【完結】【R18】キス先② 大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!

鷹槻れん

文字の大きさ
53 / 105
10.羽住一斗という男

旦那の前でも今みたいに言えんのかよ?

 多分、世の中女性たちの九割以上が目を奪われるハンサムさんだったのだが、日織ひおりはそんな一斗いっとを見て別のことを考えていた。

修太郎しゅうたろうさんが同じ格好をなさったら絶対絶対めちゃくちゃ素敵なのですっ)

 やはり結婚式では修太郎の和装が見たいと改めて実感させられた日織だ。


「久しぶりだね、日織ちゃん。すっかり大人の女性になっちゃって」

 十升みつたかの実兄なので、よく見ると顔の作りはとても似ていると思う。
 特に眼鏡の奥に隠れていて見えづらいけれど、切れ長な目元なんて二人ともそっくりだ。

 だけど、身にまとう雰囲気が落ち着いていて穏やかだからか、全然印象が違って見えるのが、日織には不思議で堪らなかった。

 幼い頃から十升はすみくんは苦手だけど、一斗いっとさんはなぁと思い出した日織だ。

「有難うございますっ。一斗いっとさんも相変わらず素敵なのですっ」

 サラリと告げられた褒め言葉に、日織ひおりも気負わずそう返すことが出来たのは一斗いっとの雰囲気が何となく修太郎しゅうたろうに似たところがあるからだろうか。

 日織が変なことを言っても穏やかに笑って包み込んでくれるような、そんなオーラを纏った優しいお兄ちゃん。

 それが、同級生十升みつたかの兄、羽住はすみ一斗いっとという男に対する日織のイメージだった。


「ひお、……塚田つかだっ。お前、俺の時と態度違い過ぎだろ! 俺のとことも下の名前で呼べよな!?」

 拗ねたように十升みつたかが言ってきたけれど、役得というものがあるんだから仕方がない。

 一斗いっとさんは優しい一斗いっとさんで、十升みつたかはやっぱり幼い頃からいじめっ子の羽住はすみくんなのだ。

「そ、それにっ! 何で兄貴が呼んだ時には文句言わねぇんだよ!」

 続いてムスッとした口調で続けられた言葉に、日織はキョトンとする。

「――何がですか?」

 十升みつたかの抗議の意味が分からなくて小首を傾げれば、
「はぁ!? お前っ、気付いてねぇのかよ! さっきから兄貴、お前のこと〝日織ちゃん〟って呼んでんだろーがっ」
 と食い下がられた。

「え?」

 そうでしたっけ?と思ってしまった日織ひおりだ。

 十升みつたかの視線を横に受け流すようにして一斗いっとを見つめたら「だって僕にとって日織ちゃんは小さい頃から日織ちゃんなんだもの。他に呼び方なんてないでしょ?」と微笑まれた。

 そう言えばそうだ。

 一斗いっとは日織を見つけるなり「日織ちゃん」と呼び掛けてきていた。

 でも、一斗いっとには幼い頃から「日織ちゃん」と呼ばれていたからか、日織にはそれが違和感なく耳馴染んで聞こえていて。

 そこに注目するように仕向けられた今でさえ、別に嫌じゃない。

「不思議なのですっ。一斗いっとさんから呼ばれるのは嫌じゃないのです」

 それで思ったままを口にしたら十升みつたかが明らかにムスッとした顔をした。

「何だよそれ。お前、旦那の前でも今みたいに言えんのかよ?」

 自分は日織のことを――呼び捨てではあったけれど――下の名で呼んで手痛いしっぺ返しを喰らったのに。


 兄貴だけおとがめなしとかおかしいだろ?という不満が、十升みつたかからヒシヒシと感じられる。

「そ、それは――」

 正直分からない、と思ってしまった日織ひおりだ。


「ん~? 日織ちゃんのご主人はそんなに嫉妬深いの?」

 何も知らない一斗いっとがほわんとした口調でそう問えば、十升みつたかがそんな兄をキッと睨みつける。

え~っちゅーもんじゃねぇんだよ! 兄貴もこいつのことは〝塚田つかださん〟って呼べるように練習しといた方がいいぞ」

 これは脅しではない。
 十升みつたかの本心から出た言葉だったのだが、一斗いっとは眼鏡の奥の温和そうな目を一瞬だけスッとすがめただけで、クスッと笑って弟からの忠告を聞き流してしまう。

「僕は嫌だな。結婚してようとしてなかろうと、僕にとって彼女は〝日織ちゃん〟だ。誰かに言われて呼び名を変えるとか有り得ないよ。――ね? 日織ちゃん。キミもそう思うでしょう?」

 一斗いっとにそう言われると、そうかも知れないと思わされる不思議な力があった。

 日織ひおりは無意識、一斗いっとの笑顔にほだされるみたいにコクッと頷いてしまっていた。


「さあ、こんな寒いところでいつまでも立ち話も何だし……中、入ろっか。きっと親父が一人でヤキモキしてるよ?」

 一斗いっとは、未だに何か言い募ろうとする十升おとうとの前に片手をスッとかざすと、「この話はもうしまいだよ?」と言わんばかりに制してしまう。
 そうして自分のすぐ横に立つ日織ひおりの手をごくごく自然な様子で握った。


「可愛い日織ちゃんに風邪でもひかせちゃ、それこそ一大事だ。――行こう?」

 日織も、修太郎しゅうたろう以外の異性に手を引かれたというのに、何故か「ダメ」だという気持ちが湧いてこなくて、そのまま「はい」と応えて素直に従ってしまう。


 その場に取り残された十升みつたかだけ一人、そんな二人の様子を見て、「絶対ヤベーだろ、これ」と思っていた。
 
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。