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閑話5。家出発覚②
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「ーー開きましたよ。お二人ともどうぞ」
シルヴィアーナの私室のドアをピッキングして開けた後、ウォルターは後ろで待っていた二人に声を掛ける。
彼の解錠スキルは窃盗団にいた頃から群を抜いていた。
あまり褒められたスキルでもないので封印したかったのだが「折角のスキルなんだから、役立てないともったいないわ!」と宣ったのは主人であるシルヴィアーナ。
彼女が持ってきた仕事はうっかり鍵をなくしてしまった者への手助けという平和なものから、迂闊にオープンにはできないグレーな案件の解決まで。
面白半分としか思えない主人の気まぐれな依頼に散々引っ張り回された結果、今でもその腕は健在ーーというか当時より上達してしまっている。
その彼の腕をもってしても、シルヴィアーナの部屋に入るのは難しいだろうと予想されたのだが……
(あっさり開けられたーーってことは、本当に訓練に行かれただけかもですね)
彼女が本気で出奔する気であれば、全力で追跡を妨害してくるはずだ。
(家出なんて仰っていたから構えていましたが……発言を間に受けすぎましたか)
揶揄われたんですかねと内心苦笑しつつ、ウォルターはガチャリとノブを捻って、ドアを開いた。
「シルヴィアーナ!」
「娘よ、居らぬのか?!」
中に雪崩れ込もうとする二人を転ばないよう誘導しつつ自分も部屋に入れば、案の定部屋の中には主人の姿はない。
それ自体は想定内だが、ウォルターにはいつもより部屋が寒々しく感じ、嫌な予感に顔を強張らせた。
ーー壁に掛けてある杖がいつもより減っている。机のペン立てに、シーナのお気に入りのペンがない。
クローゼットを開けてその中身が空っぽだったのを確認した時、予感は確信に変わった。
「旦那様、坊ちゃま、落ち着いて聞いてくださいーーお嬢様は、家出をなされたのかも知れません」
「ーーえっ?」
「なっ、いきなり何を言い出すのだウォルター!」
「予備の杖と筆記用具はともかく、単なる訓練にドレスなど不要ですからーー家出するとおっしゃっていたのですが、本気だったようですね」
そう言ってクローゼットを開け放って見せれば、二人は途端に青かった顔をさらに青褪めさせ、狼狽えだした。
「家出だと?! そんな報告は聞いていないぞ!」
「それについては大変申し訳ございません。冗談だと思っていたのと、まさか言ったその日に決行するとは思わなかったのです」
「家出……妹がそんな! やはりあのバカ王子に振られたのがショックで……!」
「いやそれはな……コホン。お嬢様は『誰にも迷惑にならないところで思う存分魔法の練習がしたい』と。傷心旅行とも仰っていましたが」
その言葉をきいて、アレクシスは天を仰ぎ、コルヴェナートは顔を手で覆ってしまった。
「傷心旅行……確かに聞かれて許可を出したな。魔法の修行に打ち込みたいと言っていた」
「自分も、シーナに好きにしていいよと言ってしまいました……まさかそのまま居なくなるなんて! でも、妹が好きに魔法を使える場所などどこにあるでしょう? 探すにしてもアテがありませんよ!? ああ、僕の天使は一体どこに……?!」
「ーーーーうるさいなぁ。折角気持ちよく寝ていたのに。目、覚めちゃったじゃない」
ーー声がしたのは、主人の天蓋つきのベッドの中。
そのシーツ上では、白銀の毛並みをした子犬らしきものが丸まった体勢から顔だけを上げていた。
シルヴィアーナの私室のドアをピッキングして開けた後、ウォルターは後ろで待っていた二人に声を掛ける。
彼の解錠スキルは窃盗団にいた頃から群を抜いていた。
あまり褒められたスキルでもないので封印したかったのだが「折角のスキルなんだから、役立てないともったいないわ!」と宣ったのは主人であるシルヴィアーナ。
彼女が持ってきた仕事はうっかり鍵をなくしてしまった者への手助けという平和なものから、迂闊にオープンにはできないグレーな案件の解決まで。
面白半分としか思えない主人の気まぐれな依頼に散々引っ張り回された結果、今でもその腕は健在ーーというか当時より上達してしまっている。
その彼の腕をもってしても、シルヴィアーナの部屋に入るのは難しいだろうと予想されたのだが……
(あっさり開けられたーーってことは、本当に訓練に行かれただけかもですね)
彼女が本気で出奔する気であれば、全力で追跡を妨害してくるはずだ。
(家出なんて仰っていたから構えていましたが……発言を間に受けすぎましたか)
揶揄われたんですかねと内心苦笑しつつ、ウォルターはガチャリとノブを捻って、ドアを開いた。
「シルヴィアーナ!」
「娘よ、居らぬのか?!」
中に雪崩れ込もうとする二人を転ばないよう誘導しつつ自分も部屋に入れば、案の定部屋の中には主人の姿はない。
それ自体は想定内だが、ウォルターにはいつもより部屋が寒々しく感じ、嫌な予感に顔を強張らせた。
ーー壁に掛けてある杖がいつもより減っている。机のペン立てに、シーナのお気に入りのペンがない。
クローゼットを開けてその中身が空っぽだったのを確認した時、予感は確信に変わった。
「旦那様、坊ちゃま、落ち着いて聞いてくださいーーお嬢様は、家出をなされたのかも知れません」
「ーーえっ?」
「なっ、いきなり何を言い出すのだウォルター!」
「予備の杖と筆記用具はともかく、単なる訓練にドレスなど不要ですからーー家出するとおっしゃっていたのですが、本気だったようですね」
そう言ってクローゼットを開け放って見せれば、二人は途端に青かった顔をさらに青褪めさせ、狼狽えだした。
「家出だと?! そんな報告は聞いていないぞ!」
「それについては大変申し訳ございません。冗談だと思っていたのと、まさか言ったその日に決行するとは思わなかったのです」
「家出……妹がそんな! やはりあのバカ王子に振られたのがショックで……!」
「いやそれはな……コホン。お嬢様は『誰にも迷惑にならないところで思う存分魔法の練習がしたい』と。傷心旅行とも仰っていましたが」
その言葉をきいて、アレクシスは天を仰ぎ、コルヴェナートは顔を手で覆ってしまった。
「傷心旅行……確かに聞かれて許可を出したな。魔法の修行に打ち込みたいと言っていた」
「自分も、シーナに好きにしていいよと言ってしまいました……まさかそのまま居なくなるなんて! でも、妹が好きに魔法を使える場所などどこにあるでしょう? 探すにしてもアテがありませんよ!? ああ、僕の天使は一体どこに……?!」
「ーーーーうるさいなぁ。折角気持ちよく寝ていたのに。目、覚めちゃったじゃない」
ーー声がしたのは、主人の天蓋つきのベッドの中。
そのシーツ上では、白銀の毛並みをした子犬らしきものが丸まった体勢から顔だけを上げていた。
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