【本編完結】異世界から来た迷い犬は婚約破棄令嬢を拉致することにした

夕木アリス

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23。

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「え……まさか、リュウなの?
 ーーそんな、でも……」

ヒトの姿の俺を見たマヤは、あんぐりと口を開けて固まっていた。

まあそれもそうか。
マヤにとってはわずか一年しか経っていない間に、ガキだった俺が自分と変わらぬ年頃に成長していれば。
驚いて言葉をなくすのも無理はない。


マヤは信じられないと言った顔で、自分の目元をゴシゴシ擦っている。

「本当に、リュウ?
 ……あなた、貿易船で海外に行ったはずじゃ」
「…先に聞くのソコかよ?」

なんで急に大人になっているのかと、そっちから聞くのが普通だと思うが。
そう突っ込むと、マヤはムッとした顔で頬を膨らませた。

「悪かったわねーーどうせ普通じゃないわよ」
「まあ、そういえばそうだったな」
「酷いっ!
 そこは、そんな事ないよって嘘でも言うところじゃないの?」
「嘘を言って欲しいのか?」
「そーゆー事言ってんじゃありませんー!」

そこまで言って顔を見合わせ、俺たちはぷっと吹き出して笑い出した。

「ぷっ…くっ。あはっ、あはははっ!おっかしー!」
「笑い過ぎだろ」
「だ、だって。こういうやり取りって久しぶりで面白かったんだもの!」
何が面白いか全然分からないが、マヤはヒーヒー笑いながら目尻に涙を滲ませてた。

「ったく。相変わらず変なやつだな」
「うるさいわね。びっくりし過ぎて笑っちゃっただけよ」
息を整えながら、マヤが睨んでくる。が、その口元は笑っていた。

「一年振り、くらいだっけ?
 でも全然久々に会ったって感じがしないわ」
「…それくらいだったかな」

ヒトとして会ったのは五年以上前だし、犬としてならついさっきまで横に居たんだが。
さすがに、そっちは気づいてないか。

「にしても、よく俺だって分かったな?」
結構見た目変わったと思うんだが、と言うと「変わってないわよ」と返された。

「まあ確かに、大きくはなったと思うけど。
 …アタシより背が高くなっているなんてね。
 驚いたわ、本当に身長抜かされちゃった」

アタシかなり高い方なんだけどなーと、マヤが嬉しそうに笑う。

「それでも、あなた全然変わってないわ。
 少し癖のある黒い髪も、焦げ茶色の目も」
「そんなヤツ、よく居るだろ」
黒髪で茶色の目なんて、この国では大体みんな同じ色だ。

「そんなことないわよーー片方だけ口の端を上げて笑うとこも、
 立ってる時に片方の腕で、もう片方の手首を持つとこも。
 アタシが見てない時はアタシのことをジッと見るクセに
 アタシが見ると目線を斜め下に逸らすのも変わってない」

「……なんでそんなこと知ってんだ」
俺だってそんなの知らなかったんだが。

「リュウって観察しがいがあるわよねぇー」
「ほっとけ」

なんだか知らぬうちに随分と観察されていたらしく、微妙に恥ずかしい。
マヤはさっきから笑いっぱなしで、とても楽しそうだった。

「ふふ、ほんと、こんなに笑ったのって久しぶりだわ」
「…笑ってなかったのか」

あ、という顔でマヤが固まり、視線をうろうろと彷徨わせる。
ーーたぶん、今必死で言い訳を考えているんだろう。俺に心配させないように。


「違うの、さっきのはその…「逃げたいか?」ーーーえ?」


「このまま逃げたいと言っていただろうーー何処でもいいから、捕まらない場所へ」
「どう…して。あなたがそのことを」

知っているの、とマヤが続ける前に、彼女を腕の中に囲って閉じ込めた。

「!?リュウっ、何をーーー」
「俺なら、逃してやれる」

そう言うと、腕の中の彼女がびくり、と体を震わす。

「ーーー船に乗って、余所の国に逃げるということ?」
「そうだな、少なくともこの国の外へ」

より正確には、この世界の外へ。

後半は言わずにマヤをジッと見つめれば、戸惑った顔で見つめ返してきた。


「ーーーでも、それは…「ちなみに返事は聞いてない」……は?」

「だから、マヤの返事は聞くつもりがない。
 ここにいたら、マヤは不幸にしかならない。
 …逃げたって、幸せになる保証はないがーー
 ーー少なくとも、俺がずっと横に居てやる」


だから、返事は聞いてない。
俺が勝手に、マヤのことをさらわせてもらう。
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