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出会い
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「おい、ガキんちょ。んなトコで寝てっと風邪ひくぞ」
突然上からの目線でものを言われてパティスはビクッと跳ね起きた。
泣いたせいで腫れぼったい感触を伝えるまぶたを気にしながら、ほんの少し顔を上向けると辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。
満月といくつかの街灯のお陰で真っ暗闇にはなっていなかったが、この薄暗さなら涙の跡にも気付かれずに済みそうだ。
ホッと胸を撫で下ろしながら今度はちゃんと顔を上げる。
果たして彼女の真ん前に、仁王立ちで声の主が立っていた。
全身黒ずくめのその男は、瞳の色だけが最高級ルビーのようなピジョンブラッド。
その深い赤に吸い込まれそうな錯覚に陥り、パティスは思わずベンチから立ち上がった。
そうしてみても、パティスの身長は依然男の胸辺りまでしかない。
深紅の瞳はまともに見つめると何故か危険な気がしたけれど、だからといって目をそらしては負けになってしまいそうで嫌だった。それで、わざと二、三歩距離を開けてから、男の視線を押し戻すように睨み付けて言ってやったのだ。
「私はガキなんかじゃないわっ」
と。
「ふぅ~ん? こんな夜に一人公園で泣きべそかいてたくせにガキじゃねぇのか」
そのセリフにハッとして目元に手を当てる。
「だ、誰が泣いてなんか……っ!」
「目の周り、真っ赤だぜ? 顔、洗ったほうがいいんじゃねぇか?」
鼻でふふん……と笑われた気がして、パティスの顔が怒りで紅潮する。
「……み、水なんてどこにもないじゃないっ!」
八つ当たりだと分かっていたけれど、人がいたという安心感と、男の不遜な態度に、ここへ来てからの不満が一気に爆発してしまう。
「はぁっ?」
途端、男に素っ頓狂な声を上げられて、気勢を削がれてしまった。
「え?」
思わず漏れた疑問符に、男は今度こそはっきりと嘲笑を浮かべて噴水を指差す。
「ひょっとしてお前の目は節穴か?」
つまりは噴水で顔を洗えばいいだろ、と言いたいらしい。
「あんた、馬鹿じゃないの!? レディにそんなこと言うだなんてどうかしてるわ!」
男のセリフの意味に気付いたパティスが怒りに任せてそう言うと、男はいよいよ堪えきれなくなったように爆笑を始める。
何だかこれ以上怒るのが馬鹿らしくなってしまうほど笑いまくられたので、パティスは逆に冷静になった。
男が笑い終えるのを待ってから、
「私はパティス。あなたは?」
とりあえず名乗ってみた。
考えてみれば、自己紹介も済ませていないのに話を続けるのは礼儀に反している。
パティスの問いかけに、男は目じりに涙を浮かべながら「ブレイズ」と応えた。
「ブレイズさん。もう一度伺うわ。この辺りに綺麗なお水はないのかしら?」
殊更「綺麗な」のところを強調してそう問いかけると
「ま、ないこともないが……」
何やら煮え切らない答えが返ってきた。
「案内してくださらない? 私、喉がカラカラなの」
本当はお腹もペコペコだけど……。
そう思った途端、お腹の虫が盛大な音をたててグゥーっと不満を漏らす。
「はいはい。お姫様はついでに食いもんも欲しいわけね」
したり顔でニヤリと笑うブレイズに、パティスは顔を真っ赤にしてうつむいた。
突然上からの目線でものを言われてパティスはビクッと跳ね起きた。
泣いたせいで腫れぼったい感触を伝えるまぶたを気にしながら、ほんの少し顔を上向けると辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。
満月といくつかの街灯のお陰で真っ暗闇にはなっていなかったが、この薄暗さなら涙の跡にも気付かれずに済みそうだ。
ホッと胸を撫で下ろしながら今度はちゃんと顔を上げる。
果たして彼女の真ん前に、仁王立ちで声の主が立っていた。
全身黒ずくめのその男は、瞳の色だけが最高級ルビーのようなピジョンブラッド。
その深い赤に吸い込まれそうな錯覚に陥り、パティスは思わずベンチから立ち上がった。
そうしてみても、パティスの身長は依然男の胸辺りまでしかない。
深紅の瞳はまともに見つめると何故か危険な気がしたけれど、だからといって目をそらしては負けになってしまいそうで嫌だった。それで、わざと二、三歩距離を開けてから、男の視線を押し戻すように睨み付けて言ってやったのだ。
「私はガキなんかじゃないわっ」
と。
「ふぅ~ん? こんな夜に一人公園で泣きべそかいてたくせにガキじゃねぇのか」
そのセリフにハッとして目元に手を当てる。
「だ、誰が泣いてなんか……っ!」
「目の周り、真っ赤だぜ? 顔、洗ったほうがいいんじゃねぇか?」
鼻でふふん……と笑われた気がして、パティスの顔が怒りで紅潮する。
「……み、水なんてどこにもないじゃないっ!」
八つ当たりだと分かっていたけれど、人がいたという安心感と、男の不遜な態度に、ここへ来てからの不満が一気に爆発してしまう。
「はぁっ?」
途端、男に素っ頓狂な声を上げられて、気勢を削がれてしまった。
「え?」
思わず漏れた疑問符に、男は今度こそはっきりと嘲笑を浮かべて噴水を指差す。
「ひょっとしてお前の目は節穴か?」
つまりは噴水で顔を洗えばいいだろ、と言いたいらしい。
「あんた、馬鹿じゃないの!? レディにそんなこと言うだなんてどうかしてるわ!」
男のセリフの意味に気付いたパティスが怒りに任せてそう言うと、男はいよいよ堪えきれなくなったように爆笑を始める。
何だかこれ以上怒るのが馬鹿らしくなってしまうほど笑いまくられたので、パティスは逆に冷静になった。
男が笑い終えるのを待ってから、
「私はパティス。あなたは?」
とりあえず名乗ってみた。
考えてみれば、自己紹介も済ませていないのに話を続けるのは礼儀に反している。
パティスの問いかけに、男は目じりに涙を浮かべながら「ブレイズ」と応えた。
「ブレイズさん。もう一度伺うわ。この辺りに綺麗なお水はないのかしら?」
殊更「綺麗な」のところを強調してそう問いかけると
「ま、ないこともないが……」
何やら煮え切らない答えが返ってきた。
「案内してくださらない? 私、喉がカラカラなの」
本当はお腹もペコペコだけど……。
そう思った途端、お腹の虫が盛大な音をたててグゥーっと不満を漏らす。
「はいはい。お姫様はついでに食いもんも欲しいわけね」
したり顔でニヤリと笑うブレイズに、パティスは顔を真っ赤にしてうつむいた。
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