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1章
9。申請書が必要だそうです
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えっと……名前?
名前って、お兄さん達の?まさか名前がないの?
よく分からなくて首を傾げた後、頭の中でポンっと手を打つ。
なるほど、猫としての名前をつけてってことね!
野良猫って言っていたものね、多分ちゃんとした名前がないって設定なんだわ。ほんと徹底してる。
「それならできそうですけど……そんなことで良いんですか?」
名前くらいお互いでつければいいだけなのに。
そう言うと、猫耳お兄さん達はとてもイヤそうな顔をした。
「……ナシですね」
「オレも、コイツに名前つけられるのだけはヤダ!」
……二人とも、そんなにネーミングセンスが無いんだろうか。顔は良いのに残念。
とりあえず了承して、何が良いかなと考える。
「オレ、カッコいいのがいいな!」
「僕は音の響きがいい名前が良いです」
それぞれリクエストがくるけど、ざっくりし過ぎていて参考にならない。
どうしようかな……私だって、そんなにセンスがあるって訳でもないし。
無理矢理ひねって考えても、逆にイタい名前になっちゃいそう。
「じゃあ……赤い方のお兄さんが『マゼンタ』で、青い方のお兄さんが『シアン』でどうですか?」
毛並みの色そのままだけど、そんなに一般的な色名じゃないし。音の響きも悪くないはず。
お兄さん達は顔を見合わせた後、目をキラキラと輝かせた。
「マゼンタって名前、珍しいし恰好いい!気に入った!」
「……シアンって音良いですね。呼んでもらいやすそうです」
お気に召したらしい。良かった。
ほっと息を吐いていると、目の前に紙が二枚差し出された。
今度は何だろう、と受け取ってランプの前に翳すと『命名申請書』と書かれている。
というか、それしか書かれていない。
それ以外の部分は基本白紙。
縁にぐるりと一周飾り模様が入っている他は、中央と右下に線が二本引かれているだけ。
「これ何ですか?」
「申請書ですよ。名前をつけたら、ちゃんと届けないといけないんです」
「オレら字、書けねーし。代わりに書いて?」
あー、はいはい。それも設定ですね。了解です。
まあここまできたら、ちゃんと最後まで付き合ってあげよう。
それが一番平和に済みそうだしね。
いつの間にかサイドテーブルにあったお椀は片付けられていて、その上に二枚の申請書が置かれる。
「こっちが今つけてくれた名前を書く欄、下の方が名付け主の名前を書く欄です」
ペンを渡されながら説明を受ける。
にしても、別の世界とか言っときながら言葉は同じなのね。私の夢の中なのだから仕方がないけども。
ささっと記入を済ませペンを置くと、二人それぞれに申請書を渡す。
「書けました。確認するまでもないとは思いますが、一応チェックしてください」
「お、サンキュ!……うん、問題ないな。じゃ、ちゃちゃっと仕上げするか!」
?……仕上げって何するんだろ?
首を傾げながら見上げていたら、赤猫お兄さん改めマゼンタがニンマリ笑いながら、こうすんだよ、と口元に自分の親指を持っていきーー尖った犬歯でビッと皮膚を裂いた。
ーーーー?!
うそ、何してるのこの人?!
「えっ、ちょっ、何やってんですか?!」
血、血が垂れてる!
結構ざっくり切れてないソレ?!
「うん?仕上げだよ、仕上げ」
「いや、ワケ分かんないですからそれ!」
「血判ってヤツだよ。知らないの?」
ーー知ってるけど!
たかが名前の申請書に血判って必要?!
普通、インク使って拇印押す程度でしょ?
なんか途端に仰々しさがアップしちゃってませんか?!
目を白黒させていたら、視界の端でシアンがさっさと自分の方の申請書に拇印を押し終わってた。
右手に小さなナイフを握ってらっしゃるところを見るに、そっちも血判なんですね……
けどまあ、自分の夢の中でツッコミ入れたって意味ないわね。
うん、もうスルーしよう。
それ以上考えるのを放棄して遠い目をしていると、シアンがこっちに向き直って声を掛けてきた。
なんだかとってもいい笑顔だ。
「ありがとうございます。とても助かりました」
手を取ってお礼を言われる。
「ええと、どういたしまして?」
そんな大層なことしてないと思うけど、丁寧なお兄さんだなぁ。
若干ぶっ飛んでておかしい気もするけど、まあいい人よね?
……ただ、このフレンドリー過ぎる距離感はやっぱりおかしくないだろうか。なぜそこでイチイチ手を触ってくるのかしら。
……
…………
………………で、いつになったら離すわけ?
「あの、いい加減に離しーー」
ピリッ
……え?
掴まれたままの指先に、熱いような冷たいような感覚が走ったかと思うと。
ぽたっ
サイドテーブルの天板に赤い血が落ちる。
ーー切られた?!
もしかしなくても切られた?!
じわじわ、ジクジクと、指先に痛みが広がる。
びっくりしすぎて声が出ず、慌てて思いっきり手を引く。が、全く動かない。
「ちょっとだけ、指借りますね」
逆に引っ張られて、そのまま紙の上にぐっぐっと押しつけられる。
呆気に取られているうちに、二枚の申請書に血判を押されてしまった。
わ、私の分も必要だったの?!
