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1章

2。イケメン(猫耳付き)に声を掛けられました

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「オマエ、ここで何してんの?」


久しぶりに自分以外の声を聞いて、急激に意識が覚醒する。

目を閉じる前、ここには私しか居なかった。だから、これは私に聞いているはず。
そして声をかけられて無視するほど、私は礼儀知らずではない。それなりに、いや結構常識人だ。
それでも慌てて目線を上げた私は、何の返事もせずに口をあんぐり開けた状態で固まっていた。


目の前には明るく鮮やかな赤と青のーーいや、この色味だとピンクと水色かな?ーーとにかく自己主張が激しくてなんとも目に痛い色の猫
ーー耳を付けた青年二人組。


青年である。やたらめったら美形な、猫耳お兄さんズ。
よく見るとしっぽも装備している。

「あ……?えっと、ネ、ネコ?」
……の仮装だろうが、何てリアルな耳なんだろう。すごく柔らかそう。どうしよう、めっちゃ触りたい。

いやいやそうじゃなくて。何で仮装?
あれか、ハロウィンか。でも今はまだ9月だ。そこまでフライングするとかないわよね?

混乱した頭のままで猫耳お兄さん達(の耳)を見つめていると、赤い方のお兄さんの方がすっと近づいてきて、目の前にぽすんと腰を下ろした。
ニヤニヤ面白そうに笑いながら、無駄に色気たっぷりな上目遣いで答えてくる。
「そんなの、見りゃ分かるでしょ」

……どうしよう。これ、会話の続け方が本気で分からない。

成人男性の仮装のチョイスが猫ってどうなんだろう。そこは狼男とかじゃないの。
セクシーなお姉さんや、ちっちゃい子供なら猫でも全然良いのだけど。この組み合わせ需要あるって思ってるわけ?

加えて、色までド派手で有り得ない組み合わせ。何、赤と青って。
もっと白とか黒とか茶色とか……ナチュラルな猫らしい色があるでしょうよ。
ああもう、本当に目に痛い。ついでに頭も痛い。

心の中で激しくツッコミながらも声には出さず、ジリジリと、少ーしずつ後ろに下がる。

私自身がそんなに面白みのある人間じゃない。私の周りにも、比較的真面目でマトモな人しかいたことが無い。
だからこういう、なんて言うかはっちゃけた人への対応の仕方なんて分からない。

つまりこの二人は、できればお近づきになりたくない人種だ。

今度は青い方の猫(?)が、私の動きに気づいたのか声を掛けてくる。

「アンタ、ひょっとして猫が嫌いとか……」
「そんなわけないです!」

そこは全力で否定しておく。ちょっと食い気味だったが気にしない。
猫は大、大、大好きだ!

あのもふもふの毛並みに、愛くるしいまんまるお目目。ぷにぷにの肉球。嫌う要素なんて何一つない。
たとえこれまでに伸ばした手を思いっきり引っ掻かれたり、見ていただけなのに何故か威嚇されたことがあったって。

色々思い出して、ちょっと悲しくなってきたわ。
こちらがいくら大好きでも、向こうに好かれるわけじゃないのよね。

……訂正しよう。非常に悲しくなってきた……。

話が脱線してしまったけど。
私が猫が嫌いなんて天と地がひっくり返ってもあり得ない。
太陽が西から昇るくらいあり得ない。



……ただし、本物の猫に限る。

猫耳をつけたお兄さんたちは、いくら美形でも対象外ですから!


「……対象外だって?」
お兄さんズの猫耳がピクリと揺れる。


あ、しまった。声に出しちゃってた……

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