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分析?
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「アレ」ってそういえば何なんだろう…。
戦うのならまず、敵を知ること。よく聞く台詞であるが、Pもまた直感的にそう感じた一人だった。ただ漫然と逃げる生活をしていて、というか逃げるのが当たり前だと、それでいいと思っていた彼は「アレ」の正体が何なのか、はっきり理解できていなかった。そもそもの自分が置かれている世界や自分の存在に対するあらゆる疑問や哲学的な問いかけを、誰かが教えてくれる訳でもないので、明確に答えを出せていなかったし、答えが出たら面白くもないと考えていた。考え続けることに意味があるんじゃないかと。しかしこの答えの出ない問いをいつまでも考え続けることに果たして価値があるのかどうか…と価値やら意義やら云々。ただ一ついえたことは、余計な事まで思考が及ぶのは「時間を持て余している証拠」であることだった。彼は大層退屈だったのだ。なんでも、彼の防護装置内部に伝わる刺激というのは、金属部位が窮屈に凝り固まって圧迫されるじわっとした感覚と、タバコの煙に覆われて妙に体表がチクチクする感覚だけだったのだ。あとは移動の際の微弱で小刻みな振動くらいだろうか。彼は彼自身の暇があると考える癖を利用して、「アレ」にまつわる様々な考察を行った。目もくれず逃げてきた「アレ」と、初めて対峙しようと試みたのだ。
「アレ」はPの目にはくすんだ紫煙として映っていた。これといった実体がなく、ゆらゆらと目の前の空間を漂っており、地平線まで続いてるであろう「瓦礫」が、いつの間にかすうっと紫煙にとけていく。どこまでが「瓦礫」の大地で、どこからが空間なのかが判別できないのだ。まるで高原に現れる濃霧のように。その特徴からして、彼は「アレ」がこの世界のどこかから噴出されている「ガス」なのではないかと考え始めた。温泉の近くから硫化水素の腐卵臭がするような、それの規格が莫大になったようなものだと。だとすれば、この「ガス」の発生源を特定して元栓を塞ぐなり、打ち消す何かを生み出すなりすることが、根本的解決に繋がるのではないか。そう考えるのは妥当と結論づけた。
「じゃあ発生源を探すにはどうすればいいんだ?」
Pはこの時改めて「アレ」の正体解明と事態解決に近づいているように感じた。論理的思考が冴え、要点の取捨選択と手順や過程を踏んだ確かな思考。まさに自分は天才なんじゃないかと、そう思っていた。しかし真実、彼は天才ではなかった。
「この広大な世界から、ガスの発生源というワンポイントを、がむしゃらに探すのは得策ではないな。視界も悪いし、この装置が持つかどうかだって謎だ。もっと、こう、効率の良い、安全なやり方はないだろうか…。」
ここで、彼の方法論的思考が滞った。
この時、また「アレ」が迫ってきた。
「まずい」
彼はギギギと音を立てて立ち上がると、また一目散に走り去った。
戦うのならまず、敵を知ること。よく聞く台詞であるが、Pもまた直感的にそう感じた一人だった。ただ漫然と逃げる生活をしていて、というか逃げるのが当たり前だと、それでいいと思っていた彼は「アレ」の正体が何なのか、はっきり理解できていなかった。そもそもの自分が置かれている世界や自分の存在に対するあらゆる疑問や哲学的な問いかけを、誰かが教えてくれる訳でもないので、明確に答えを出せていなかったし、答えが出たら面白くもないと考えていた。考え続けることに意味があるんじゃないかと。しかしこの答えの出ない問いをいつまでも考え続けることに果たして価値があるのかどうか…と価値やら意義やら云々。ただ一ついえたことは、余計な事まで思考が及ぶのは「時間を持て余している証拠」であることだった。彼は大層退屈だったのだ。なんでも、彼の防護装置内部に伝わる刺激というのは、金属部位が窮屈に凝り固まって圧迫されるじわっとした感覚と、タバコの煙に覆われて妙に体表がチクチクする感覚だけだったのだ。あとは移動の際の微弱で小刻みな振動くらいだろうか。彼は彼自身の暇があると考える癖を利用して、「アレ」にまつわる様々な考察を行った。目もくれず逃げてきた「アレ」と、初めて対峙しようと試みたのだ。
「アレ」はPの目にはくすんだ紫煙として映っていた。これといった実体がなく、ゆらゆらと目の前の空間を漂っており、地平線まで続いてるであろう「瓦礫」が、いつの間にかすうっと紫煙にとけていく。どこまでが「瓦礫」の大地で、どこからが空間なのかが判別できないのだ。まるで高原に現れる濃霧のように。その特徴からして、彼は「アレ」がこの世界のどこかから噴出されている「ガス」なのではないかと考え始めた。温泉の近くから硫化水素の腐卵臭がするような、それの規格が莫大になったようなものだと。だとすれば、この「ガス」の発生源を特定して元栓を塞ぐなり、打ち消す何かを生み出すなりすることが、根本的解決に繋がるのではないか。そう考えるのは妥当と結論づけた。
「じゃあ発生源を探すにはどうすればいいんだ?」
Pはこの時改めて「アレ」の正体解明と事態解決に近づいているように感じた。論理的思考が冴え、要点の取捨選択と手順や過程を踏んだ確かな思考。まさに自分は天才なんじゃないかと、そう思っていた。しかし真実、彼は天才ではなかった。
「この広大な世界から、ガスの発生源というワンポイントを、がむしゃらに探すのは得策ではないな。視界も悪いし、この装置が持つかどうかだって謎だ。もっと、こう、効率の良い、安全なやり方はないだろうか…。」
ここで、彼の方法論的思考が滞った。
この時、また「アレ」が迫ってきた。
「まずい」
彼はギギギと音を立てて立ち上がると、また一目散に走り去った。
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