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19.始まりの日*
修太郎さんはマイクロバスも運転出来るんでしたよね?
「私、自分からは死角になっていて見えないところの妊娠線も怖いのですっ」
眉根を寄せて日織が言ったら「その辺りは僕が毎日しっかり目視しながらケアさせていただいているので大丈夫です」とやけに自信満々に言い切られてしまった。
双子の妊娠が分かってからは、大事をとって夜の夫婦生活は、とんとご無沙汰になってしまっている二人だけれど、その分スキンシップは欠かさないよう心がけている。
毎晩一緒にお風呂に入っているのだってその一環だ。
お風呂上がりの妻のボディケアは、修太郎の日々の楽しみの一つになっている。
出産予定日は一か月半後の八月下旬。
晩夏に生まれてくる予定の男の子と女の子に、何だかんだ言いながらも日織と修太郎はワクワクさせられっぱなしなのだ。
「たくさん子供欲しいですねってお話しましたが、いきなり二人の父親になるのは想定外でした」
修太郎が、立ち上がって自分を見上げてくる日織を、お腹を潰さないように気を付けながらそっと抱きしめてそうつぶやけば、日織が「本当に」と返してから「あっ」と何かを思い出したように小さく身体を撥ねさせて。
「日織さん?」
その声に日織の顔を覗き込んだ修太郎に、「私、修太郎さんにずっとお聞きしたいことがあったのを思い出したのですっ!」と色素の薄い目で愛らしく見上げてくる。
「何でしょう?」
ツヤツヤと濡れ光る日織の唇に優しく触れながら先をうながした修太郎に、日織がソワソワした様子で問いかけてきた。
「修太郎さんのお車は……何人乗りですか?」
と。
想定外の質問に「えっ?」と思わず間の抜けた声が漏れてしまった修太郎だ。
「私、家族でお出かけするときは一台の車に全員で乗って行きたいのですっ! なので」
ああ、それで車の定員……と思った修太郎だ。
「僕の車は八人乗りなので心配いりませんよ」
日織の頬をスリスリと撫でながら答えたら、「でしたら……子供は六人までしか産んじゃダメなのですね……」と残念そうに日織が落として。
修太郎はまたしても「えっ」と思わず声に出してしまっていた。
確かに子供は「たくさん」欲しいと話した修太郎だったけれど。
せいぜい三人ぐらいを想定していたのだ。
なのに――。
「あ、でも……修太郎さんはマイクロバスも運転出来るんでしたよね?」
と瞳を輝かせる日織に、嫌な予感がしてしまう。
弟の健二と佳穂夫婦に無事男の子が生まれ、日織が双子を妊娠したことが分かったとき、修太郎は妹たちも入れると修太郎の愛車では定員オーバーになってしまうと気がついた。
忙しい父親に代わって、年に一度は自分が車を出して、弟や妹を旅行に連れて行くのを習慣にしてきた修太郎だ。
独身時代から、無駄に大きなアルファードに乗っていたのだって、そのためだったのだが。
全員乗れないならいっそ開き直って、「旅行の時だけマイクロバスを借りるのもいいですね」と話したのを日織は覚えていたらしい。
「いざとなったら車、もっと大きなのに買い替えちゃうのも手なのですっ!」
嬉々としてそう続けた日織に、修太郎は心の中で『日織さんっ! 貴女は一体何人のお母さんになるおつもりですか⁉︎』と叫ばずにはいられなかった。
でも、あまりに嬉しそうな顔で言われたので、声に出しては言えなかった修太郎だ。
そう。
修太郎はとにかく日織にとことん甘くて頭が上がらない男だから。
でも。
ということは――。
日織が望むのなら、と甘やかした結果、マイクロバスでも乗り切れないくらいの子沢山になってしまう未来もそう遠くない気がしてゾクリと身体を震わせた修太郎である。
***
「光と灯も来年の今頃にはお兄ちゃんとお姉ちゃんになっちゃってるのですねっ。感慨深いのですっ!」
八月の最終日に産まれた双子はいま、テトテトと辿々しい足取りでひとり歩きを始めた一歳ちょっと。
そうして日織のお腹には、またしても男の子二人の双子が――。
(マイクロバスをマイカーにする日も、そう遠くない未来かもしれないな……)
嬉しそうに光と灯を見つめながらお腹をさする妻を見て、修太郎は小さく吐息を落とした。
