32 / 55
11.ズルくて意気地なしの私/written by 鷹槻れん
4
しおりを挟む
「僕……実は猫舌なんだ」
ほんわりした甘みに包まれた紅茶に数回くちをつけたところで、久遠寺くんが自身もカップを傾けながらそう微笑んで。
私はカップをソーサーに戻すと、覚悟を決めて久遠寺くんを見つめた。
「あのね。……実は私、えっちゃんから……久遠寺くんと仲良くなるための橋渡しを頼まれてて……」
さっき久遠寺くんに誘われた時、その話を切り出すチャンスだと思ってしまったの、とぽつん……とつぶやいた。
「なのに……私が久遠寺くんとこんな……。そんなの……えっちゃんを裏切ることになっちゃう。許されるわけ……ないよ」
泣きそうになりながらしどろもどろに言ってうつむいたら、久遠寺くんが小さく吐息をついたのが分かった。
「えっと……ごめん。さっき言いかけたこと、言っちゃうね」
久遠寺くんの柔らかな声に、私はゆっくりと顔を上げる。
「僕、林田さんと友達になるよ。友達になって、彼女のこと……僕なりに見極めてみる。その上で、ちゃんと話をするよ。だからそれまでは――僕たちも今まで通り、ってことで……どうかな?」
私は久遠寺くんの言葉に瞳を見開いた。
久遠寺くんの提案はとてもありがたいもので……そうしてもらえたなら、私はとありえず〝えっちゃんに対しては〟義理を通せたことになる。
表向きは――。
実際は彼女を裏切っていると言う現状に変わりはないし、何より……。
例ええっちゃんの方は丸く収まったとしても……私と久遠寺くんの方は――ますますドツボにハマってしまう。
でも、じゃあ他にどうすればいいのかって思うと思い浮かばなくて。
少し問題を先延ばしにできたなら、その間に現状を打開できる何かいい策が浮かぶかもしれない。
だったら――。
わざわざ今波風を立てなくても、久遠寺くんの申し出にうなずいてしまおう。
ズルくて意気地なしの私はそう判断したの。
***
「久遠寺くん、えっちゃんとお友達になりたいって……」
私の言葉に、えっちゃんが一瞬言葉を失って、それから身を乗り出すようにしてクリームソーダの器ごと私の手をギュッと包み込んだ。
「本当!? ありがとう! 萌々ちゃんっ!」
そう言って、嬉しそうににっこり笑うえっちゃんをまともに見つめられなくて、私は思わずうつむいた。
ほんわりした甘みに包まれた紅茶に数回くちをつけたところで、久遠寺くんが自身もカップを傾けながらそう微笑んで。
私はカップをソーサーに戻すと、覚悟を決めて久遠寺くんを見つめた。
「あのね。……実は私、えっちゃんから……久遠寺くんと仲良くなるための橋渡しを頼まれてて……」
さっき久遠寺くんに誘われた時、その話を切り出すチャンスだと思ってしまったの、とぽつん……とつぶやいた。
「なのに……私が久遠寺くんとこんな……。そんなの……えっちゃんを裏切ることになっちゃう。許されるわけ……ないよ」
泣きそうになりながらしどろもどろに言ってうつむいたら、久遠寺くんが小さく吐息をついたのが分かった。
「えっと……ごめん。さっき言いかけたこと、言っちゃうね」
久遠寺くんの柔らかな声に、私はゆっくりと顔を上げる。
「僕、林田さんと友達になるよ。友達になって、彼女のこと……僕なりに見極めてみる。その上で、ちゃんと話をするよ。だからそれまでは――僕たちも今まで通り、ってことで……どうかな?」
私は久遠寺くんの言葉に瞳を見開いた。
久遠寺くんの提案はとてもありがたいもので……そうしてもらえたなら、私はとありえず〝えっちゃんに対しては〟義理を通せたことになる。
表向きは――。
実際は彼女を裏切っていると言う現状に変わりはないし、何より……。
例ええっちゃんの方は丸く収まったとしても……私と久遠寺くんの方は――ますますドツボにハマってしまう。
でも、じゃあ他にどうすればいいのかって思うと思い浮かばなくて。
少し問題を先延ばしにできたなら、その間に現状を打開できる何かいい策が浮かぶかもしれない。
だったら――。
わざわざ今波風を立てなくても、久遠寺くんの申し出にうなずいてしまおう。
ズルくて意気地なしの私はそう判断したの。
***
「久遠寺くん、えっちゃんとお友達になりたいって……」
私の言葉に、えっちゃんが一瞬言葉を失って、それから身を乗り出すようにしてクリームソーダの器ごと私の手をギュッと包み込んだ。
「本当!? ありがとう! 萌々ちゃんっ!」
そう言って、嬉しそうににっこり笑うえっちゃんをまともに見つめられなくて、私は思わずうつむいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる