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1章
13。首輪を買うそうです
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朝食後に宿をチェックアウトして、そのまま大通りに出た。
外は薄曇りで、日差しもキツくなく過ごしやすそうな天気。
気ままにお散歩とかしたくなる陽気だが、なぜか私は二人の間に挟まれ、シアンに右、マゼンタに左の手を繋がれている。
逃亡防止かと思ったが、迷子にならないようにだと言われた……前科持ちなのでぐぅの音も出ない。
諦めてそのまま歩くことにする。
「で、これからどこに行くの?」
「まず雑貨屋に寄ってから、不動産屋に行く予定です」
「雑貨屋?」
「首輪買うんだよ!飼い主がいるって印だな」
上機嫌にしっぽを揺らしながらマゼンタが答える。
なるほど、首輪があるのが飼い猫で、ないのが野良猫ってことね。
「不動産屋には部屋を探しに行くんですよ。せっかく飼い猫になったことですしね」
後半の意味が分からず聞けば、不動産のやり取りには人の名義が必要で、野良猫は家を借りることも買うこともできないそう。
野良である限り、宿を転々とするか知り合いの家に泊めてもらうか、それもできなければ野宿となるそうで。
誰かに飼われることの一番のメリットが不動産関連だと聞かされ、納得する。
お金があっても貸してくれないなんて融通が効かないのね、とつぶやけば、オマエの世界では猫も家を借りられるのかと驚かれた。
……確かに、猫名義で家を借りるのは無理だわね。
でもそれを言うなら、現実の世界でそもそも猫は二足歩行をしないし人の言葉も話さない。
このヘンテコな夢の世界の猫と比較対象にするのもなんだか違う気がするけれど。
そんな風にとりとめなく雑談をしているうちに、お目当ての雑貨屋さんに到着したらしい。
明るい店内には服飾品やアクセサリー、文房具やキッチン用品など様々なジャンルの品物が置かれている。
首輪はここではアクセサリー扱いらしく、ネックレスやピアスの並びにあった。
首輪というから少し身構えたけど、ほとんど普通のチョーカーと変わらない外観でホッとする。
マゼンタはワインレッドの、シアンは紺の革のチョーカーを選んでレジに向かった。
支払いを済ませると店員さんにこの場で付けていくのかと聞かれ、シアンが頷く。
ならそこのサンプルを使っていいぞと、ペン売り場前の小さな台を指された。
何種類ものペンと束ねた紙が無造作に転がっている。
「ベルトに、飼い主とペットの名前を書いとくんだ」
マゼンタから小さな声で補足が入る。
ってことで書くのはよろしくなー!とサックり投げられ、二人はもう少し買いたいものがあると言って何処かに行ってしまった。
さっきまで両腕拘束していたくせに、一転して今度は放置ってどういうこと?まあ良いけど……
どれぐらい待っとけばいいんだろう。
時間が空いてしまったので、無駄に凝って名前を書くことにする。
色々とペンを選んで太さを確認。紙の上でちょっと練習してから、革の上でインクの滲み具合も見つつ丁寧に書く。
「うん、こんなものかな?」
“Magenta”、“Cyan”と、装飾文字で書き込んだ。
うん、なかなか良い出来じゃない。完全に趣味で受けたカリグラフィーの授業が、初めて役に立ったわ!
かなり集中して仕上げたので、達成感がすごい。
一人で悦に入っていると二人が戻ってきたので、名前入りの首輪をそれぞれに渡す。
「へぇ、これはなかなか」
「うっわ、スッゲー!めっちゃカッコいいじゃん!!」
踊り出しそうな顔で喜ぶ二人。おお、良い反応。
「ふふっ、そうでしょうそうでしょう!」
ドヤ顔で胸を張っておく。
喜んでもらえて何より。頑張った甲斐があったわ。
「それで、買いたいものってなんだったの?レジのほうに寄っていたから、もう買ったのよね?」
「おう!これ見てくれよ!」
マゼンタが掌を開くと、半円の形したチャームが載っている。
半透明の、角度によっては青紫色がかっても見えるグレーの石。
パワーストーンの一種かしら?
「こちらの物とセットになっているんですよ」
シアンの掌の上にも同じ石のチャーム。同じ半円だが、弧の部分が上になる様に留め具がついている。
組み合わせると満月の形になるんですよと言ってシアンがにっこり笑い、しっぽが上機嫌に揺れた。
マゼンタの方からは「な、イイだろこれー!」とこちらもご機嫌な様子で、こっちの頭をガシガシ撫でられた……普通に止めてほしい。
さっさと逃げて乱れてしまった髪を手櫛で整えながら、嫌みを返す。
「あなた達が選んだにしては、エラく可愛いわね……」
月を模したチャームなんて女性受けしそうな感じではあるが、こういうのが趣味なんだろうか?
「この色はこの形しかなかったんだよ」
「原石が売っていれば、自分たちで好きな形に削ってもらえたんですが」
……?重要なのは色の方なの?
この二人はこういう柔らかい系の色じゃなくて、もっとビビッドな色が好きそうなのに。
こんなド派手な毛並みなんだし。
よく分からないという顔をしていたら、珍しく苦笑いされた。
「ーーアンタの瞳の色なんですけど?」
ーーえっと?それどういう意味?
ますます分からないと首を捻ると、
「相手の目や髪の色のものを身につけるって習慣があるんだよ」
オマエんとこにはそーゆーのないの?と聞かれて、ぽかんと口を開ける。
……いや、その習慣はあるっちゃある。たぶん『好きな相手の色を身に纏う』ってやつではなかろうか?
