【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
17 / 174
1章

12。交渉成立しました

しおりを挟む
「なーなー、何飲む?珈琲と紅茶どっちが好き?」
「こっちのサラダはいかがですか?ああ、でも冷めてしまうのでスープからの方がいいですね」


あくる朝。
二人は相変わらず部屋に来ていた。


昨日はあの後部屋から二人を追い出して、布団を引っ被って籠城した。
しっかり鍵だって掛けたはずなのに。


ロックピックくらい簡単だしー、とか言われた時は枕を投げつけようかと思った。
手元の食事の載ったトレイに気づいたので止めたけど。

朝食を台無しにしなくて良かったわ。料理人さんの時間を無駄にしてしまうし、何よりご飯に罪はないもの。


黙ってトレーからパンをお皿ごと取り、齧りつく。
うん、ふわふわで美味しい。練り込まれたドライフルーツの配分も最高。
ご飯の美味しい夢の世界で良かった。


「いい加減、機嫌直してくれよー」

知ったことか。私は今怒ってるのよっ!
面白いからって乙女の純情を弄んでいいとか思ってるのかこの猫男は?!

自分で乙女とか言っちゃうヤツに純情ってあるの?と暴言吐かれたので、今度こそ全力で枕をぶつける。
うん、ちょっとスッキリ。


「じゃ、説明の続きしますね。食べながらでいいんで聞いてください」

シアンが椅子を引っ張ってきて、ベッドの横に腰掛ける。

……こっちは全くブレずに変わらない私ね。


「僕らが野良だったって話はしましたよね?」
「……してたわね」

きっちり過去形で話すあたり、昨日のことは確定事項だと主張してるのかしら。
私はまだ認めてないんだけど?


「野良だと、飼い猫と違って色々立場が弱いんですよ。街中でちょっと喧嘩しただけでも、収容されて殺処分なんてこともあり得ますし」
「ま、現行犯で捕まらなきゃいいだけなんだけどなー」

床からぴょっこりマゼンタが顔を出す。

ちっ、復活したか。
何か硬いもの仕込んでから投げつければ良かった。


「逆だとお咎めなしなんだぜ?ヒドくね?」
「アンタらに関してだけなら、酷いと思わないわ」
「冷たっ!なんか昨日より扱いが悪くなってるっ!」
「口調もだいぶ荒くなってますね」


誰のせいよ。胸に手を当てて考えてみなさいよ。

私だって、普段なら年長者にはちゃんと丁寧に話してる。
けれど面白いからってだけでセクハラかます人種にまで、丁寧に対応してやる義理はないわ。


視線を合わせないように明後日の方向を向きながら、紅茶を飲む。
時間が経って少し苦くなってるけど、飲めなくはない。


「なので飼い猫の方が安全ではあるんですが。ただ下手な飼い主に捕まると、それはそれで酷い目に遭うこともありまして」
「扱き使われることもザラだし、犯罪の片棒担がされたりってのもあんだよねー」


「……だからって、なんで私なのよ」

絶対他に良い人いるでしょう。

アンタらの顔ならどっかの有閑マダムにでも拾ってもらえばいいじゃない、と言えば、今度は構われ過ぎて自由がなくなるから嫌だと首を振った。

我儘ニャンコめ。まあ猫がワガママって結構普通だけど。


「まあ別にオレら、ずっと野良でも良かったんだよね」
「必要なお金も稼げてますし、自分たちだけで問題無く生活できていますしね」
「……さっきまでの話はどこいったのよ」
「まあそう焦らないでください」


焦ってんじゃなくて、この先の話も聞く意味がないんじゃないかと疑っているだけなんですけど。

「オマエって、そのうち元の世界に帰る気だろ?」
「……そのうちじゃなくて、できることなら今すぐ帰りたいのだけど」

なんでなかなか目が覚めないんだろ。
現実の私熟睡し過ぎじゃない?
昼間とはいえ風邪引いちゃわないかしら。


「飼い猫の特権って、飼い猫でも有効なんですよ」
「だから、ここに居る間だけ飼い主になってくれたらオレらは超助かるってワケ!」
「……それってそっちの都合よね」

私の都合は完全無視ですか、そうですか。


「こちらに居る間逃げずに飼い主やってくれれば、その間の衣食住は保証しますよ?」
「あと情報提供もな!オレらが知ってることは話すし、ある程度伝手はあるから、詳しそうな人間に渡りつけてやるぜ?」

迷い子が元の世界に戻るための方法とか、知りたいだろ?とニヤニヤされる。


なるほど、ギブアンドテイクってことね。

この夢がいつまで続くか分からないけど、困ったことに飢えも痛みも感じてしまうのは実証済みだ。
目が醒めるまでは安全と、人並みの生活を確保しないといけない。


紅茶のカップを戻して、二人に視線を合わせる。

「いいわ……戻るまでの間だけ、あなた達の飼い主をやったげる。さっきの約束、くれぐれも忘れないでね?」
「オッケー!任せとけって!」
「ちゃんと守りますよ。僕たちは律儀な猫ですからね」


差し出された手を取って、握り返す。
これで本当に契約成立だ。


不安だらけだが、まあなるようになるだろう。なんたって夢なんだし。
最悪でも、死ぬことはないはず。


「やったな!『迷い子』が飼い主なんて、絶対レアだし!一生話のネタにできるよな!」
「この人自体も反応がいいので、なかなか愉しめそうですしね?しばらくは退屈しなくて済みそうです」


ーーそっちが本音じゃないでしょうね?!


どうしよう、この世界にクーリングオフ制度とかあるのかしら……と、また遠い目でため息をついてしまった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...