名前って、お兄さん達の?まさか名前がないの?
よく分からなくて首を傾げた後、頭の中でポンっと手を打つ。
なるほど、猫としての名前をつけてってことね!
野良猫って言っていたものね、多分ちゃんとした名前がないって設定なんだわ。ほんと徹底してる。
「それならできそうですけど……そんなことで良いんですか?」
名前くらいお互いでつければいいだけなのに。
そう言うと、猫耳お兄さん達はとてもイヤそうな顔をした。
「……ナシですね」
「オレも、コイツに名前つけられるのだけはヤダ!」
……二人とも、そんなにネーミングセンスが無いんだろうか。顔は良いのに残念。
とりあえず了承して、何が良いかなと考える。
「オレ、カッコいいのがいいな!」
「僕は音の響きがいい名前が良いです」
それぞれリクエストがくるけど、ざっくりし過ぎていて参考にならない。
どうしようかな……私だって、そんなにセンスがあるって訳でもないし。
無理矢理ひねって考えても、逆にイタい名前になっちゃいそう。
「じゃあ……赤い方のお兄さんが『マゼンタ』で、青い方のお兄さんが『シアン』でどうですか?」
毛並みの色そのままだけど、そんなに一般的な色名じゃないし。音の響きも悪くないはず。
お兄さん達は顔を見合わせた後、目をキラキラと輝かせた。
「マゼンタって名前、珍しいし恰好いい!気に入った!」
「……シアンって音良いですね。呼んでもらいやすそうです」
お気に召したらしい。良かった。
ほっと息を吐いていると、目の前に紙が二枚差し出された。
今度は何だろう、と受け取ってランプの前に翳すと『命名申請書』と書かれている。
というか、それしか書かれていない。
それ以外の部分は基本白紙。
縁にぐるりと一周飾り模様が入っている他は、中央と右下に線が二本引かれているだけ。
「これ何ですか?」
「申請書ですよ。名前をつけたら、ちゃんと届けないといけないんです」
「オレら字、書けねーし。代わりに書いて?」
あー、はいはい。それも設定ですね。了解です。
まあここまできたら、ちゃんと最後まで付き合ってあげよう。
それが一番平和に済みそうだしね。
いつの間にかサイドテーブルにあったお椀は片付けられていて、その上に二枚の申請書が置かれる。
「こっちが今つけてくれた名前を書く欄、下の方が名付け主の名前を書く欄です」
ペンを渡されながら説明を受ける。
にしても、別の世界とか言っときながら言葉は同じなのね。私の夢の中なのだから仕方がないけども。
ささっと記入を済ませペンを置くと、二人それぞれに申請書を渡す。
「書けました。確認するまでもないとは思いますが、一応チェックしてください」
「お、サンキュ!……うん、問題ないな。じゃ、ちゃちゃっと仕上げするか!」
?……仕上げって何するんだろ?
首を傾げながら見上げていたら、赤猫お兄さん改めマゼンタがニンマリ笑いながら、こうすんだよ、と口元に自分の親指を持っていきーー尖った犬歯でビッと皮膚を裂いた。
ーーーー?!
うそ、何してるのこの人?!
「えっ、ちょっ、何やってんですか?!」
血、血が垂れてる!
結構ざっくり切れてないソレ?!
「うん?仕上げだよ、仕上げ」
「いや、ワケ分かんないですからそれ!」
「血判ってヤツだよ。知らないの?」
ーー知ってるけど!
たかが名前の申請書に血判って必要?!
普通、インク使って拇印押す程度でしょ?
なんか途端に仰々しさがアップしちゃってませんか?!
目を白黒させていたら、視界の端でシアンがさっさと自分の方の申請書に拇印を押し終わってた。
右手に小さなナイフを握ってらっしゃるところを見るに、そっちも血判なんですね……
けどまあ、自分の夢の中でツッコミ入れたって意味ないわね。
うん、もうスルーしよう。
それ以上考えるのを放棄して遠い目をしていると、シアンがこっちに向き直って声を掛けてきた。
なんだかとってもいい笑顔だ。
「ありがとうございます。とても助かりました」
手を取ってお礼を言われる。
「ええと、どういたしまして?」
そんな大層なことしてないと思うけど、丁寧なお兄さんだなぁ。
若干ぶっ飛んでておかしい気もするけど、まあいい人よね?
……ただ、このフレンドリー過ぎる距離感はやっぱりおかしくないだろうか。なぜそこでイチイチ手を触ってくるのかしら。
……
…………
………………で、いつになったら離すわけ?
「あの、いい加減に離しーー」
ピリッ
……え?
掴まれたままの指先に、熱いような冷たいような感覚が走ったかと思うと。
ぽたっ
サイドテーブルの天板に赤い血が落ちる。
ーー切られた?!
もしかしなくても切られた?!
じわじわ、ジクジクと、指先に痛みが広がる。
びっくりしすぎて声が出ず、慌てて思いっきり手を引く。が、全く動かない。
「ちょっとだけ、指借りますね」
逆に引っ張られて、そのまま紙の上にぐっぐっと押しつけられる。
呆気に取られているうちに、二枚の申請書に血判を押されてしまった。
わ、私の分も必要だったの?!
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