【完結】月夜の約束

鷹槻れん

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折り紙

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「もしかして……食事に?」
 それは、ブレイズがパティスから離れて誰か綺麗な――ここはパティスの思い込みだが――女性のもとをおとなうということ。

「……嫌だ」
 それは嫌だと思った。


「私が眠るまでそばにいて……?」

 添い寝の話ではない、と言ったけれどこれではそうとられても仕方ないかも。思いながらも言わずにはおられなかった。

 消え入りそうな声音で懇願するパティスに、予想とは反してブレイズの表情は柔らかかった。
「しゃあねぇなぁ」
 ぽんぽん……。頭を軽く撫でながら
「ほら、寝るまで付いててやるから横になれ」
 そう言ってソファを指差す。

「う、うん……」
 自分から頼んだくせに、いざOKと言われると顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。

 ソワソワと落ち着かない表情でソファに横になったパティスに、ブレイズが上着を脱いで着せ掛けてくれる。

「布団ねぇからこれで我慢してくれ」
 初夏のこと。冬ではないから何も着なくても大丈夫なくらいだ。

 小さくうなずくと、パティスは上着を引っ張り上げてその影に顔を半分隠す。

 恥ずかしすぎて本当は上着の下に、真ん丸になって隠れてしまいたいくらいだ。でも、それはさすがに我慢した。

「こら」
 でも、ブレイズはそれすら許してくれないらしい。

「顔が見えなきゃ寝たかどうか分かんねぇだろ?」
 確かに……。
 仕方なくほんのちょっとだけ上着から顔を出して、ブレイズのほうを見つめると、彼の顔が思いのほか近く感じられて慌てて目を伏せる。

(やっぱり恥ずかしいよぉ……)
 真っ赤になって泣きそうな顔をするパティスの髪に、ブレイズが優しく触れる。

「パティス、手ぇ出せ」
 そうされながら、耳元でささやかれた声に、恐る恐る彼に近い側の手を差し伸べると、そっと握られた。

「……?」
 重ねられたブレイズの手の中にちょっと硬い何かがあって、何だろう?と疑問を抱く。「何を持っているの?」と問いかけようとしたら、
「おやすみ」
 まるでそれを阻止するかのようにブレイズの耳障り良い声と同時に、部屋中の燭台の明かりが一斉に落とされてしまった。

 その行動にちょっと含みを感じたけれど、手を握ってもらっていることのほうが嬉しいパティスは、「まぁ、いいか」と思い直す。

 急に明かりを消されたのも、ちっとも怖くなかった。
 何より自分の視覚でブレイズを感知できなくなったことでドキドキしていた緊張の糸を緩めることが出来て幸いなくらいだ。

「……おやすみなさい」
 ブレイズにそう返して、パティスはゆっくりとまぶたを閉じた。


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