ちっちゃな魔女様は家出したい! 〜異世界の巨人の国で始める潜伏生活〜

夕木アリス

文字の大きさ
14 / 30

閑話2。娘の涙は最強です②(父親視点)

しおりを挟む
「……なんということだ。この婚約を持ち掛けたのは王家の方だというのに、このような不誠実な真似を……」
「いいえ! ーー殿下達の仰っておられる事に嘘はありません。悪いのは私です。自分の魔力さえ思うようにコントロールできず、周りに度々迷惑をかけておりますもの……」
「だがそれはお前に与えられた"魔女"のギフト故だ。しかもそのギフトは我が国の国防に大いに貢献している。王太子殿下とはいえそれを貶めるなど……!」

怒りに任せて机を叩くが、シルヴィアーナは静かに首を横に振る。

「ですが、それは王妃となるには不要の力です。むしろその地位についてしまえば、今のように魔道士団に協力し、国に貢献することもままならなくなってしまう……」

それではただの役立たず、むしろ害悪ですーー彼女はそう言って唇をかんだあと、私の方をジッと見つめた。


「お父様……私は王太子殿下の婚約者を辞退させて頂きたく思います。私は、こんなにも殿下に疎まれてしまっていたーーそれを知らずにいた頃には戻れません」
「シルヴィアーナ……」
「……知ってしまった上で、彼を愛し支えられるほど、私は強くないのです。お父様、どうかお慈悲を……」

こちらを見つめる目から堪えきれず再びはらはらと流れる涙を見て、私は決心する。

傷ついた娘を守れず、何が親かと。


「……シーナの好きなようにすればいい。陛下には、私から伝えよう」
「……ありがとうございます、お父様……」

それからしばらくの間、声を出さずに泣き続ける娘を抱きしめながら、私自身も悔し涙を落としたのだったーー。








シルヴィアーナを見送って、小一時間経った頃。

「ーー父上!」

バンッ、と執務室のドアが開け放たれ、転がり込むように男が一人入ってきた。
この魔道士団の副魔道士長であり、愚息のコルヴェナートだ。


「コルヴェナート、入室の際にはノックをするよう言ったのを忘れたのか?」
「それどころではないのです! シルヴィアーナが……私の最愛の妹が! よりにもよってあのバカ殿下に傷つけられたのですよ!?」

ああ、こいつもあの件を知ったのか。
この怒り様、どこかでシルヴィアーナに会って直接聞いたのだろう。
アレを見れば仕方のないことかもしれないが、随分暑苦しいことだ。この私のクールさはシルヴィアーナにしか遺伝しなかったらしい。


「落ち着けコルヴェナート。騒ぎすぎだ」
「これがどうして落ち着いていられましょうか! これは我がラミレス一族に対しての宣戦布告にも等しい行為ですよ!? シーナを苦しめるなど万死に値します。父上が動けぬのなら、私がこのまま殿下の首をーー」
「ちょっと待て」

机に辞表を叩きつけながら踵を返す息子に拘束魔法バインドをかけ、床に転がす。


「なっ、父上?! 何をするのですか、早く解いてください!」
「誰が解くか。ちょっとは頭を冷やせ」

そう言って魔法で出した氷水をバシャリと掛ければ、愚息はようやく静かになった。
全く、猪突猛進とはこいつのための言葉だな。


「父上は……父上は悔しくないのですかっ?! 我らの天使が侮辱されたのですよ!?」
「もちろんはらわたが煮えくり返る思いだ」
「だったら何故!」
「……本人シーナが望んでいないからだ」


好きなようにして良いと伝えたとき、シルヴィアーナが望んだことは二つ。

一つは王太子との円満な婚約解消。

もう一つは傷心旅行という名目で、魔法の修行に行かせてほしいということだった。


ーー確かにここ数年、娘には余暇というものが全くなかった。
王妃教育に魔道士団の手伝いで、好きな魔法の練習も碌にできなかったのだろう。

『誰にも迷惑が掛からない場所で、己の魔法を高めたいのですーー私に自由な時間をください』

泣き腫らした目でそう懇願されれば、否とは言えなかった。


「婚約解消についてはこの後陛下に奏上申し上げる。もう一つの願いについても許可するつもりだ。好きにしていいと言った手前、今さらダメだとは言えぬからな」
「魔法の修行、ですか。確かにシーナらしいですがーーそれは何処に、どれくらいの期間の予定なのですか?」
「細かい話はまだ詰めておらん。今晩にでも、本人に詳しい希望を聞くつもりだ」
「そうですか……では、私も同席させてください」
「良かろう。夕食後にでも家族会議を開くとしよう」

ーーこの時二人は、当の本人がその日のうちに家出を決行しているなど、想像もしていなかったのである。


ちなみに、これらの遣り取りを後で聞かされた某執事は『一体どこの誰とのお話をされているのですか旦那様?』としかめっ面で聞き返したという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...