END
(2021/02/16~2022/04/02)
眉根を寄せて日織が言ったら「その辺りは僕が毎日しっかり目視しながらケアさせていただいているので大丈夫です」とやけに自信満々に言い切られてしまった。
双子の妊娠が分かってからは、大事をとって夜の夫婦生活は、とんとご無沙汰になってしまっている二人だけれど、その分スキンシップは欠かさないよう心がけている。
毎晩一緒にお風呂に入っているのだってその一環だ。
お風呂上がりの妻のボディケアは、修太郎の日々の楽しみの一つになっている。
出産予定日は一か月半後の八月下旬。
晩夏に生まれてくる予定の男の子と女の子に、何だかんだ言いながらも日織と修太郎はワクワクさせられっぱなしなのだ。
「たくさん子供欲しいですねってお話しましたが、いきなり二人の父親になるのは想定外でした」
修太郎が、立ち上がって自分を見上げてくる日織を、お腹を潰さないように気を付けながらそっと抱きしめてそうつぶやけば、日織が「本当に」と返してから「あっ」と何かを思い出したように小さく身体を撥ねさせて。
「日織さん?」
その声に日織の顔を覗き込んだ修太郎に、「私、修太郎さんにずっとお聞きしたいことがあったのを思い出したのですっ!」と色素の薄い目で愛らしく見上げてくる。
「何でしょう?」
ツヤツヤと濡れ光る日織の唇に優しく触れながら先をうながした修太郎に、日織がソワソワした様子で問いかけてきた。
「修太郎さんのお車は……何人乗りですか?」
と。
想定外の質問に「えっ?」と思わず間の抜けた声が漏れてしまった修太郎だ。
「私、家族でお出かけするときは一台の車に全員で乗って行きたいのですっ! なので」
ああ、それで車の定員……と思った修太郎だ。
「僕の車は八人乗りなので心配いりませんよ」
日織の頬をスリスリと撫でながら答えたら、「でしたら……子供は六人までしか産んじゃダメなのですね……」と残念そうに日織が落として。
修太郎はまたしても「えっ」と思わず声に出してしまっていた。
確かに子供は「たくさん」欲しいと話した修太郎だったけれど。
せいぜい三人ぐらいを想定していたのだ。
なのに――。
「あ、でも……修太郎さんはマイクロバスも運転出来るんでしたよね?」
と瞳を輝かせる日織に、嫌な予感がしてしまう。
弟の健二と佳穂夫婦に無事男の子が生まれ、日織が双子を妊娠したことが分かったとき、修太郎は妹たちも入れると修太郎の愛車では定員オーバーになってしまうと気がついた。
忙しい父親に代わって、年に一度は自分が車を出して、弟や妹を旅行に連れて行くのを習慣にしてきた修太郎だ。
独身時代から、無駄に大きなアルファードに乗っていたのだって、そのためだったのだが。
全員乗れないならいっそ開き直って、「旅行の時だけマイクロバスを借りるのもいいですね」と話したのを日織は覚えていたらしい。
「いざとなったら車、もっと大きなのに買い替えちゃうのも手なのですっ!」
嬉々としてそう続けた日織に、修太郎は心の中で『日織さんっ! 貴女は一体何人のお母さんになるおつもりですか⁉︎』と叫ばずにはいられなかった。
でも、あまりに嬉しそうな顔で言われたので、声に出しては言えなかった修太郎だ。
そう。
修太郎はとにかく日織にとことん甘くて頭が上がらない男だから。
でも。
ということは――。
日織が望むのなら、と甘やかした結果、マイクロバスでも乗り切れないくらいの子沢山になってしまう未来もそう遠くない気がしてゾクリと身体を震わせた修太郎である。
***
「光と灯も来年の今頃にはお兄ちゃんとお姉ちゃんになっちゃってるのですねっ。感慨深いのですっ!」
八月の最終日に産まれた双子はいま、テトテトと辿々しい足取りでひとり歩きを始めた一歳ちょっと。
そうして日織のお腹には、またしても男の子二人の双子が――。
(マイクロバスをマイカーにする日も、そう遠くない未来かもしれないな……)
嬉しそうに光と灯を見つめながらお腹をさする妻を見て、修太郎は小さく吐息を落とした。
END
(2021/02/16~2022/04/02)
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