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閑話8。家出発覚⑤
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ユリウスの消えた応接室で、アレクシスとコルヴェナートは二人揃ってソファーに崩れ落ちた。
「な、なんとか切り抜けたか……」
「はあぁ~……さっきニーナがやらかしそうになった時、僕心臓止まるかと思いましたよ」
「ユリウス様はシルヴィアーナお嬢様のお友達ということでしたから、大目に見てくださったのでしょうね」
ウォルターは肩を竦めながらそう言うと、手紙を手に取り安全性を確認した上で開封する。
便箋を渡されたアレクシスは書かれた文章を一読した後、がくりと項垂れて顔を覆ってしまった。
「父上、シルヴィアーナは何と?」
「……ウォルターの言った通り、シルヴィアーナは家出をしたようだ。ただし……行き先は異世界と書いてある」
「ーーは? 異世界ですって?」
「過剰に抱えた魔力のせいで、体が蝕まれる寸前だったらしい。このままこの世界にいても酷くなるばかりだから、ユリウス様に頼んで治療に適した異世界に送って頂いたそうだ」
「そんな……!」
慌てて便箋を引ったくり内容を読んだコルヴェナートはおいおいと泣き出してしまった。
「ああ、シーナっ! どうしてあの子がそんな目に!」
「魔力の欠乏症状であれば一般的だが、過剰症状など他に聞いたことがないからな……こちらで治療できないとなれば神頼みも仕方あるまい」
「ーーそれで、旦那様。お嬢様はいつまで異世界の方に?」
それまで黙っていたウォルターが問えば、アレクシスは黙って首を振った。
「期間は不明、だそうだ。現時点では戻れるかどうかの確証もないらしい」
「いつ戻れるともわからぬ場所に、お一人で出掛けたと?」
「そういうことだな」
その言葉を聞いたウォルターは深く息を吐き出した後、アレクシスに対して深くお辞儀をして「旦那様、お願いがございます」と切り出した。
「珍しいな、一体なんだ?」
「溜まりに溜まった有給休暇と休日出勤の代休を今から使わせていただきます。構いませんよね?」
「え゛っ」
「本来なら週一で取れるはずの休日もほとんど仕事でしたから。一年くらいは余裕で休めますよね」
「ちょっ、ウォルター?!」
それだけ言ってさっさと部屋を出て行こうとするウォルターを焦って引き留めた二人だが、「何か問題でも?」と聞き返されて言葉に窮した。
問題があるわけではなくーーあの優秀で従順な執事の変貌ぶりに驚いて、つい引き留めてしまっただけだったから。
何も言おうとしない二人に痺れを切らしたウォルターは、思い当たる節を一つずつ挙げて自分で潰していく。
「部屋の私物はこの後処分しておきます。もし一年経っても戻らなければ、そのまま解雇していただいて構いませんので。ああ、あと自己都合となりますから退職金も要りませんよ」
「いや、そういうことではなくーーお前はシーナの専属執事なのだぞ?」
「ええ、そうですよ? 私はシルヴィアーナお嬢様のお側でお仕えするのが仕事です」
心得ておりますとも、とウォルターは真面目くさった顔で言い添える。
「ウォルター、まさかとは思うが。ひょっとしてお前ーー」
「……お嬢様は、まだ十三歳です。いくら“魔女”だとはいっても見知らぬ土地で一人で生きていくのは厳しいでしょう。ですからその治療というのが終わるまで、俺がお嬢様に付き添いますよ」
当然とばかりに言い放ったウォルターに対し、アレクシスはどっと疲れを覚え「分かった……もう好きにしろ」と言ったきり、考えるのを放棄してしまった。
コルヴェナートの方はさっきまでの泣き顔を惚けさせ、どうなってんの? と目をパチクリさせる。
「ウォルターお前さーー急にキャラ変わってない?」
妹の前では、彼女に振り回されっぱなしの報われない病弱キャラじゃなかったっけ。
そう呟いたコルヴェナートに、ウォルターは不敵に笑ってみせる。
「こっちが俺の素ですね。今までは仕事だったのでーーちゃんと執事っぽくできていたでしょう?」
「ああ、まんまと騙されたよ。こんなふてぶてしい奴だと思わなかった」
「褒め言葉をどうも」
全く悪びれずにのたまうウォルターに、お前役者の方が向いてるよとコルヴェナートは呆れて苦笑いを返した。
「まっ、いいよ。僕だって可愛い妹が一人で寂しい思いをしていないから心配だし。できたら自分で行きたいけど、そうもいかないから。……でも、どうする気? 異世界なんて追いかけようと思って追いかけられる場所じゃないだろ?」
「とりあえず、追跡魔法してユリウス様を追いかけます。その後のことは、道中考えますよ」
そう言い残して、今度こそとウォルターは部屋を後にしたのだった。
*********************************
シーナにご執心だった執事様が暴走しちゃいました。
あれ、こんな予定ではなかったはずなんだけど……?
普通に彼は病弱振り回されキャラの設定だったはずなんだけど……?
