【完結】【R18】キス先② 大安吉日。私、あなたのもとへ参りますっ!

鷹槻れん

文字の大きさ
99 / 105
18.大安吉日

ちゃんとの意味を知りたいのですっ

「それが、彼女をめとらせて頂くための、お義父とうさんからの絶対条件でしたので」

 自分だって本当は喉から手が出そうなくらい日織ひおりとの同棲生活を夢見たのだ。

 それがやっと。

 そう思うとニヤけてしまいそうになるのを堪えるのに必死というのが正直なところ。


「修太郎さん?」

 今まで葵咲きさきとキャッキャ言っていた日織が、いつの間にかそばまで来ていて自分を見上げていた。

 理人も彼女に呼ばれたのか、葵咲の横で何やら楽しそうに談笑している。

 自分はどれだけ呆けていたのだろうと思わず苦笑してしまった修太郎だ。

 それがますます日織を混乱させて。

「――すみません。やっと日織さんと一緒に暮らせるんだと思ったら、色々楽しみすぎてぼんやりしてしまっていました」

 苦笑混じりに言えば、

「わ、私もっ。夢みたいなのですっ!」

 日織がギュッと修太郎に抱きついてきた。

 そんな日織をそっと抱き寄せながら、修太郎は「早く二人きりになれないかな」と、心の中で小さく吐息を落とした。


***


「ききちゃんと池本さんはもうずっと一緒に住んでいらっしゃるんですよね?」

 ソワソワとした様子で日織ひおりが問いかけてきて、理人はニコッと〝他所行きの笑顔〟を浮かべると「はい」と答える。

「ご、ご入籍とかは……」

 葵咲きさきの左手薬指に光る大きなダイヤ付きの指輪を見れば、二人が婚約中なのは確かだ。

 日織は、実際葵咲からもそう聞かされている。

「今すぐにでも、と言いたいところなんですが……」

 そこで理人が言い淀んだのを見て、葵咲が吐息を落とした。

「私が大学を卒業して……ちゃんとするまではしないって理人が」

 どうやらこれに関しては、葵咲はちょっぴり思うところがあるみたいだ。

「ちゃんと、とは?」

 テーブルの上には先日修太郎が酒蔵祭りで入手してきた日本酒の中から、日織お気に入りの『金雀きんすずめ』の七二〇ミリリットルボトルから注がれた冷酒用デキャンタが置かれていて。

 四人はそれを飲みながら喋っている。

 日織、日本酒では目立って酔いはしないのだが、体調によっては静かに酔って、いつもより若干大胆になるのを知っている修太郎だ。

 他の三人の手元にも日織ひおり同様日本酒用のグラスが置かれているけれど、日織が飲むピッチが一番早いことが、修太郎は気になっている。

「日織さん、とりあえずつまみ、食べましょうか」

 グイグイと前のめりで客人に迫る日織に、修太郎が刺身こんにゃくを勧める。

 金雀のフルーティーさには、刺身こんにゃくの酢味噌ダレがよく合う。

 合うのだけれど――。

 先刻から日織は空きっ腹にお酒ばかり入れているような気がして気が気じゃない修太郎だ。

「ちゃんと食べてますよ?」

 日織がぷぅっと頬を膨らませて口を尖らせるのを見て、もう少し何か食べさせたほうがいいな、と修太郎は小さく吐息を落とす。

 修太郎に言われて刺身こんにゃくを一切れ口に放り込んだ日織だったけれど。

「あ、あのっ。さっきの……ちゃんとの意味を知りたいのですっ」

 それを飲み込むなり理人をじっと見つめて。

 理人が日織の前のめりぶりに思わず苦笑いを浮かべる。

「すみません、池本さん」

 日織は本来日本酒に関して言えばほぼザルなのだけれど。

 今日は結婚式でずっと気持ちが張り詰めていたからだろうか。

 珍しく酔っている気がした。

 口調とパッと見こそ、本当にいつも通りだから分かりにくいのだけれど、普段であればこんなにグイグイ行く子ではないから。

日織ひおりさん……」

 修太郎が声を掛けるけれど日織は理人から目を逸らさない。

「ひおちゃん……」

 葵咲きさきがそんな幼なじみを心配そうに見つめて。

 日織は自分を案じてくれる葵咲に眉根を寄せると
「待たされる辛さは私、イヤと言うほど骨身にしみているのですっ。だからっ。ききちゃんのこと、すごくすごく気になるのですっ」

 言って、まるで景気付けのように手元に置かれた金雀きんすずめをクイッと煽った。

「あっ……」

 思わず修太郎が声を上げたけれど日織本人はいっかな意に介した様子はない。

 よく冷えた金雀は、グラスを程よく曇らせていて、それがビジュアル的にも美味しさに拍車をかけているように見えて。

 理人は小さく吐息を落とすと、日織同様自分のグラスを空にした。

「勝手に……失礼しますね」

 理人は一言修太郎に断りを入れると、くぼみに氷の入った冷酒用のデキャンタを手に取って、日織のグラスに酒を注いだ。

「あ、ありがとうございます。私も……」

 日織も理人にも同じようにして。

 二人の――と言うより日織のグラスにまたしてもお酒が満たされてしまう。

「理人っ」

 修太郎が、これ以上はあまり日織ひおりに飲ませたがっていないことを察した葵咲きさきが、すぐ横に座る理人をいさめたけれど後の祭り。

 実際理人だって修太郎の気持ちに気づいていないわけはないだろうに、と不思議に思いながら恋人を見つめた葵咲だ。


「僕は……葵咲の将来を縛る足枷あしかせになりたくないなと思っています。だから……僕とのことは考えない状態で、葵咲には自分のなりたいものになって欲しいと思っているんです。――彼女がちゃんと地に足を付けられたら、その時こそは葵咲を離すつもりはありません。それが僕が考える〝ちゃんと〟の意味です」

 理人がまるで酒の力を借りたから、と言うていで注がれたばかりの日本酒で口を湿らせながら一気に言って。

 葵咲はそんな理人を、驚いたように瞳を見開いて見遣った。

「理人……」

 葵咲はハッキリと、恋人からこんな風に口に出してその真意を言われたことがなかったのかもしれない。

 葵咲の様子を見てそう思った修太郎だ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

藤白ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。