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頭がグラグラする。ーーここが異世界だって?
そんな、まさか。
何故かその場からものすごく逃げ出したい気分になって、”連れを探しに行くから”と言って無理矢理別れようとした俺に、マヤがもう一度声を掛けてきた。
「もし旅のお仲間さんが見つからなかったら、ウチに来るといいわ。
ここから西に歩いて、竹林を抜ければウチの屋敷があるから。
門番にアタシの名前を出して取り次いでもらって」
「ーーニシ、って?」
「アッチよ、太陽の沈む方角ーーと言っても、今は夏だから日没は真西じゃなくて、ちょっと北寄りかしらね」
…俺のいる世界では、太陽の沈む方向は日によって違う。
ーー常識が、全然噛み合わない。
誰か悪い夢だって言ってくれ。
ーーそれからの事は、正直よく覚えていない。
ただ、気づくと俺は元いた湖のほとりに戻っていて、仲良くなった護衛二人組に大目玉を喰らった。
「勝手にいなくなっちゃダメでしょー!ものすんごく心配したんだからーっ」
「散歩したいなら、誰かに言付けてから行ってこい。
それにしたって一時間もフラフラすんのはやり過ぎだ」
「一時間だって?」
俺が竹林をうろついてマヤと話をしていた時間なんて、せいぜい十分か十五分ってとこだ。
そんなに長いこと居なくなっていた、なんてことは無いと思うんだがーー。
二人にそう言ってみたが、首を傾げられただけだった。
「まあ時間の流れの感じ方なんて、状況によって変わるものだからな」
「それは…そうかも知れないが」
「そうそう、あっという間に感じた、ってだけだよー。ま、とにかく良かった良かった」
そう言って、肩やら腰やらをバシバシ叩かれる。痛い。
「いい加減にしてくれ。ようやく治ってきたのに、傷に障るだろうが」
「心配したんだから、これくらいいいでしょー。
…それにしてもチビちゃんの話し方って、可愛くないよねー」
おじさんっぽい話し方っていうの?見た目は本当にチビちゃんで声だって可愛いのに、なんか年食って聞こえるよねー。と、若い護衛の方が心底残念そうに言ってきた。ーーほっとけや。
「ブリーダーに雇われていた下っ端のオッサン達の会話しか聞いてこなかったから。
子供っぽい話し方とか言われても分からんし」
「飼われていた子犬同士での会話はなかったのか?」
「飯の時以外は、人に噛みつかないように口輪を付けられていたから」
そう答えると二人とももの凄く気まずそうに目を逸らされたーーなら聞かなきゃいいのに。
「ま、まあ見た目と話し方のギャップが酷いっていうなら、今度行く国の女王様に勝てるヤツいないしね!
チビちゃんの話し方とか、まだ全然許容範囲ないだよねー」
…その話の逸らし方は、ちょっと苦しいもんがあると思うが…まあいいか。
それよりも。
「次の国には女王がいるのか?」
「ああ、そうだぞ。女王って時点で珍しいんだが、噂を聞く限り相当な変わり者でな」
「そうそう、なんでも噂だと、お人形さんみたいな見た目なのにおばあちゃんみたいな変わった喋り方するらしいんだよねー」
「そうなのか?…オレが聞いたのは、むかし神だか精霊だかに喧嘩売ったって話だがーー
それもどこまで本当の話なんだかな」
二人揃ってあーでもないこーでもないと、どこかで聞き齧ってきた噂話を話してくれる。
「二人は、その女王に会ったことはないのか?」
「オレらはただの平民だし、しかも犬だしな」
「可愛いって聞くと会ってみたいけどね!まあそんな機会一生ないよー」
…ま、そんなお偉いさんに早々会えるわけがないよな。そのせいで根も葉もない噂が飛び交うくらい、謎に包まれた人物なんだろう。
俺たちみたいなその辺の犬に縁があるはずもないと、適当に相槌を打ちながらそれらの話は聞き流すことにした。
