【本編完結】異世界から来た迷い犬は婚約破棄令嬢を拉致することにした

夕木アリス

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ーーーと、思ったんだがなぁ…。

またこのパターンかよ。昼寝の前はこの辺雑木林だったじゃねえか。
なんで、起きたら周りが竹林になってるんだよ!

…どうやら、俺はまたまどいの森の地殻変動に巻き込まれたらしい。





一面の竹林は、前回令嬢達と会った場所にも思えるし、全然違う場所にも思えた。
…正直、どこまで行っても同じに見える。この森、特徴なさ過ぎなんだが。

仕方がないので適当にぶらぶら歩いていると、遠くでガサリ、と笹をかき分ける音が聞こえた。
とっさに隠れようとしたが、岩場も登れそうな太い木もない場所で、隠れられるところなどあるわけもない。
“こっち来んなよ”と思いながら、息を潜めて音が通り過ぎるのを待とうとする。

無情にもガザガサという音はだんだんこちらに近づいてきて、やりたくはないが子犬の姿にでも化けてやり過ごそうかと思った時。
身に覚えのある、ニオイがした。

これ、は。ひょっとしてーー?


「あら、あなた。なんでこんなところに居るの?ーーひょっとして迷子かしら?」

そこに現れたのは、以前俺を手当てしてくれた、”マヤ”と呼ばれていたくだんのご令嬢だった。
ーーもう絶対、会うことなんてないと思ってたのに。

あまりに吃驚して、声も何も出さずにご令嬢を見つめる。

「…なんか、ビックリさせちゃったみたいね?ゴメンなさい。あなた、お名前は?」
「あ…オレ、は。”リュウ”」
「そう、リュウって言うのね。奇遇ね、私もリュウって家名なの。お揃いね?
 ーーアタシはリュウ麻雅マーヤよ。よろしくね、リュウくん」
そう言ってマヤは片目を瞑った。

「マヤ?…マーヤ?」
「どちらでも良いわ、呼びやすい方で。それで、リュウくんはここで何をしてるの?」
「俺は…気づいたらここにいて」
「うーん、じゃあやっぱり迷子かしら。ーーお家の人は?」
そう聞かれて、俺は首を横に振る。……そもそも家族なんていないからな。

「…ひょっとして、孤児かしら。困ったわね……」
ウチで侍従として雇ってもらえるか交渉しようかしら、と何やら考え事をしながらブツブツ呟いているがーー正気か?

コイツ、犬でもヒトでも関係なく拾って帰るクセでもあんのか?

「ねえ、行くところがないなら、アタシと一緒に来ない?」
「ーーいや、家族はいないが、連れはいるんだ。一緒に旅をしている」
はぐれただけだからもう少し捜してみると言うと、分かったわ、と少しホッとした顔で頷いた。

「マヤは、ここで何をしてたんだ?」
「え、アタシ?そうねーー犬を、捜していたの」

犬?
それって、多分俺のことなんじゃないだろうか。…前回会ったのは、半月以上前のことだぞ?
まさかそれから毎日探してた、なんて言わないよな?

「…それ、どんな犬なんだ?」
「ええと、生後半年くらいの、黒い子犬なの。少し前に、ここで大怪我をして居るのを見つけてね。
 応急処置をした後、お医者様を連れて戻ってきたのだけど、もう居なくなっていて」

それから毎日探しに来ているのだけどーーって、うん、間違いなくそれ俺だな。
…マジかよ、ずっと探してたって?…どんだけ気に掛けてたんだ。
って、そうじゃなくて。早くそれは俺だって伝えてーー

「…変な事を言うかもだけど、リュウくんとその子、雰囲気がよく似てたわ。
 あの子が人間になったら、きっとリュウくんみたいな感じになると思う」

まあ流石に犬が人間の姿になるなんて、御伽噺おとぎばなしの中だけよね、と言ってマヤは自分で苦笑いした。


それを聞いて、俺はようやく理解する。

俺のいるでは、犬が人の姿になるのは普通のことだ。


ーーここは。俺が今居るのは。

冗談だと思っていた異世界だった。



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