当初のプロットから外れて全体の流れが変わってしまうので悩むところですが、このウォルターも面白いのでしばらくそのまま書いてみます。
「な、なんとか切り抜けたか……」
「はあぁ~……さっきニーナがやらかしそうになった時、僕心臓止まるかと思いましたよ」
「ユリウス様はシルヴィアーナお嬢様のお友達ということでしたから、大目に見てくださったのでしょうね」
ウォルターは肩を竦めながらそう言うと、手紙を手に取り安全性を確認した上で開封する。
便箋を渡されたアレクシスは書かれた文章を一読した後、がくりと項垂れて顔を覆ってしまった。
「父上、シルヴィアーナは何と?」
「……ウォルターの言った通り、シルヴィアーナは家出をしたようだ。ただし……行き先は異世界と書いてある」
「ーーは? 異世界ですって?」
「過剰に抱えた魔力のせいで、体が蝕まれる寸前だったらしい。このままこの世界にいても酷くなるばかりだから、ユリウス様に頼んで治療に適した異世界に送って頂いたそうだ」
「そんな……!」
慌てて便箋を引ったくり内容を読んだコルヴェナートはおいおいと泣き出してしまった。
「ああ、シーナっ! どうしてあの子がそんな目に!」
「魔力の欠乏症状であれば一般的だが、過剰症状など他に聞いたことがないからな……こちらで治療できないとなれば神頼みも仕方あるまい」
「ーーそれで、旦那様。お嬢様はいつまで異世界の方に?」
それまで黙っていたウォルターが問えば、アレクシスは黙って首を振った。
「期間は不明、だそうだ。現時点では戻れるかどうかの確証もないらしい」
「いつ戻れるともわからぬ場所に、お一人で出掛けたと?」
「そういうことだな」
その言葉を聞いたウォルターは深く息を吐き出した後、アレクシスに対して深くお辞儀をして「旦那様、お願いがございます」と切り出した。
「珍しいな、一体なんだ?」
「溜まりに溜まった有給休暇と休日出勤の代休を今から使わせていただきます。構いませんよね?」
「え゛っ」
「本来なら週一で取れるはずの休日もほとんど仕事でしたから。一年くらいは余裕で休めますよね」
「ちょっ、ウォルター?!」
それだけ言ってさっさと部屋を出て行こうとするウォルターを焦って引き留めた二人だが、「何か問題でも?」と聞き返されて言葉に窮した。
問題があるわけではなくーーあの優秀で従順な執事の変貌ぶりに驚いて、つい引き留めてしまっただけだったから。
何も言おうとしない二人に痺れを切らしたウォルターは、思い当たる節を一つずつ挙げて自分で潰していく。
「部屋の私物はこの後処分しておきます。もし一年経っても戻らなければ、そのまま解雇していただいて構いませんので。ああ、あと自己都合となりますから退職金も要りませんよ」
「いや、そういうことではなくーーお前はシーナの専属執事なのだぞ?」
「ええ、そうですよ? 私はシルヴィアーナお嬢様のお側でお仕えするのが仕事です」
心得ておりますとも、とウォルターは真面目くさった顔で言い添える。
「ウォルター、まさかとは思うが。ひょっとしてお前ーー」
「……お嬢様は、まだ十三歳です。いくら“魔女”だとはいっても見知らぬ土地で一人で生きていくのは厳しいでしょう。ですからその治療というのが終わるまで、俺がお嬢様に付き添いますよ」
当然とばかりに言い放ったウォルターに対し、アレクシスはどっと疲れを覚え「分かった……もう好きにしろ」と言ったきり、考えるのを放棄してしまった。
コルヴェナートの方はさっきまでの泣き顔を惚けさせ、どうなってんの? と目をパチクリさせる。
「ウォルターお前さーー急にキャラ変わってない?」
妹の前では、彼女に振り回されっぱなしの報われない病弱キャラじゃなかったっけ。
そう呟いたコルヴェナートに、ウォルターは不敵に笑ってみせる。
「こっちが俺の素ですね。今までは仕事だったのでーーちゃんと執事っぽくできていたでしょう?」
「ああ、まんまと騙されたよ。こんなふてぶてしい奴だと思わなかった」
「褒め言葉をどうも」
全く悪びれずにのたまうウォルターに、お前役者の方が向いてるよとコルヴェナートは呆れて苦笑いを返した。
「まっ、いいよ。僕だって可愛い妹が一人で寂しい思いをしていないから心配だし。できたら自分で行きたいけど、そうもいかないから。……でも、どうする気? 異世界なんて追いかけようと思って追いかけられる場所じゃないだろ?」
「とりあえず、追跡魔法してユリウス様を追いかけます。その後のことは、道中考えますよ」
そう言い残して、今度こそとウォルターは部屋を後にしたのだった。
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シーナにご執心だった執事様が暴走しちゃいました。
あれ、こんな予定ではなかったはずなんだけど……?
普通に彼は病弱振り回されキャラの設定だったはずなんだけど……?
当初のプロットから外れて全体の流れが変わってしまうので悩むところですが、このウォルターも面白いのでしばらくそのまま書いてみます。
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