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12.苦しい言い訳
薄情者!
「あ、はい。俺も……土恵の人間っす」
そう答えるチャラ男を牽制しつつ羽理の手首を握ると、大葉は彼女の小さな身体をこれ見よがしに自分の方へ引き寄せた。
「あひゃっ!? ――ちょっ、屋久蓑部長っ!」
目の前の男のせいだろう。
折角名前呼びをしてくれていた羽理が、苗字+役職呼びに戻ってしまったではないか。
そのことも非常に面白くないと思ってしまった大葉だ。
「……羽理、呼び方」
ちらりと羽理に視線を落とすなり、わざと〝羽理〟のところを強調してそう告げたら「ばっ、バカなんですかっ!? 五代くんがいるのに!」と小声で抗議してくる。
(バカ!? ちょっ、お前的にはそうかも知れんが、俺としては五代がいるからこそ!なんだがな!? それに……そんなに俺と付き合ってるのがバレたくないのか、荒木羽理! 土恵は社内恋愛には相当寛大だぞ!?)
などと思っている大葉を置き去りにして、羽理がソワソワと言い訳を開始してしまう。
「あ、あのね、五代くん。……ぶ、部長とは……そのっ、えっと、……そう! し、仕事のことで視察に来てるの!」
羽理は懸命に大葉から距離をあけようともがきつつ、目の前のチャラ男にそう言ってから、すぐそばに立つ大葉を非難がましく見上げてくる。
その目は明らかに『手、離して下さい』と訴えてきていたが、大葉はわざと気付かないふりをした。
その徹底ぶりに観念したのだろう。
羽理が、小さく吐息を落とすなりスッと手の力を抜くと、「屋久蓑部長、彼は私が教育係をした後輩で、現在は営業課に配属されている五代懇乃介くんと言います」と紹介してくれた。
(羽理が教育係をしていた後輩……?)
――だからやたらと懐いているのか。
そう思いはしたものの、どうにも納得がいかない。
そもそも、自分にも後輩は沢山いたし、もちろん若い頃には教育係をして育てた輩だって何人もいた。
だが、こんなに尻尾をブンブン振って懐いてきた人間は一人もいなかったのだ。
(まぁ……人柄ってのもあるんだろうが)
実際、自分が五代の立場でも羽理になら懐いたかも知れない。
対して、自分は後輩たちを決して必要以上に可愛がった覚えはないし、それこそあえて事務的に必要なことのみ伝えるようにしていた。
(懐かれたくないってオーラを出してたんだ。媚びてくるやつなんざ、いるわけねぇか)
そう思って、自分で自分を納得させようとしていると言うのに――。
「え!? ここって……生鮮食品の扱いなんてありましたっけ?」
なんて、目の前の五代が間の抜けた声を出してくるから、『こいつ、営業の癖に本気でそんなバカなこと言ってんのか?』と驚いた。
「あっ」
その瞬間、自分の腕の中から逃れるのを諦めたとばかり思っていた羽理に、まるで大葉の手から力が抜けるのを見計らっていたかのようなタイミングですり抜けられてしまう。
(この薄情者!)
手を解放されるなり、上司と部下としての適切な距離感を保ちたいみたいに大葉からスススッと離れた羽理に、そう思わずにはいられない。
だからだ。
悔しまぎれにも(手塩にかけて可愛がってもこの程度のレベルにしかなんねぇとか。ホントやり甲斐がねぇな、荒木羽理よ)とか思って、自分を慰めてみたのは。
それに――。
そう答えるチャラ男を牽制しつつ羽理の手首を握ると、大葉は彼女の小さな身体をこれ見よがしに自分の方へ引き寄せた。
「あひゃっ!? ――ちょっ、屋久蓑部長っ!」
目の前の男のせいだろう。
折角名前呼びをしてくれていた羽理が、苗字+役職呼びに戻ってしまったではないか。
そのことも非常に面白くないと思ってしまった大葉だ。
「……羽理、呼び方」
ちらりと羽理に視線を落とすなり、わざと〝羽理〟のところを強調してそう告げたら「ばっ、バカなんですかっ!? 五代くんがいるのに!」と小声で抗議してくる。
(バカ!? ちょっ、お前的にはそうかも知れんが、俺としては五代がいるからこそ!なんだがな!? それに……そんなに俺と付き合ってるのがバレたくないのか、荒木羽理! 土恵は社内恋愛には相当寛大だぞ!?)
などと思っている大葉を置き去りにして、羽理がソワソワと言い訳を開始してしまう。
「あ、あのね、五代くん。……ぶ、部長とは……そのっ、えっと、……そう! し、仕事のことで視察に来てるの!」
羽理は懸命に大葉から距離をあけようともがきつつ、目の前のチャラ男にそう言ってから、すぐそばに立つ大葉を非難がましく見上げてくる。
その目は明らかに『手、離して下さい』と訴えてきていたが、大葉はわざと気付かないふりをした。
その徹底ぶりに観念したのだろう。
羽理が、小さく吐息を落とすなりスッと手の力を抜くと、「屋久蓑部長、彼は私が教育係をした後輩で、現在は営業課に配属されている五代懇乃介くんと言います」と紹介してくれた。
(羽理が教育係をしていた後輩……?)
――だからやたらと懐いているのか。
そう思いはしたものの、どうにも納得がいかない。
そもそも、自分にも後輩は沢山いたし、もちろん若い頃には教育係をして育てた輩だって何人もいた。
だが、こんなに尻尾をブンブン振って懐いてきた人間は一人もいなかったのだ。
(まぁ……人柄ってのもあるんだろうが)
実際、自分が五代の立場でも羽理になら懐いたかも知れない。
対して、自分は後輩たちを決して必要以上に可愛がった覚えはないし、それこそあえて事務的に必要なことのみ伝えるようにしていた。
(懐かれたくないってオーラを出してたんだ。媚びてくるやつなんざ、いるわけねぇか)
そう思って、自分で自分を納得させようとしていると言うのに――。
「え!? ここって……生鮮食品の扱いなんてありましたっけ?」
なんて、目の前の五代が間の抜けた声を出してくるから、『こいつ、営業の癖に本気でそんなバカなこと言ってんのか?』と驚いた。
「あっ」
その瞬間、自分の腕の中から逃れるのを諦めたとばかり思っていた羽理に、まるで大葉の手から力が抜けるのを見計らっていたかのようなタイミングですり抜けられてしまう。
(この薄情者!)
手を解放されるなり、上司と部下としての適切な距離感を保ちたいみたいに大葉からスススッと離れた羽理に、そう思わずにはいられない。
だからだ。
悔しまぎれにも(手塩にかけて可愛がってもこの程度のレベルにしかなんねぇとか。ホントやり甲斐がねぇな、荒木羽理よ)とか思って、自分を慰めてみたのは。
それに――。
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