【完結】【R18】キス先② 大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!

鷹槻れん

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11.羽住酒造と藤原家の稼業

羽住酒造のこと

「それで……今日は羽住はすみ酒造のこと、色々教わってきたのですっ!」

 仕事を終えて、修太郎しゅうたろう羽住はすみ酒造近くの公園で待ち合わせをして。

 修太郎の愛車・アルファードの助手席に乗り込んでシートベルトをするなり、日織ひおりが勢い込んでそうまくし立ててきた。


***


 売り子をするにしても、ある程度は羽住はすみ酒造の実情を知っておいて欲しいというのが、雇用者側の考えだったらしい。


 日織ひおりが、一斗いっとに手を引かれて社屋内――販売ブースも兼ねているらしい酒蔵とは別棟の建物――に入ると、程よく空調の効いた室内に、一斗いっと十升みつたかの父・善蔵ぜんぞうが待っていた。

 一瞬、善蔵も彼の長子である一斗いっと同様和装のように見えた日織だったけれど、よく見ると善蔵の方は洋装に『羽住はすみ酒造』と襟字えりじの入った法被はっぴを羽織っているだけで。
 濃紺のその法被、よく見ると白く抜かれた腰柄は、「酒造」という文字が角字(正方形の文字)で連ねられている洒落たデザインだった。

 売り子をする際には自分もその法被を羽織ることになるのだと言われて、とても嬉しかった日織だ。

 汚れ仕事をする際には、これに看板商品『純米吟醸 波澄はすみ』の文字が墨痕淋漓ぼっこんりんりとした筆致ひっちで書かれた硫化染めの帆布はんぷ素材の前掛けをつけたりするらしい。

 ちなみにその文字、地元では割と名の知れた書家の方に依頼して書いて頂いたものらしく、波澄はすみのラベルにも使用されている。


「私もその前掛けをすること、あるでしょうか?」

 ワクワクして問いかけた日織ひおりに、善蔵ぜんぞうは一瞬キョトンとしてから、「う~ん。日織ひおりちゃんに汚れるようなことを頼むことは多分ないし……。仕事でこれを身に付ける機会はないと思うけど、良かったら一枚あげようか?」と言われて。

「いっ、いただくのは申し訳ないのですっ。あっ。た、足りるかどうかは分からないのですけれど、お給料引きにして頂きたいのですっ」

 そう勢い込んで言ったら、ブハッと豪快に笑われて、「おじさんから日織ひおりちゃんへのプレゼントだから気にしないで」と目尻を下げられてしまった。

「あ、あのっ、でも、でもっ」

 それでも尚、オロオロする日織ひおりに、十升みつたかが「年寄りの厚意は黙って受け取っといてやれ。断ったら悲しむぞ」と口を挟んで、善蔵ぜんぞうから「誰が年寄りだ!」と叱られていた。

 一斗いっとはそんな三人の様子を穏やかな笑みを浮かべて遠巻きにしていて。

 実は一斗いっとには一事が万事、こんな風に一歩引いたところから物事を観察するようなきらいが昔からあったのだが、日織ひおりに対しては割と積極的に口出しすることが多かったため、誰も気付いていなかった。
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