃったけぇ」

 くるみが言った通り、中には二人の思い出の品――甘さ控えめなビターチョコ入りの大人向けチョココロネ――が一つ入っていた。

「ホンマはもっと一杯入れた方がええかな?って思うて……。三つ、四つ包もうかとも思うたんです。じゃけど――」

 実篤と付き合っていく中で、彼が甘いモノが余り得意ではないと知ったくるみだ。

 クリノ不動産に出向いた際、実篤は従業員用にチョココロネを沢山買ってくれるのを常とはしているけれど、必ずそれとは別に自分用の惣菜パンをいくつか購入するのを知っている。

沢山えっとあったら実篤さん、食べるんに困ってしまいそうですけぇ」

 そんなことはないとは思うけれど、もしかしたら従業員の誰かにあげてしまう可能性だって無きにしも非ずだ。

 確実に食べてもらうならひとつだけに限る。

 くるみはそう考えたのだと言う。

 実篤はくるみの言葉に思わず笑わずにはいられなくて。

「くるみちゃん、俺のこと把握しすぎじゃろ。照れるわ」

 それが、凄くくすぐったくて嬉しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました

せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~ 救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。 どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。 乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。 受け取ろうとすると邪魔だと言われる。 そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。 医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。 最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇ 作品はフィクションです。 本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

俺様御曹司は十二歳年上妻に生涯の愛を誓う

ラヴ KAZU
恋愛
藤城美希 三十八歳独身 大学卒業後入社した鏑木建設会社で16年間経理部にて勤めている。 会社では若い女性社員に囲まれて、お局様状態。 彼氏も、結婚を予定している相手もいない。 そんな美希の前に現れたのが、俺様御曹司鏑木蓮 「明日から俺の秘書な、よろしく」 経理部の美希は蓮の秘書を命じられた。     鏑木 蓮 二十六歳独身 鏑木建設会社社長 バイク事故を起こし美希に命を救われる。 親の脛をかじって生きてきた蓮はこの出来事で人生が大きく動き出す。 社長と秘書の関係のはずが、蓮は事あるごとに愛を囁き溺愛が始まる。 蓮の言うことが信じられなかった美希の気持ちに変化が......     望月 楓 二十六歳独身 蓮とは大学の時からの付き合いで、かれこれ八年になる。 密かに美希に惚れていた。 蓮と違い、奨学金で大学へ行き、実家は農家をしており苦労して育った。 蓮を忘れさせる為に麗子に近づいた。 「麗子、俺を好きになれ」 美希への気持ちが冷めぬまま麗子と結婚したが、徐々に麗子への気持ちに変化が現れる。 面倒見の良い頼れる存在である。 藤城美希は三十八歳独身。大学卒業後、入社した会社で十六年間経理部で働いている。 彼氏も、結婚を予定している相手もいない。 そんな時、俺様御曹司鏑木蓮二十六歳が現れた。 社長就任挨拶の日、美希に「明日から俺の秘書なよろしく」と告げた。 社長と秘書の関係のはずが、蓮は美希に愛を囁く 実は蓮と美希は初対面ではない、その事実に美希は気づかなかった。 そして蓮は美希に驚きの事を言う、それは......

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

デキナイ私たちの秘密な関係

美並ナナ
恋愛
可愛い容姿と大きな胸ゆえに 近寄ってくる男性は多いものの、 あるトラウマから恋愛をするのが億劫で 彼氏を作りたくない志穂。 一方で、恋愛への憧れはあり、 仲の良い同期カップルを見るたびに 「私もイチャイチャしたい……!」 という欲求を募らせる日々。 そんなある日、ひょんなことから 志穂はイケメン上司・速水課長の ヒミツを知ってしまう。 それをキッカケに2人は イチャイチャするだけの関係になってーー⁉︎ ※性描写がありますので苦手な方はご注意ください。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※この作品はエブリスタ様にも掲載しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...