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10.成り行きとはいえ/written by 市瀬雪

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 一緒にいた友人キヨが言っていた。
 小学生だか中学生だかの女の子が、男の子に告白されてるって。
 その光景を俺は直接見ていなかったが、途中トイレに立ったキヨが、実際にその会話を盗み聞きして帰ってきた。そして教えてくれたのだ。「マジアオハルだった!」と妙に高いテンションで。

 そしてその後、先に店を出た二人が窓外を通り過ぎるのを見て、ようやく気付いた。
 そのが、萌々ももだったことに。

 ちなみに、隣にいた男の顔面レベルはかなり高かった。特別高身長というわけではなかったが、顔が小さいせいかスタイルもモデル並みだったように思う。

 印象としては見るからに万人受けするというか、きらきらとした好青年という感じで、よくあんなのが萌々を選んでくれたものだと正直思ったが、萌々の方も素直に喜んでいるように見えたので、普通に良かったなという気持ちになった。


 だからそう口にしたのに、

「きょ、協定があって……色々な問題が片付くまで周りにはアレ、内緒なのっ。だからっ、りゅうちゃんも見なかったことにしといてっ!」

 ってのはいったいどういう了見だ。

 なのにそれを突っ込む間もなく、萌々ももはまるで捨て台詞のようにそう言って、漫画みたいに走り去った。そんな後ろ姿を半ば呆然と見送ってから、

「……あいつ結構力あんのな」

 俺は遅れて呟くと、足元に転がっていた菓子パンの袋をおもむろに拾い上げた。
 いちご風味とかかれた、ピンクのメロンパン。バーコード部分には半額シールがしっかりと貼られている。

 ……なんか萌々あいつの顔に似てる気がする。
 思えばメロンパンの上に萌々の顔が重なって見え、俺は一人小さく肩を揺らした。

「つか……協定ってなんだ、協定って」

 それからまた呆れたように独りごちてみたものの、当然そこに返る声はない。

「またアホなこと考えてんじゃねぇだろうな、あいつ……」

 苦笑混じりに溜息をつくと、俺はメロンパンを提げていた紙袋に放り込み、そのまま駅へと踵を返した。

 実家いえのことなんて今更のことなのに、少しだけ滅入っていた気持ちがいつのまにか消えていた。
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