【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
15 / 174
1章

10。無断で飼い主にされました

しおりを挟む
切られた指先と、滴り落ちた血。血判入りの申請書が二枚。
サイドテーブルの上は、どことなくシュールでコメントしづらい絵面になっていた。


本当、なんなのこの状況?

ズキンズキンと痛む指を取り戻して、逆の手で抑えながら睨みつける。


「……めっちゃ痛いんですけど」
「必要だったもので」
「あっははー、ごめんなー?」

二人とも、全然申し訳なさそうじゃないしっ!
シアンに至っては謝罪の言葉すら入ってないし!
指先の傷って痛いんだよ!せめてちゃんと謝ってよ!

しかも利き手側とか、何の嫌がらせだ。


「私の分も必要なら、先に一言言ってほしかったです……」
「先に言ったら、素直に指、切らせてくれたわけ?」


……先に聞かれていたら、断っていたとは思うけど。

やっぱ聞かずにやって正解じゃんねー、とニヤニヤされるのがまたムカつく。


「はぁ……もういいです。とにかく、これで終わりですよね」

そろそろと手を開いて傷の状態を確認する。
うん、とりあえず血は止まった。そんなに深くもなさそう。
絆創膏とかあれば欲しいところだけど、その前にまず消毒したい。

「あ、実はまだです」


ーーなんですと?

ジト目で睨む。これ以上何させる気だ。


「……まだ何か?」
「ええ、もう少しだけ」
「次、ほんと最後だから!」

「はあ……あとは何すればいいんですか」

さっさと片付けて、掌と指にベッタリついた血を落としたい。


「アンタは何もしなくて大丈夫ですよ」
「そうそう、そのまま抵抗しないでくれよ?」


へ?抵抗しないで……ってどういう事?

今度は一体何する気なのコイツら!?


イヤな予感しかしなくて必死に逃げようとするところを、両側から手を掴まれる。

「痛っーーって血!血付いちゃうから!」
「うん、おいしそ」

ーーは?


ぢゅうぅーーーー



ーーはいぃっ?!?!


ゆ、ゆびっ、指吸われてる!?!

さっきナイフで切られた指が、シアンの口の中で吸われていた。


べろり。

反対の手のひらは、マゼンタに舐められている。


!?!?!?!
えええええええぇぇ?!


なっ、ななな、なんっ、なんでっ?!なんでなんでなんでっ!?


じゅるじゅる
ぺろぺろ

湿った音と、生暖かい感覚。


ひいいいいぃぃぃーーーー!!


「やっ、や、やめて、やめてっ!何してんのよーーーー!!」

力任せに体を捩ると意外とパッと離され、ベッドにボスっと倒れこむ。
取り返した両手をチラリと見ると、血は綺麗に舐め取られて無くなっていた。


ーーいや、血は綺麗になったとしても。別のものでベタベタになってるよねこれ?!

咄嗟に水差しに手を突っ込む。
どれだけ行儀が悪かろうが、今は非常事態!


バシャバシャとしぶきを上げながら、乱暴に手を洗う。
閉じかけていた傷口が開いて、もの凄く痛い。


うぅっ、普通のキスだってしたことないのに。

もうヤダ。なんで夢の中とはいえ、こんなディープな経験しなきゃならないの。最悪に過ぎるでしょこんなの。
コイツらイケメンだったら何してもいいと思ってんじゃないだろうか。

警察があったら強制猥褻罪で突き出してやるから!


泣きそうになりながらひたすら手を洗っていると、風の当たる感覚がしてテーブルの上の申請書がガサリと動いた。

あれ、窓は開いてないのにどこからーー。


「お、始まったな」

急に風が強くなる。
部屋の中央に向かって、ヒラヒラと先程の申請書が飛んでいったかと思うと、段々紙自体も発光し始めーー


ーー最後に一際明るく輝いたかと思うと、フッと紙ごと消えてしまった。


口をあんぐり開けたまま、申請書が消えた空間を凝視する。


……何コレ。この夢、ファンタジー仕立てなの?
魔法とかある世界なの?

転移とか言ってたし、もしかしたらとは思ってたけど。
目の前で起こると衝撃具合が違う。


「うん、定着したみたいですね」
「よっし!これで契約成立っ!」


ーーはい?

今、なんて言いました?


視線をギギギギっと猫耳二人に戻すと。
とってもとってもいい笑顔で、小首を傾げてのたまってきた。


「「これからよろしく、飼い主さん?」」



ーーーーーーーーはあぁっ?!
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...