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8.私、行きたいのですっ!*
羽住くんとさよならをしてから、ずっとずっと考えていたのです
***
「見て下さい、修太郎さんっ! この泡、ホントにフワフワでホワホワなのですっ♥」
先程まであんなに恥ずかしそうに縮こまっていたのに。
泡風呂でお湯の中が見えないことにすっかり安心したらしい日織が、彼女の背後に座る修太郎を振り返って目を輝かせる。
浴槽が広いので、意図してくっ付かない限り、身体が触れ合うことがないのも、日織を油断させているのだろう。
修太郎との間に十数センチの隙間をあけて座った日織は、泡を手にすくっては息を吹きかけて飛ばす、という動作を繰り返していた。
まるで少女のようにはしゃぐ日織を見ていると、修太郎も自然と口元が綻んでくる。
先程まではあんなに婀娜な雰囲気を醸し出していたのに、今は何も知らない純粋無垢な少女のように、ただただひたすらに愛らしい。
「修太郎さん、私……」
と、泡飛ばしに少し飽きてきたらしい日織が、不意に修太郎を見上げてつぶやいた。
決して扇状的なわけではないのに、色素の薄い大きな瞳に媚びるように見上げられると、心臓が飛び跳ねてしまう修太郎だ。
「――?」
それを悟られないよう気を付けながら、日織の言葉にほんの少しだけ首を傾げて先を促せば、日織は小さく深呼吸をしてから言った。
「――私、行きたいのですっ!」
と。
当然修太郎は「何処に?」と問わずにはいられない。
さすがに今の流れで「達したいのですっ!」ではないだろうと言うのは分かったけれど、ではそれ以外に何が?と考えると、修太郎には皆目見当もつかなくて。
「あっ、ごっ、ごめんなさい……。私、気持ちが先走り過ぎましたっ」
修太郎の、疑問符満載の顔を見て、日織が申し訳なさそうにソワソワと瞳を揺らせる。
「――お、怒らないで聞いて頂きたいのです」
そこで一旦言葉を区切ると、修太郎が「わかりました」と意思表示をするのを待ってから、日織は恐る恐ると言った様子で言葉を続けた。
「……私、実は先ほど羽住くんとさよならをしてから……ずっとずっと考えていたのです」
途中、修太郎に心も身体もかき乱されて思考停止になった時間帯はあったけれど、それ以外の部分では頭の片隅で考え続けていたのだと日織は言った。
「さっき、修太郎さん、私にお聞きになられましたよね? ――羽住くんに何の約束をして、何の連絡をしようとしていたのか?って」
話に夢中になる余り、日織が前のめりになって。
白く、きめの細かい肌を覆い隠していたふわふわの泡が、ゆっくりと日織の双丘を滑り落ちていく。
さっきまでは見えなかったふくよかな胸の谷間が露わになって、修太郎はその甘美な美しさに息を呑んだ。
所々に修太郎が激情に任せて刻みつけた赤い鬱血の痕が見えるのがまた堪らなくエロティックで。
だけどそれにも気付かない様子の日織は、至極真剣に何かを考えあぐねている様子だった。
その、どこか張り詰めた空気が、修太郎に日織の肌へ手を伸ばすのをギリギリのところで躊躇わせるのだ。
ややして、日織はその戸惑いをふぅっと吐息とともに吐き出すと、意を決したように真っ直ぐな瞳で修太郎をひたと見据えてきた。
「――実は私、羽住くんから酒蔵祭りの売り子をしないかと誘われました。私、日本酒大好きですし……羽住酒造の吟醸酒、『波澄』も大好きなんです。だから……。私っ! 修太郎さんはお嫌でしょうけれど……酒蔵祭りのお手伝いにどうしても行きたいのですっ!」
日織の決意に燃える表情を見て、修太郎はつい一ヶ月ばかり前のバレンタインの日、一葉の葉書を修太郎に見せながら、同窓会に「どうしても行ってみたいのですっ!」と打診してきた日織の表情を思い出していた。
