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3。執事様はお説教がお好き
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テーブルクロスも手袋も新品に取り替えられて、淹れ直された紅茶が温かな湯気を立ちのぼらせている。
その香気を愉しんでいると、ようやく持ち直したらしいウォルターが質問を再開した。
「それで……お嬢様はどうなさるおつもりですか?」
「もちろん、婚約は破棄させてもらうわ。これで王妃教育に悩まされることなく魔法に集中できるもの、万々歳よね。ニーナがライアン殿下の求婚を受けるかは本人達の問題だから私はノータッチで。あとは傷心旅行ってことでしばらく国外に行くつもり。誰にも迷惑にならないところで思う存分魔法の練習ができたら最高よね!」
意気揚々とこれからの計画を伝えれば、ウォルターの眉間のシワが深くなる。
何か気がかりなことでもあるのか……ひょっとして、今回のことがラミレス家にとって不利にならないかを気にしているとか? 我が家への忠誠心の厚さは流石といったところね。
「そうそう、陛下にも事情はもうお伝えしてるから。四バカが婚約破棄の作戦を練っていた場面も記録魔法で一部始終録って提出しておいたから、公爵家の瑕疵にはならないわよ?」
「そうでしょうね……というより、ライアン殿下に思いっきり瑕疵がつくので、下手したらそのまま跡目から外されそうな気がしますが……」
「あら、そこまでじゃないでしょ? 相手は王族なのだから、公爵家の娘を振ったところでさほど問題にはならないわよ」
実際に不貞を働いていたり、公衆の面前で婚約破棄をしたならともかく。
この程度ならしばらく謹慎になるか、反省を兼ねての国外視察が妥当だろう。
あ、後者だったら行き先が被らないように下調べしておかないと。行った先で鉢合わせとか絶対嫌だもの!
傷心旅行先で殿下のその後の処遇を知るにはどうしたらいいかと悩んでいると、「そうではなくてですね」と首を振られた。
「公爵家云々より、シルヴィアーナお嬢様を国から手放すことが問題なんですよ……」
「そうかしら。私一人抜けたところで何の問題もないでしょう?」
「問題大アリですよ! お嬢様がどこか余所の国で定住でもしてしまったら、この世界のパワーバランスが崩れてしまいます!」
「ウォルト、うるさいわよ」
すぐ目の前に座っているのだ。そんな全力で絶叫しなくても、ちゃんと聞こえるのに。
「大丈夫よ、お父様もお兄様もこの国に忠誠を誓っておられるわ。魔道士団の皆も居るし、この国は大国ですもの。そうそう他所から狙われることもないでしょう」
「はあ……ほんっとーにご自分への認識が甘々なんですねお嬢様?」
ウォルトが深々をため息を吐き出した。
「いいですか……お嬢様が爆撃魔法を使ったとしましょう。それを防げる魔道士がこの国にいると思いますか?」
「え? お父様は防げるんじゃないの?」
「無理です。旦那様以下、宮廷魔道士全員が力を合わせて魔法障壁を張れば可能でしょうがーーそれも、お嬢様が手加減されていれば、という条件付きです」
うーん、そんなわけないと思うのだけど。お父様もお兄様もすごく強いもの。
「ウォルトったら、さっきからなんだか大げさね。私のことからかってる?」
「いいえ。お嬢様の持つ“魔女”のギフトは、それだけ特殊なんです。もう子供という免罪符を使えるご年齢でもないのですから、いい加減ご自分の規格外さを自覚してください。せめてデビュタント前には世間一般の常識というものをーー」
その後お説教モードに入ったウォルターからくどくどと垂れ流される言葉に辟易した私は、着替えを理由に彼を部屋から追い出したのだった。
その香気を愉しんでいると、ようやく持ち直したらしいウォルターが質問を再開した。
「それで……お嬢様はどうなさるおつもりですか?」
「もちろん、婚約は破棄させてもらうわ。これで王妃教育に悩まされることなく魔法に集中できるもの、万々歳よね。ニーナがライアン殿下の求婚を受けるかは本人達の問題だから私はノータッチで。あとは傷心旅行ってことでしばらく国外に行くつもり。誰にも迷惑にならないところで思う存分魔法の練習ができたら最高よね!」
意気揚々とこれからの計画を伝えれば、ウォルターの眉間のシワが深くなる。
何か気がかりなことでもあるのか……ひょっとして、今回のことがラミレス家にとって不利にならないかを気にしているとか? 我が家への忠誠心の厚さは流石といったところね。
「そうそう、陛下にも事情はもうお伝えしてるから。四バカが婚約破棄の作戦を練っていた場面も記録魔法で一部始終録って提出しておいたから、公爵家の瑕疵にはならないわよ?」
「そうでしょうね……というより、ライアン殿下に思いっきり瑕疵がつくので、下手したらそのまま跡目から外されそうな気がしますが……」
「あら、そこまでじゃないでしょ? 相手は王族なのだから、公爵家の娘を振ったところでさほど問題にはならないわよ」
実際に不貞を働いていたり、公衆の面前で婚約破棄をしたならともかく。
この程度ならしばらく謹慎になるか、反省を兼ねての国外視察が妥当だろう。
あ、後者だったら行き先が被らないように下調べしておかないと。行った先で鉢合わせとか絶対嫌だもの!
傷心旅行先で殿下のその後の処遇を知るにはどうしたらいいかと悩んでいると、「そうではなくてですね」と首を振られた。
「公爵家云々より、シルヴィアーナお嬢様を国から手放すことが問題なんですよ……」
「そうかしら。私一人抜けたところで何の問題もないでしょう?」
「問題大アリですよ! お嬢様がどこか余所の国で定住でもしてしまったら、この世界のパワーバランスが崩れてしまいます!」
「ウォルト、うるさいわよ」
すぐ目の前に座っているのだ。そんな全力で絶叫しなくても、ちゃんと聞こえるのに。
「大丈夫よ、お父様もお兄様もこの国に忠誠を誓っておられるわ。魔道士団の皆も居るし、この国は大国ですもの。そうそう他所から狙われることもないでしょう」
「はあ……ほんっとーにご自分への認識が甘々なんですねお嬢様?」
ウォルトが深々をため息を吐き出した。
「いいですか……お嬢様が爆撃魔法を使ったとしましょう。それを防げる魔道士がこの国にいると思いますか?」
「え? お父様は防げるんじゃないの?」
「無理です。旦那様以下、宮廷魔道士全員が力を合わせて魔法障壁を張れば可能でしょうがーーそれも、お嬢様が手加減されていれば、という条件付きです」
うーん、そんなわけないと思うのだけど。お父様もお兄様もすごく強いもの。
「ウォルトったら、さっきからなんだか大げさね。私のことからかってる?」
「いいえ。お嬢様の持つ“魔女”のギフトは、それだけ特殊なんです。もう子供という免罪符を使えるご年齢でもないのですから、いい加減ご自分の規格外さを自覚してください。せめてデビュタント前には世間一般の常識というものをーー」
その後お説教モードに入ったウォルターからくどくどと垂れ流される言葉に辟易した私は、着替えを理由に彼を部屋から追い出したのだった。
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