あるいは逆に『好きな相手を自分の色に染める』とかーーどっちにしても、恋愛的な甘ったるい意味のやつ。
ーーどうしよう…蕁麻疹でそう。
外は薄曇りで、日差しもキツくなく過ごしやすそうな天気。
気ままにお散歩とかしたくなる陽気だが、なぜか私は二人の間に挟まれ、シアンに右、マゼンタに左の手を繋がれている。
逃亡防止かと思ったが、迷子にならないようにだと言われた……前科持ちなのでぐぅの音も出ない。
諦めてそのまま歩くことにする。
「で、これからどこに行くの?」
「まず雑貨屋に寄ってから、不動産屋に行く予定です」
「雑貨屋?」
「首輪買うんだよ!飼い主がいるって印だな」
上機嫌にしっぽを揺らしながらマゼンタが答える。
なるほど、首輪があるのが飼い猫で、ないのが野良猫ってことね。
「不動産屋には部屋を探しに行くんですよ。せっかく飼い猫になったことですしね」
後半の意味が分からず聞けば、不動産のやり取りには人の名義が必要で、野良猫は家を借りることも買うこともできないそう。
野良である限り、宿を転々とするか知り合いの家に泊めてもらうか、それもできなければ野宿となるそうで。
誰かに飼われることの一番のメリットが不動産関連だと聞かされ、納得する。
お金があっても貸してくれないなんて融通が効かないのね、とつぶやけば、オマエの世界では猫も家を借りられるのかと驚かれた。
……確かに、猫名義で家を借りるのは無理だわね。
でもそれを言うなら、現実の世界でそもそも猫は二足歩行をしないし人の言葉も話さない。
このヘンテコな夢の世界の猫と比較対象にするのもなんだか違う気がするけれど。
そんな風にとりとめなく雑談をしているうちに、お目当ての雑貨屋さんに到着したらしい。
明るい店内には服飾品やアクセサリー、文房具やキッチン用品など様々なジャンルの品物が置かれている。
首輪はここではアクセサリー扱いらしく、ネックレスやピアスの並びにあった。
首輪というから少し身構えたけど、ほとんど普通のチョーカーと変わらない外観でホッとする。
マゼンタはワインレッドの、シアンは紺の革のチョーカーを選んでレジに向かった。
支払いを済ませると店員さんにこの場で付けていくのかと聞かれ、シアンが頷く。
ならそこのサンプルを使っていいぞと、ペン売り場前の小さな台を指された。
何種類ものペンと束ねた紙が無造作に転がっている。
「ベルトに、飼い主とペットの名前を書いとくんだ」
マゼンタから小さな声で補足が入る。
ってことで書くのはよろしくなー!とサックり投げられ、二人はもう少し買いたいものがあると言って何処かに行ってしまった。
さっきまで両腕拘束していたくせに、一転して今度は放置ってどういうこと?まあ良いけど……
どれぐらい待っとけばいいんだろう。
時間が空いてしまったので、無駄に凝って名前を書くことにする。
色々とペンを選んで太さを確認。紙の上でちょっと練習してから、革の上でインクの滲み具合も見つつ丁寧に書く。
「うん、こんなものかな?」
“Magenta”、“Cyan”と、装飾文字で書き込んだ。
うん、なかなか良い出来じゃない。完全に趣味で受けたカリグラフィーの授業が、初めて役に立ったわ!
かなり集中して仕上げたので、達成感がすごい。
一人で悦に入っていると二人が戻ってきたので、名前入りの首輪をそれぞれに渡す。
「へぇ、これはなかなか」
「うっわ、スッゲー!めっちゃカッコいいじゃん!!」
踊り出しそうな顔で喜ぶ二人。おお、良い反応。
「ふふっ、そうでしょうそうでしょう!」
ドヤ顔で胸を張っておく。
喜んでもらえて何より。頑張った甲斐があったわ。
「それで、買いたいものってなんだったの?レジのほうに寄っていたから、もう買ったのよね?」
「おう!これ見てくれよ!」
マゼンタが掌を開くと、半円の形したチャームが載っている。
半透明の、角度によっては青紫色がかっても見えるグレーの石。
パワーストーンの一種かしら?
「こちらの物とセットになっているんですよ」
シアンの掌の上にも同じ石のチャーム。同じ半円だが、弧の部分が上になる様に留め具がついている。
組み合わせると満月の形になるんですよと言ってシアンがにっこり笑い、しっぽが上機嫌に揺れた。
マゼンタの方からは「な、イイだろこれー!」とこちらもご機嫌な様子で、こっちの頭をガシガシ撫でられた……普通に止めてほしい。
さっさと逃げて乱れてしまった髪を手櫛で整えながら、嫌みを返す。
「あなた達が選んだにしては、エラく可愛いわね……」
月を模したチャームなんて女性受けしそうな感じではあるが、こういうのが趣味なんだろうか?
「この色はこの形しかなかったんだよ」
「原石が売っていれば、自分たちで好きな形に削ってもらえたんですが」
……?重要なのは色の方なの?
この二人はこういう柔らかい系の色じゃなくて、もっとビビッドな色が好きそうなのに。
こんなド派手な毛並みなんだし。
よく分からないという顔をしていたら、珍しく苦笑いされた。
「ーーアンタの瞳の色なんですけど?」
ーーえっと?それどういう意味?
ますます分からないと首を捻ると、
「相手の目や髪の色のものを身につけるって習慣があるんだよ」
オマエんとこにはそーゆーのないの?と聞かれて、ぽかんと口を開ける。
……いや、その習慣はあるっちゃある。たぶん『好きな相手の色を身に纏う』ってやつではなかろうか?
あるいは逆に『好きな相手を自分の色に染める』とかーーどっちにしても、恋愛的な甘ったるい意味のやつ。
ーーどうしよう…蕁麻疹でそう。
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