「見て下さい、修太郎さんっ! この泡、ホントにフワフワでホワホワなのですっ♥」
先程まであんなに恥ずかしそうに縮こまっていたのに。
泡風呂でお湯の中が見えないことにすっかり安心したらしい日織が、彼女の背後に座る修太郎を振り返って目を輝かせる。
浴槽が広いので、意図してくっ付かない限り、身体が触れ合うことがないのも、日織を油断させているのだろう。
修太郎との間に十数センチの隙間をあけて座った日織は、泡を手にすくっては息を吹きかけて飛ばす、という動作を繰り返していた。
まるで少女のようにはしゃぐ日織を見ていると、修太郎も自然と口元が綻んでくる。
先程まではあんなに婀娜な雰囲気を醸し出していたのに、今は何も知らない純粋無垢な少女のように、ただただひたすらに愛らしい。
「修太郎さん、私……」
と、泡飛ばしに少し飽きてきたらしい日織が、不意に修太郎を見上げてつぶやいた。
決して扇状的なわけではないのに、色素の薄い大きな瞳に媚びるように見上げられると、心臓が飛び跳ねてしまう修太郎だ。
「――?」
それを悟られないよう気を付けながら、日織の言葉にほんの少しだけ首を傾げて先を促せば、日織は小さく深呼吸をしてから言った。
「――私、行きたいのですっ!」
と。
当然修太郎は「何処に?」と問わずにはいられない。
さすがに今の流れで「達したいのですっ!」ではないだろうと言うのは分かったけれど、ではそれ以外に何が?と考えると、修太郎には皆目見当もつかなくて。
「あっ、ごっ、ごめんなさい……。私、気持ちが先走り過ぎましたっ」
修太郎の、疑問符満載の顔を見て、日織が申し訳なさそうにソワソワと瞳を揺らせる。
「――お、怒らないで聞いて頂きたいのです」
そこで一旦言葉を区切ると、修太郎が「わかりました」と意思表示をするのを待ってから、日織は恐る恐ると言った様子で言葉を続けた。
「……私、実は先ほど羽住くんとさよならをしてから……ずっとずっと考えていたのです」
途中、修太郎に心も身体もかき乱されて思考停止になった時間帯はあったけれど、それ以外の部分では頭の片隅で考え続けていたのだと日織は言った。
「さっき、修太郎さん、私にお聞きになられましたよね? ――羽住くんに何の約束をして、何の連絡をしようとしていたのか?って」
話に夢中になる余り、日織が前のめりになって。
白く、きめの細かい肌を覆い隠していたふわふわの泡が、ゆっくりと日織の双丘を滑り落ちていく。
さっきまでは見えなかったふくよかな胸の谷間が露わになって、修太郎はその甘美な美しさに息を呑んだ。
所々に修太郎が激情に任せて刻みつけた赤い鬱血の痕が見えるのがまた堪らなくエロティックで。
だけどそれにも気付かない様子の日織は、至極真剣に何かを考えあぐねている様子だった。
その、どこか張り詰めた空気が、修太郎に日織の肌へ手を伸ばすのをギリギリのところで躊躇わせるのだ。
ややして、日織はその戸惑いをふぅっと吐息とともに吐き出すと、意を決したように真っ直ぐな瞳で修太郎をひたと見据えてきた。
「――実は私、羽住くんから酒蔵祭りの売り子をしないかと誘われました。私、日本酒大好きですし……羽住酒造の吟醸酒、『波澄』も大好きなんです。だから……。私っ! 修太郎さんはお嫌でしょうけれど……酒蔵祭りのお手伝いにどうしても行きたいのですっ!」
日織の決意に燃える表情を見て、修太郎はつい一ヶ月ばかり前のバレンタインの日、一葉の葉書を修太郎に見せながら、同窓会に「どうしても行ってみたいのですっ!」と打診してきた日織の表情を思い出していた。
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