スキかキライかしかえらべません!

鷹槻れん

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08.スイーツセット/written by 市瀬 雪

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 その質問で、僕の鼓動は一気に加速した。
 思えば春川さんも元々僕に話があったと言っていた。誘って貰えて嬉しかった(良かった、だったかもしれないが)……とも。

 そしてその、いたたまれないように頬を染め、もじもじと恥ずかしがるようなの仕草――。

 僕だって今まで伊達に何百人もの女の子に告白されてきたわけじゃない。
 その視線の意味や、表情の見せ方、声音の語るところ……それだけで伝わってくるものがあることを知っている。

(……嘘、本当に?)

 慌てて言葉を取り繕おうとして、それもなかなか上手くいかない春川さんは、小柄な身体をいっそう小さく縮こませるようにして僅かに俯いた。

 そのまま束の間の沈黙が落ちる。
 この後――これに続くのは、一つしかない。

「春川さん、僕――」

 だけど、それならと僕は先に口を開いた。
 なのに、そこにちょうど店員さんがやってくる。

「お待たせしました」

 食後だからと、僕はコーヒーゼリー、春川さんは季節のケーキをそれぞれドリンクとセットで頼んでいた。それが届いたのだ。一緒に選んでいた温かい紅茶と共に。

「……では、また何かありましたらお呼びつけください」

 にこりと妙にあどけない笑顔を残し、成人男性にしては少しばかり背の低い店員が去って行く。まぁ、それでも楓馬よりは高そうだったけど。

「ご、ごめんね。久遠寺くん、実は……」
「あ、いや」

 天板に並べられたオーダー品に目を戻すと、待っていたみたいに春川さんがおずおずと顔を上げる。継がれた言葉に、僕は慌てて片手を上げて、「待って」と手のひらを春川さんの方へと向けて見せた。

「ち、違うの、さっきのは、えっと……」
「春川さん。僕いま、彼女いないよ」
「え……?」

 けれども、そうして彼女が黙ってくれたのは一瞬で、次にはまた口を開こうとする春川さんに、僕はかぶせるように言った。

「でも僕、彼女はいないけど好きな人はいて」
「え……っ!」

 目の前で、春川さんの大きな目が更に大きく見開かれた。
 僕は密やかに深呼吸をすると、

「今、目の前にいる人」

 努めて優しい笑顔でそう告げた。

 ……今にも口から飛び出そうだった心臓を無理矢理飲み込んで。
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