ちっちゃな魔女様は家出したい! 〜異世界の巨人の国で始める潜伏生活〜

夕木アリス

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2。屋敷での魔法を禁止されました

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「お嬢様。言っても詮なきことかとは思いますが……そういう大切なお話は、普通はしっかりと! 面と向かって! その場に赴いて行うのが筋かと存じます! 決して幻影魔法ホログラムで済ませていいものではございません!」

噛み付くような強い口調で嗜めてくるウォルターだが、机に倒れ伏した状態のままでは如何せん迫力に欠ける。
にしても、おかしい。回復魔法はちゃんと効いたはずなのだけど、何で倒れたままなのか。まあいいけど。

「それも大丈夫よ? ホログラムだとはバレていないから」
「現役の宮廷魔道士長と副魔道士長を魔法でハメるのはどうかと思いますよ!?」
「匂いも皮膚の感触も再現バッチリよ! あくまで脳が錯覚しているだけだけどね」
「お嬢様~~!」

そういうことではないのですよ?! とウォルターが机に頭をガンッと打ち付けた。あ、痛そう。

振動で紅茶が波打ち、彼の白手袋やテーブルクロスに赤茶色のシミが点々と付く。
ああ大変! 紅茶のシミって早く洗わないと色が落ちなくなるのだ。

そう思って再び杖を取ろうとするが、寸でのところで取り上げられてしまった。


「……お嬢様。今、何をなさろうと?」
「え、洗浄魔法ウォッシュで汚れを取ってから、乾燥魔法ドライで乾かそうかと」
「以前それで屋敷中水浸しにしたのをお忘れですかっ?!」

あー、そうね。そんなこともあったかも知れない。

「それはその、ちょっと加減を間違えたというか。でも本当に濡れて困る物はあらかじめ防水魔法コートをかけてあるし、被害はなかったでしょう?」
「そういう問題じゃありません! とにかく、汚れ物はこちらで対応しますからお嬢様は手を出さないでください!」
「いいじゃないの、練習しないと魔法って上手くならないんだから」
「訓練場でおやりになってください。屋敷の中では禁止です」
「えぇぇー」


全く、ウォルターったら融通が効かなくて嫌になっちゃう。

さっき回復魔法を掛けたときにはお礼を言ってくれたのに。それ以外だと途端に目くじらを立てて怒るんだもん。


「もう、分かったわ。ちゃんとで魔法を使うことにする」
「お分かり頂けて何よりです。ーーそれで、旦那様方はどのように?」
「ものすっごく同情してくださったわ。『シーナの好きなようにすればいい』だそうよ」
「それはまた……恐ろしい許可を出されたものですね……」

さっきからウォルターの顔色は悪くなる一方だ。ひょっとしたら彼は慢性胃炎などではなく、もっと深刻な病気なのかも知れない。
どうしよう、私、彼には死んでほしくない。ウォルターは執事だけど、家族みたいなものだから。

「ねえウォルトーー私達の間柄で隠し事はナシよね?」
「な、なんですか急に改まって……」
「もし、どこか身体に悪い部分があったらちゃんと私に言ってね? 頭以外なら内臓全て使い物にならなくなってても、全部切除してから復活魔法リザレクションで助けてあげられるから!」

だから安心して打ち明けてね! と言ったのに、今度は「何でそう極端なのですか!?」と泣かれてしまった。そこまで感激しなくてもいいのにね。

ウチの執事様ったらホント感情豊かで、見ていて飽きない。

家出は楽しみで仕方がないけど、ウォルターともお別れなのはちょっと寂しいかもしれない。
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