そんな、まさか。
何故かその場からものすごく逃げ出したい気分になって、”連れを探しに行くから”と言って無理矢理別れようとした俺に、マヤがもう一度声を掛けてきた。
「もし旅のお仲間さんが見つからなかったら、ウチに来るといいわ。
ここから西に歩いて、竹林を抜ければウチの屋敷があるから。
門番にアタシの名前を出して取り次いでもらって」
「ーーニシ、って?」
「アッチよ、太陽の沈む方角ーーと言っても、今は夏だから日没は真西じゃなくて、ちょっと北寄りかしらね」
…俺のいる世界では、太陽の沈む方向は日によって違う。
ーー常識が、全然噛み合わない。
誰か悪い夢だって言ってくれ。
ーーそれからの事は、正直よく覚えていない。
ただ、気づくと俺は元いた湖のほとりに戻っていて、仲良くなった護衛二人組に大目玉を喰らった。
「勝手にいなくなっちゃダメでしょー!ものすんごく心配したんだからーっ」
「散歩したいなら、誰かに言付けてから行ってこい。
それにしたって一時間もフラフラすんのはやり過ぎだ」
「一時間だって?」
俺が竹林をうろついてマヤと話をしていた時間なんて、せいぜい十分か十五分ってとこだ。
そんなに長いこと居なくなっていた、なんてことは無いと思うんだがーー。
二人にそう言ってみたが、首を傾げられただけだった。
「まあ時間の流れの感じ方なんて、状況によって変わるものだからな」
「それは…そうかも知れないが」
「そうそう、あっという間に感じた、ってだけだよー。ま、とにかく良かった良かった」
そう言って、肩やら腰やらをバシバシ叩かれる。痛い。
「いい加減にしてくれ。ようやく治ってきたのに、傷に障るだろうが」
「心配したんだから、これくらいいいでしょー。
…それにしてもチビちゃんの話し方って、可愛くないよねー」
おじさんっぽい話し方っていうの?見た目は本当にチビちゃんで声だって可愛いのに、なんか年食って聞こえるよねー。と、若い護衛の方が心底残念そうに言ってきた。ーーほっとけや。
「ブリーダーに雇われていた下っ端のオッサン達の会話しか聞いてこなかったから。
子供っぽい話し方とか言われても分からんし」
「飼われていた子犬同士での会話はなかったのか?」
「飯の時以外は、人に噛みつかないように口輪を付けられていたから」
そう答えると二人とももの凄く気まずそうに目を逸らされたーーなら聞かなきゃいいのに。
「ま、まあ見た目と話し方のギャップが酷いっていうなら、今度行く国の女王様に勝てるヤツいないしね!
チビちゃんの話し方とか、まだ全然許容範囲ないだよねー」
…その話の逸らし方は、ちょっと苦しいもんがあると思うが…まあいいか。
それよりも。
「次の国には女王がいるのか?」
「ああ、そうだぞ。女王って時点で珍しいんだが、噂を聞く限り相当な変わり者でな」
「そうそう、なんでも噂だと、お人形さんみたいな見た目なのにおばあちゃんみたいな変わった喋り方するらしいんだよねー」
「そうなのか?…オレが聞いたのは、むかし神だか精霊だかに喧嘩売ったって話だがーー
それもどこまで本当の話なんだかな」
二人揃ってあーでもないこーでもないと、どこかで聞き齧ってきた噂話を話してくれる。
「二人は、その女王に会ったことはないのか?」
「オレらはただの平民だし、しかも犬だしな」
「可愛いって聞くと会ってみたいけどね!まあそんな機会一生ないよー」
…ま、そんなお偉いさんに早々会えるわけがないよな。そのせいで根も葉もない噂が飛び交うくらい、謎に包まれた人物なんだろう。
俺たちみたいなその辺の犬に縁があるはずもないと、適当に相槌を打ちながらそれらの話は聞き流すことにした。
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