【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
18 / 174
1章

13。首輪を買うそうです

しおりを挟む
朝食後に宿をチェックアウトして、そのまま大通りに出た。

外は薄曇りで、日差しもキツくなく過ごしやすそうな天気。
気ままにお散歩とかしたくなる陽気だが、なぜか私は二人の間に挟まれ、シアンに右、マゼンタに左の手を繋がれている。

逃亡防止かと思ったが、迷子にならないようにだと言われた……前科持ちなのでぐぅの音も出ない。

諦めてそのまま歩くことにする。


「で、これからどこに行くの?」
「まず雑貨屋に寄ってから、不動産屋に行く予定です」
「雑貨屋?」
「首輪買うんだよ!飼い主がいるって印だな」


上機嫌にしっぽを揺らしながらマゼンタが答える。

なるほど、首輪があるのが飼い猫で、ないのが野良猫ってことね。

「不動産屋には部屋を探しに行くんですよ。せっかく飼い猫になったことですしね」


後半の意味が分からず聞けば、不動産のやり取りには人の名義が必要で、野良猫は家を借りることも買うこともできないそう。
野良である限り、宿を転々とするか知り合いの家に泊めてもらうか、それもできなければ野宿となるそうで。

誰かに飼われることの一番のメリットが不動産関連だと聞かされ、納得する。


お金があっても貸してくれないなんて融通が効かないのね、とつぶやけば、オマエの世界では猫も家を借りられるのかと驚かれた。

……確かに、猫名義で家を借りるのは無理だわね。


でもそれを言うなら、現実の世界でそもそも猫は二足歩行をしないし人の言葉も話さない。

このヘンテコな夢の世界の猫と比較対象にするのもなんだか違う気がするけれど。


そんな風にとりとめなく雑談をしているうちに、お目当ての雑貨屋さんに到着したらしい。

明るい店内には服飾品やアクセサリー、文房具やキッチン用品など様々なジャンルの品物が置かれている。
首輪はここではアクセサリー扱いらしく、ネックレスやピアスの並びにあった。
首輪というから少し身構えたけど、ほとんど普通のチョーカーと変わらない外観でホッとする。


マゼンタはワインレッドの、シアンは紺の革のチョーカーを選んでレジに向かった。

支払いを済ませると店員さんにこの場で付けていくのかと聞かれ、シアンが頷く。
ならそこのサンプルを使っていいぞと、ペン売り場前の小さな台を指された。

何種類ものペンと束ねた紙が無造作に転がっている。

「ベルトに、飼い主とペットの名前を書いとくんだ」
マゼンタから小さな声で補足が入る。

ってことで書くのはよろしくなー!とサックり投げられ、二人はもう少し買いたいものがあると言って何処かに行ってしまった。


さっきまで両腕拘束していたくせに、一転して今度は放置ってどういうこと?まあ良いけど……
どれぐらい待っとけばいいんだろう。


時間が空いてしまったので、無駄に凝って名前を書くことにする。
色々とペンを選んで太さを確認。紙の上でちょっと練習してから、革の上でインクの滲み具合も見つつ丁寧に書く。

「うん、こんなものかな?」
“Magenta”、“Cyan”と、装飾文字で書き込んだ。

うん、なかなか良い出来じゃない。完全に趣味で受けたカリグラフィーの授業が、初めて役に立ったわ!
かなり集中して仕上げたので、達成感がすごい。

一人で悦に入っていると二人が戻ってきたので、名前入りの首輪をそれぞれに渡す。

「へぇ、これはなかなか」
「うっわ、スッゲー!めっちゃカッコいいじゃん!!」

踊り出しそうな顔で喜ぶ二人。おお、良い反応。

「ふふっ、そうでしょうそうでしょう!」

ドヤ顔で胸を張っておく。
喜んでもらえて何より。頑張った甲斐があったわ。


「それで、買いたいものってなんだったの?レジのほうに寄っていたから、もう買ったのよね?」
「おう!これ見てくれよ!」

マゼンタが掌を開くと、半円の形したチャームが載っている。
半透明の、角度によっては青紫色がかっても見えるグレーの石。
パワーストーンの一種かしら?


「こちらの物とセットになっているんですよ」

シアンの掌の上にも同じ石のチャーム。同じ半円だが、弧の部分が上になる様に留め具がついている。

組み合わせると満月の形になるんですよと言ってシアンがにっこり笑い、しっぽが上機嫌に揺れた。

マゼンタの方からは「な、イイだろこれー!」とこちらもご機嫌な様子で、こっちの頭をガシガシ撫でられた……普通に止めてほしい。

さっさと逃げて乱れてしまった髪を手櫛で整えながら、嫌みを返す。

「あなた達が選んだにしては、エラく可愛いわね……」

月を模したチャームなんて女性受けしそうな感じではあるが、こういうのが趣味なんだろうか?

「この色はこの形しかなかったんだよ」
「原石が売っていれば、自分たちで好きな形に削ってもらえたんですが」

……?重要なのは色の方なの?

この二人はこういう柔らかい系の色じゃなくて、もっとビビッドな色が好きそうなのに。
こんなド派手な毛並みなんだし。

よく分からないという顔をしていたら、珍しく苦笑いされた。

「ーーアンタの瞳の色なんですけど?」


ーーえっと?それどういう意味?

ますます分からないと首を捻ると、
「相手の目や髪の色のものを身につけるって習慣があるんだよ」

オマエんとこにはそーゆーのないの?と聞かれて、ぽかんと口を開ける。

……いや、その習慣はあるっちゃある。たぶん『好きな相手の色を身に纏う』ってやつではなかろうか?

あるいは逆に『好きな相手を自分の色に染める』とかーーどっちにしても、恋愛的な甘ったるい意味のやつ。


ーーどうしよう…蕁麻疹じんましんでそう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...