【本編完結】異世界から来た迷い犬は婚約破棄令嬢を拉致することにした

夕木アリス

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後日談2。 新婚夫婦のやりとり

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「リュウ、リュウ! お願いっ、今日一日アタシの犬になって欲しいの!」
「ーー? 元々犬だし、お前のだろう?」

すっごくいい笑顔で迫ってきたから何を言い出すかと思ったら。
俺がマヤの飼い犬なのはもうだいぶ前からのことじゃないか。

訝しげな顔でそう答えたら、マヤが隠す気もなくガッツポーズを決めてきた。

ーーあ、なんか微妙に嫌な予感がするな。


「ありがとうリュウ! そう言ってくれると思ってたわ!」

マヤが満面の笑みで、俺の頭を自分の胸元に抱え込んだ。
そのまま、髪の中に指を差し込んで撫でてきて、片方の耳に触れるか触れないかのキスをおくられた。

ーー別に今となっては初めてのことでもないがーー不意打ちは今でも結構クる。

というか、するのはいいんだが、されるのは慣れない。


ジワジワと顔に熱が集まるのを自覚して下を向いていると、耳の付け根辺りを指ですりっと擦られた。
気持ちいいなと思いながら身を任せていると、硬くて冷たい金属のような何かが差し込まれる感覚。

「じゃあ~言質も取れたって言うことでー。今日は一日コッチでお願いね♪」


ーー次の瞬間、俺は犬の姿を取らされていた。


”姿封じの耳飾りピアス”、というアイテムがある。
俺のように人化できる動物に対してヒトとしての姿を取れなくするための、まあ一般的には呪いのアイテムに分類される魔道具だ。

養殖業者ブリーダーに飼育されていた時に俺もつけられていたことがあり、かつその時に無理やり取ろうとして結構な傷をこさえたことから、俺の右耳には今でもピアスホールらしき穴が残っていた。


「……で、なんでマヤがこんなもん持ってるんだ?」
「エリザがプレゼントでくれたのよぉ!」

あの幼女様め、また余計な事をしてくれたな。

「だってリュウってば、こっちの世界に来てから全然犬の方になってくれないじゃないの」

アタシ何回もお願いしているのに! とマヤがぷうっと頬を膨らませた。可愛い。

ーーいつもなら、両手でムニっと挟んで空気を抜いて揶揄ってやるのに。
犬の手じゃそんな事もうまくできないじゃないか。

しょうがないから鼻先をグイッと押しつけてやったが、「キスされちゃったわぁ!」と喜ばせただけだった。クソッ、うまくいかん。

「やっぱり犬の姿もコレはこれで最高よねっ! もふもふで癒されるわ~」

マヤは遠慮の欠片もなく艶のある黒い毛並みを撫でまわし、それが終わると腕の中に囲ってから首回りにぎゅうっと抱きついた。

「マヤ、苦しい。首を絞めるな」
「あら、ごめんなさいねえ? 久しぶりで興奮しちゃって~」

全然反省していない弾んだ声で頭の上にキスされた。首から外れた腕は、今度は胴体部分をがっちりホールドしている。

「……いつまでそうしているつもりだ?」
「ん~? リュウが嫌がるまではずっと! だってアタシ、コッチの姿も大好きだもの!」
「今でも嫌は嫌なんだが……」

正直、犬の姿にいい思い出はないから。俺はこっちの姿は好きじゃない。
マヤがこの姿も好きだと言ってくれるのは嬉しいが。

「ーーでも今も、本気では嫌がってないわよね」
「なんだそれ。どっから出てくる自信だ」
「そのピアスねぇ、エリザ印の特注品なの。ーー付けられた本人が本当に嫌だと思えば勝手に外れちゃう、中途半端な呪いアイテム」

アタシ犬のリュウとも一緒に居たいけど、無理強いしたいわけじゃないの。
でも貴方がどこまで嫌がっているか、はかるのが難しくて。悩んでたのを相談したら、渡されたのよ。

そう申し訳なさそうな顔で言われ、思わず渋い顔になる。

そんな物を使われれば、犬の姿は嫌だがマヤに喜ばれるならと付き合っている、こっちの微妙な心情が筒抜けになるわけで。
…あの幼女様め、何作って渡してんだよ。それにしてもーー

「ーーそこまでする意味が分からないんだが?」
「だって、どっちの姿も貴方なんでしょう? 犬の姿に良い思い出がないのは知ってるけど、上書きできないかと思って」

アタシはどっちの貴方も好きなのよ。できることなら貴方にも自分の姿を嫌わないでほしいの。
そう言ってヒトの毛皮の中に顔を埋めてくるが、隠れきれずに隙間から覗く顔はどこか悲壮な表情だった。


これはあれか、叱られ待ちってやつか。ーー阿呆だな、全く。
怒られるのが嫌ならやらなきゃ良いのに。

ため息をつくと、マヤの肩がびくりと揺れた。

「押し付けがましい事してごめんなさい。……やっぱり本当に嫌だったのね」

ヒトの姿に戻った俺を見て、泣きそうな顔でマヤが謝罪してきた。
ワガママを言ってごめんなさいと、目にいっぱい涙を溜めている。

本当、どうしようもないな。


「ああ、嫌だった。ーー手が使えないのが不便すぎる」

結局泣き出したマヤを、今度はこっちの腕の中に閉じ込めて目元を拭いてやる。
宥めるように背中をぽん、ぽんっと叩いてやりながら、もう一度小さくため息をついた。


マヤは賢いのに、こういうところはまるで解ってない。

ーー俺がマヤのお願い事を、本気で断れるわけがないのに。


「俺は自分の犬の姿は好きじゃないがーーマヤが好きだっていうなら、たまになら付き合ってやる」
「……うぅっ、ぐずっ……い、いの?」
「奥さんのワガママなら、精一杯努力して叶えてやるさ」


そう言ってやると、マヤがグスグスと鼻をすすりながら「……だいすき……」とつぶやいたので

「愛してるよ、奥さん」
と吹き込んで、さっきのお返しに頭にキスを落としてやった。









********************

最近糖分不足なので胸焼けしそうに甘ったるいのを目指したのに
いかんせん筆力が足りてなかった。。。
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