26 / 30
閑話7。家出発覚④
しおりを挟む
ウォルターは応接室に三人を通した後、「お茶の準備をいたしますので」と部屋を辞した。
ゆっくりとソファーに腰をかけながら、アレクシスはユリウスにどう謝罪をしようかと頭を悩ませる。
まさか目の前の彼が愛娘の友人で、しかも神様だって? そんなのどうやって予想しろと言うのだ。
しかし碌に話も聞かずに攻撃したのは確かにこちらの落ち度で、そこに弁解の余地はない。
兎に角まずは誠心誠意謝罪をーーと、ユリウスに向き直ったところで、そこにさらなる頭痛の種が舞い込んだ。
「お父様ったらここにいらっしゃったのですね! 私すっごく探しましたわ~」
一度閉めたはずの応接室の扉がノックもなく開け放たれ、廊下から小柄な少女が乱入してくる。
腰まであるふわふわのピンクブロンドに水色の瞳、鼻にかかった甘い声に、さらに甘ったるいバニラの香り。
フリフリのドレスと相まってラッピングされた砂糖菓子にしか見えないその少女に、部屋にいた全員が顔をしかめた。
「ニルヴァーナ……ノックもなしに入ってくるなといつも言っているだろう?」
「あら、誰かお客様ですの? ーーってまぁ、なんて素敵な方でしょう! 私はここラミレス家の次女で、ニルヴァーナと申しますわ!」
「勝手に声をかけるなニーナ、失礼だぞ!?」
「ニルヴァーナ、彼は高貴なお方で、大事なお客様だ。万一にも粗相があってはいけない、部屋に戻っておけ」
焦って彼女を追い返そうとするコルヴェナートとアレクシスに向かってニルヴァーナはぷっくり頬を膨らませた。
「お父様もお兄様もズルイですわ! 私だけ除け者にするなんて。お邪魔はいたしませんから、私もここでお茶に混ぜてくださいまし」
『居るだけで邪魔だ』と二人の顔に書いているのを華麗に無視して、ニルヴァーナはよりにもよってユリウスの隣に座り込んだ。
「美しいお方、お名前を教えていただけませんか?」
「君に名乗るような名前は持ってないよ」
「まっ、ツレないお返事ですこと。でもそんなところも素敵ですわぁ」
そう言ってニルヴァーナがユリウスにしなだれかかろうとする。
「“拘束魔法” “浮遊魔法”」
「へっ? ーーひいぃっ!?!?」
ちょうどそのタイミングで応接室に入ってきたウォルターがニルヴァーナを引き離したことで、それは未遂に終わった。
「なっ、ウォルター! あなた何をしますの!? 失礼ですわ!」
「ノックならきちんと致しましたよ。聞いていらっしゃらなかったようですが」
「そのことではありませんわ! 魔法で私を拘束するなんて‼︎」
「でしたら、拘束しなくてはいけないようなことをなさらないでください。ーー旦那様、これ、どうしますか?」
「……しばらく自室で謹慎させておけ」
ニルヴァーナはそのままメイドに引き渡され、「みんな酷いですわっ!」と喚き声を響かせながらご退場となった。
「……ユリウス様、重ね重ね申し訳ありません。下の娘は養女なのですが、前の家で随分甘やかされてしまったようで……」
「あはは、さっきのあれ、ボンレスハムみたいだったね! それにしても彼女、“傾国”のギフト持ちなんだね。このボクを籠絡でもしようとしたのかな?」
丸っきり笑っていない目で鼻を鳴らしたユリウスは用意された茶菓子を次々に口へと放り込み、淹れてもらった紅茶をがぶ飲みした。
不機嫌そうな様子にアレクシスもコルヴェナートもユリウスの無作法に何も言うことができず、冷や汗をダラダラ流している。
「本当に申し訳ありませんユリウス様。あちらの妹は父方の叔父の落胤でして……去年彼女の母親が失踪したためウチで引き取ったのですが、ご覧の通りまだ貴族としての振る舞いが身についていないのです」
「あ、説明とかいいよ。これっぽっちも興味ないし。ーーじゃ、これ、シーナの手紙。ちゃんと届けたからね」
どこからか取り出した手紙をテーブルに置くと「お茶ご馳走様。悪くなかったよ」と言い残してユリウスは消えた。
*********************************
お気づきの方もいるかもですが、ユリウスは前作『異世界で遭難しかけたら~』で登場したジュリアスと同一人(?)物です。
名前の違いは発音の違いということで。
そして妹ちゃんは見た目も中身も砂糖菓子な子です。
家族にとっては頭痛の種ですが、ギフトのおかげで外では大人気な模様。
