ちっちゃな魔女様は家出したい! 〜異世界の巨人の国で始める潜伏生活〜

夕木アリス

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閑話7。家出発覚④

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ウォルターは応接室に三人を通した後、「お茶の準備をいたしますので」と部屋を辞した。


ゆっくりとソファーに腰をかけながら、アレクシスはユリウスにどう謝罪をしようかと頭を悩ませる。

まさか目の前の彼が愛娘の友人で、しかも神様だって? そんなのどうやって予想しろと言うのだ。
しかし碌に話も聞かずに攻撃したのは確かにこちらの落ち度で、そこに弁解の余地はない。

兎に角まずは誠心誠意謝罪をーーと、ユリウスに向き直ったところで、そこにさらなる頭痛の種が舞い込んだ。


「お父様ったらここにいらっしゃったのですね! わたくしすっごく探しましたわ~」


一度閉めたはずの応接室の扉がノックもなく開け放たれ、廊下から小柄な少女が乱入してくる。

腰まであるふわふわのピンクブロンドに水色の瞳、鼻にかかった甘い声に、さらに甘ったるいバニラの香り。

フリフリのドレスと相まってラッピングされた砂糖菓子にしか見えないその少女に、部屋にいた全員が顔をしかめた。


「ニルヴァーナ……ノックもなしに入ってくるなといつも言っているだろう?」
「あら、誰かお客様ですの? ーーってまぁ、なんて素敵な方でしょう! 私はここラミレス家の次女で、ニルヴァーナと申しますわ!」
「勝手に声をかけるなニーナ、失礼だぞ!?」
「ニルヴァーナ、彼は高貴なお方で、大事なお客様だ。万一にも粗相があってはいけない、部屋に戻っておけ」

焦って彼女を追い返そうとするコルヴェナートとアレクシスに向かってニルヴァーナはぷっくり頬を膨らませた。

「お父様もお兄様もズルイですわ! 私だけ除け者にするなんて。お邪魔はいたしませんから、私もここでお茶に混ぜてくださいまし」

『居るだけで邪魔だ』と二人の顔に書いているのを華麗に無視して、ニルヴァーナはよりにもよってユリウスの隣に座り込んだ。


「美しいお方、お名前を教えていただけませんか?」
「君に名乗るような名前は持ってないよ」
「まっ、ツレないお返事ですこと。でもそんなところも素敵ですわぁ」

そう言ってニルヴァーナがユリウスにしなだれかかろうとする。


「“拘束魔法バインド” “浮遊魔法フロート”」
「へっ? ーーひいぃっ!?!?」


ちょうどそのタイミングで応接室に入ってきたウォルターがニルヴァーナを引き離したことで、それは未遂に終わった。


「なっ、ウォルター! あなた何をしますの!? 失礼ですわ!」
「ノックならきちんと致しましたよ。聞いていらっしゃらなかったようですが」
「そのことではありませんわ! 魔法で私を拘束するなんて‼︎」
「でしたら、拘束しなくてはいけないようなことをなさらないでください。ーー旦那様、これ、どうしますか?」
「……しばらく自室で謹慎させておけ」

ニルヴァーナはそのままメイドに引き渡され、「みんな酷いですわっ!」と喚き声を響かせながらご退場となった。


「……ユリウス様、重ね重ね申し訳ありません。下の娘は養女なのですが、前の家で随分甘やかされてしまったようで……」
「あはは、さっきのあれ、ボンレスハムみたいだったね! それにしても彼女、“傾国”のギフト持ちなんだね。このボクを籠絡でもしようとしたのかな?」

丸っきり笑っていない目で鼻を鳴らしたユリウスは用意された茶菓子を次々に口へと放り込み、淹れてもらった紅茶をがぶ飲みした。
不機嫌そうな様子にアレクシスもコルヴェナートもユリウスの無作法に何も言うことができず、冷や汗をダラダラ流している。


「本当に申し訳ありませんユリウス様。あちらの妹は父方の叔父の落胤でして……去年彼女の母親が失踪したためウチで引き取ったのですが、ご覧の通りまだ貴族としての振る舞いが身についていないのです」
「あ、説明とかいいよ。これっぽっちも興味ないし。ーーじゃ、これ、シーナの手紙。ちゃんと届けたからね」


どこからか取り出した手紙をテーブルに置くと「お茶ご馳走様。悪くなかったよ」と言い残してユリウスは消えた。






*********************************

お気づきの方もいるかもですが、ユリウスは前作『異世界で遭難しかけたら~』で登場したジュリアスと同一人(?)物です。
名前の違いは発音の違いということで。

そして妹ちゃんは見た目も中身も砂糖菓子な子です。
家族にとっては頭痛の種ですが、ギフトのおかげで外では大人気な模様。
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