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9.佳穂とカフェで
えらいぞぉ〜、修太郎
「日織ちゃんって……一見天真爛漫でふわふわの天然さんに見えるけど……結構ココって部分では自分を曲げない芯の強さがあるわよね」
さっき自分も思っていたことを佳穂に言われて、修太郎は少し驚いてしまった。
「あら? 気付いてないと思ってた? ちょっと話したら分かるわよ、そのぐらい」
だから、修太郎が日織に負けてしまえるようになれたのは好ましいことなのだと佳穂が笑う。
「修太郎がね、日織ちゃんのそういう絶対に譲れないところまで押さえつけてしまったら……きっと貴方たちの関係って崩壊しちゃうと思うのよ」
サラリと恐ろしいことを言う佳穂に、修太郎は思わず腰が浮いてしまった。
「何慌ててるのよ。今の修太郎なら大丈夫よって話じゃない。だってほら、今回の売り子の件は日織ちゃんにとっての『譲れないところ』だったからあけて通したわけでしょう?」
言われて、修太郎は小さく吐息を落として「その通りだよ」とつぶやいた。
今朝だって、本当は『行ってきますね』と羽住酒造に出向くのだとメールしてきた日織に、ついて行きたかった修太郎だ。
だけど「送って行きましょうか」と問いかけた修太郎に、日織は即座に『大丈夫です。お仕事のことだから自力で頑張りたいんです。気遣って下さって有難うございます』と拒絶の意志を伝えてきた。
外で働いた経験が、先の市役所での足掛けバイトのような経験しかない日織は、だからこそ仕事の時は誰よりも「一人前」でありたいと願っている。
現に日織は、プライベートなことならば、大抵修太郎の申し出に「有難うございます」と乗ってくれるのだ。
だけど今回は仕事だから。「一人で頑張りたい」と日織がいつも以上に気張っているのが、修太郎にも先のメールからひしひしと伝わってきて。
『自分がすることでお金を頂けるのって本当に久々なのです! 私、いま、とってもワクワクしています! 修太郎さん、私のバイト、許可して下さって本当に有難うございます! 私、幸せ者なのですっ!』
昨夜電話口で、『明日から売り子のための研修なのです』と言ってきた日織が、通話を終える間際に嬉しそうにそう声を弾ませたのを修太郎は思い出す。
(あんなに嬉しそうにされたら、邪魔なんて出来ないじゃないか)
修太郎が、自分の勝手な嫉妬心から日織のそういう気持ちを踏み躙るようなことをしてしまったら、きっと日織を悲しませてしまう。
「今日は日織さん、売り子の『研修』に行ってるから」
――だから僕は一人でここにいるんだよ。
先に佳穂から投げかけられた質問への答えを言外に含ませてそう言ったら、佳穂がフフッと微笑んだ。
「そっか。保護者同伴みたいな真似をして、一人前のレディーに恥をかかせるわけにはいかないものね」
日織は修太郎の大事な奥さんだ。
いくら歳が一回り以上離れていても、一人で何も出来ないような子供じゃない。
一人前の女性として扱った結果が現状なのだ、と佳穂は理解してくれたらしい。
「えらいぞぉ~、修太郎」
テーブルの向こう側。ヨシヨシと撫でるような仕草とともにそう言われて(実際に頭を撫でられたわけではないけれど)、
「佳穂、それ、僕のことを子供扱いしてるって気付いてる?」
修太郎は憮然とした声音でそうぼやかずにはいられなかった。
さっき自分も思っていたことを佳穂に言われて、修太郎は少し驚いてしまった。
「あら? 気付いてないと思ってた? ちょっと話したら分かるわよ、そのぐらい」
だから、修太郎が日織に負けてしまえるようになれたのは好ましいことなのだと佳穂が笑う。
「修太郎がね、日織ちゃんのそういう絶対に譲れないところまで押さえつけてしまったら……きっと貴方たちの関係って崩壊しちゃうと思うのよ」
サラリと恐ろしいことを言う佳穂に、修太郎は思わず腰が浮いてしまった。
「何慌ててるのよ。今の修太郎なら大丈夫よって話じゃない。だってほら、今回の売り子の件は日織ちゃんにとっての『譲れないところ』だったからあけて通したわけでしょう?」
言われて、修太郎は小さく吐息を落として「その通りだよ」とつぶやいた。
今朝だって、本当は『行ってきますね』と羽住酒造に出向くのだとメールしてきた日織に、ついて行きたかった修太郎だ。
だけど「送って行きましょうか」と問いかけた修太郎に、日織は即座に『大丈夫です。お仕事のことだから自力で頑張りたいんです。気遣って下さって有難うございます』と拒絶の意志を伝えてきた。
外で働いた経験が、先の市役所での足掛けバイトのような経験しかない日織は、だからこそ仕事の時は誰よりも「一人前」でありたいと願っている。
現に日織は、プライベートなことならば、大抵修太郎の申し出に「有難うございます」と乗ってくれるのだ。
だけど今回は仕事だから。「一人で頑張りたい」と日織がいつも以上に気張っているのが、修太郎にも先のメールからひしひしと伝わってきて。
『自分がすることでお金を頂けるのって本当に久々なのです! 私、いま、とってもワクワクしています! 修太郎さん、私のバイト、許可して下さって本当に有難うございます! 私、幸せ者なのですっ!』
昨夜電話口で、『明日から売り子のための研修なのです』と言ってきた日織が、通話を終える間際に嬉しそうにそう声を弾ませたのを修太郎は思い出す。
(あんなに嬉しそうにされたら、邪魔なんて出来ないじゃないか)
修太郎が、自分の勝手な嫉妬心から日織のそういう気持ちを踏み躙るようなことをしてしまったら、きっと日織を悲しませてしまう。
「今日は日織さん、売り子の『研修』に行ってるから」
――だから僕は一人でここにいるんだよ。
先に佳穂から投げかけられた質問への答えを言外に含ませてそう言ったら、佳穂がフフッと微笑んだ。
「そっか。保護者同伴みたいな真似をして、一人前のレディーに恥をかかせるわけにはいかないものね」
日織は修太郎の大事な奥さんだ。
いくら歳が一回り以上離れていても、一人で何も出来ないような子供じゃない。
一人前の女性として扱った結果が現状なのだ、と佳穂は理解してくれたらしい。
「えらいぞぉ~、修太郎」
テーブルの向こう側。ヨシヨシと撫でるような仕草とともにそう言われて(実際に頭を撫でられたわけではないけれど)、
「佳穂、それ、僕のことを子供扱いしてるって気付いてる?」
修太郎は憮然とした声音でそうぼやかずにはいられなかった。
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