ゆっくりとソファーに腰をかけながら、アレクシスはユリウスにどう謝罪をしようかと頭を悩ませる。
まさか目の前の彼が愛娘の友人で、しかも神様だって? そんなのどうやって予想しろと言うのだ。
しかし碌に話も聞かずに攻撃したのは確かにこちらの落ち度で、そこに弁解の余地はない。
兎に角まずは誠心誠意謝罪をーーと、ユリウスに向き直ったところで、そこにさらなる頭痛の種が舞い込んだ。
「お父様ったらここにいらっしゃったのですね! 私すっごく探しましたわ~」
一度閉めたはずの応接室の扉がノックもなく開け放たれ、廊下から小柄な少女が乱入してくる。
腰まであるふわふわのピンクブロンドに水色の瞳、鼻にかかった甘い声に、さらに甘ったるいバニラの香り。
フリフリのドレスと相まってラッピングされた砂糖菓子にしか見えないその少女に、部屋にいた全員が顔をしかめた。
「ニルヴァーナ……ノックもなしに入ってくるなといつも言っているだろう?」
「あら、誰かお客様ですの? ーーってまぁ、なんて素敵な方でしょう! 私はここラミレス家の次女で、ニルヴァーナと申しますわ!」
「勝手に声をかけるなニーナ、失礼だぞ!?」
「ニルヴァーナ、彼は高貴なお方で、大事なお客様だ。万一にも粗相があってはいけない、部屋に戻っておけ」
焦って彼女を追い返そうとするコルヴェナートとアレクシスに向かってニルヴァーナはぷっくり頬を膨らませた。
「お父様もお兄様もズルイですわ! 私だけ除け者にするなんて。お邪魔はいたしませんから、私もここでお茶に混ぜてくださいまし」
『居るだけで邪魔だ』と二人の顔に書いているのを華麗に無視して、ニルヴァーナはよりにもよってユリウスの隣に座り込んだ。
「美しいお方、お名前を教えていただけませんか?」
「君に名乗るような名前は持ってないよ」
「まっ、ツレないお返事ですこと。でもそんなところも素敵ですわぁ」
そう言ってニルヴァーナがユリウスにしなだれかかろうとする。
「“拘束魔法” “浮遊魔法”」
「へっ? ーーひいぃっ!?!?」
ちょうどそのタイミングで応接室に入ってきたウォルターがニルヴァーナを引き離したことで、それは未遂に終わった。
「なっ、ウォルター! あなた何をしますの!? 失礼ですわ!」
「ノックならきちんと致しましたよ。聞いていらっしゃらなかったようですが」
「そのことではありませんわ! 魔法で私を拘束するなんて‼︎」
「でしたら、拘束しなくてはいけないようなことをなさらないでください。ーー旦那様、これ、どうしますか?」
「……しばらく自室で謹慎させておけ」
ニルヴァーナはそのままメイドに引き渡され、「みんな酷いですわっ!」と喚き声を響かせながらご退場となった。
「……ユリウス様、重ね重ね申し訳ありません。下の娘は養女なのですが、前の家で随分甘やかされてしまったようで……」
「あはは、さっきのあれ、ボンレスハムみたいだったね! それにしても彼女、“傾国”のギフト持ちなんだね。このボクを籠絡でもしようとしたのかな?」
丸っきり笑っていない目で鼻を鳴らしたユリウスは用意された茶菓子を次々に口へと放り込み、淹れてもらった紅茶をがぶ飲みした。
不機嫌そうな様子にアレクシスもコルヴェナートもユリウスの無作法に何も言うことができず、冷や汗をダラダラ流している。
「本当に申し訳ありませんユリウス様。あちらの妹は父方の叔父の落胤でして……去年彼女の母親が失踪したためウチで引き取ったのですが、ご覧の通りまだ貴族としての振る舞いが身についていないのです」
「あ、説明とかいいよ。これっぽっちも興味ないし。ーーじゃ、これ、シーナの手紙。ちゃんと届けたからね」
どこからか取り出した手紙をテーブルに置くと「お茶ご馳走様。悪くなかったよ」と言い残してユリウスは消えた。
*********************************
お気づきの方もいるかもですが、ユリウスは前作『異世界で遭難しかけたら~』で登場したジュリアスと同一人(?)物です。
名前の違いは発音の違いということで。
そして妹ちゃんは見た目も中身も砂糖菓子な子です。
家族にとっては頭痛の種ですが、ギフトのおかげで外では大人気な模様。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる