38 / 174
1章
33。甘い しょっぱいのコンボは最強です
しおりを挟む
二階に上がると似たような部屋がいくつも廊下沿いに並んでいた。
開けっ放しのドアを覗くと、どれもやけに綺麗に片付いていて、あまり生活感のない部屋ばかり。
なんだか昨日泊まっていた宿に似た感じがするわね。住居スペースとは違うのかしら?
そんななか、おじ様に教えてもらった一番奥の部屋だけは、しっかりとドアが閉まっていた。
中からはボソボソと話し声のようなものも聞こえて、ちゃんと人の気配がする。
普通ならノックした方が良いのだけど、ここで手を空けるためにトレイを片腕に載せたりなんてしたら、立てたばかりのフラグをきっちり回収する羽目になりそうだ。
「マゼンタ、シアン?ここ開けてもらえる?」
ドアの少し手前で声を掛けると、一瞬部屋の中が静かになり。ほどなくカチャリと鍵の開く音がして、ゆっくりと扉が開いた。
「ーーあ、ソフィア……」
「ええ、ただいま、かしら?」
「ーー帰っていたんですね。おかえりなさい」
うう、なんだか二人との会話がぎこちない。
今までオマエ、とかアンタって呼び掛けてきてたのに、何故か名前呼びになってる。
全然視線も合わせてくれないし、猫耳もしっぽもしょんぼりと元気がない感じ。
何よりドアを開けた姿勢のまま、どっちともピクリとも動かない。
それ以上は近づいてこようとせず、いつものように腕を拘束してきたり抱きついたりもしてこなかった。
昼まであんなにベタベタくっついてきていたのに、一体何なのよ。
……いや、決してくっついてきて欲しいわけじゃないのだけど。調子が狂うってだけで。
相変わらずフリーズしたままの二匹にさらに声を掛ける。
「とえあえず、中に入っても良いかしら?お茶を淹れてきたの」
夕食はここでご馳走になることになったから、呼ばれるまでオヤツにしましょう?と言ってトレイを軽く持ち上げる。……うん、いい筋トレだわコレ。
「ポップコーンにクッキーですか。変わった組合わせですね」
「クッキーはマヤさんに貰ったの。ポップコーンもマヤさんのお勧めで、おみやげとして買ってきたのよ」
変わった組合わせってところで「お前が言うな」と言い掛けたけど、なんとか思い留まった。
話は短く、簡潔に。余計なことを言って話が長引くのは良くない。少なくともこのトレイを置くまでは。
いい加減、腕がプルプルしてきてちょっとマズい。
「お、気が利いてるじゃん!ちょうど小腹空いてたんだよなー」
マゼンタがそう言うと、ひょい、とトレイを取り上げて持っていった。
ニッと笑って、ありがとなっ!と髪をくしゃくしゃ撫でてくる。
お、ちょっと良い感じじゃない?
少なくともマゼンタの方は、調子が戻ってきた気がする。
緩む顔を隠しながら、テーブルにお茶をセッティングしていく。
椅子は二脚しかなかったので、マゼンタはベッドに腰掛けるようだ。
「さあどうぞ。あ、ポップコーンは猫用のを買ってきたの。口に合うと良いんだけど」
「?猫用、ですか?」
「ええ、食べた感じ普通のハーブソルト味だったけど。猫用に塩分でも控えてあるのかしらね」
「へぇ、どれどれー? お、結構うまいじゃん」
「私の方はキャラメルにしたから、良かったらこっちも食べて」
「そうですか、なら遠慮なく頂きます」
ーー良かった、シアンもだいぶ元の雰囲気に戻った気がするわ。
気持ちも少し軽くなって、私もシアンの方からハーブソルト味をもらう。
うん、甘いしょっぱいの組み合わせって、手が止まらなくなるわ。魅惑の無限ループよね。
一瞬ダイエット、って言葉がよぎったが、ここは夢の世界。きっと食べても太らないハズ!味覚のある夢って最高だわ!
……うん、でもちょっと控えよう。
万が一、いえ億が一の確率で、ここが夢の中じゃなくて、異世界なんてあり得ない場所だった場合、ダメージが半端ないもの。
リスクへは常に備えておかなくてはね。
そんな風に意識を飛ばしてる間に、シアンとマゼンタはアイスティーにも口をつけていた。
「うっわー、何コレ!めっちゃスッキリしてるのになんかじわじわクる!」
「確かにこれは美味しいですね。普通のアイスティーに見えるのに、もっと飲みたくなるような……不思議な味です」
猫の好きなハーブというのは本当だったようで、二匹ともお茶の美味しさにテンションが上がって、すっかり元の感じに戻ってる。やっぱりこうじゃないとね。
元気がない時の美味しい食べ物って、やっぱり最高のクスリだわ。
自分もミルクティーを飲んでほっとしながら、そういえば二人とも何故凹んでいたのかしら?と首を傾げる。
ーーま、いっか。今聞かなくても。
また訊けそうなタイミングで訊けばいいわよね。
折角気分良く過ごしているのだから、水を差すようなマネをしなくてもいいでしょう。
今はゆっくりお茶を楽しみたいもの。
そんな風に疑問を後回しにして、午後の紅茶を味わうのだった。
開けっ放しのドアを覗くと、どれもやけに綺麗に片付いていて、あまり生活感のない部屋ばかり。
なんだか昨日泊まっていた宿に似た感じがするわね。住居スペースとは違うのかしら?
そんななか、おじ様に教えてもらった一番奥の部屋だけは、しっかりとドアが閉まっていた。
中からはボソボソと話し声のようなものも聞こえて、ちゃんと人の気配がする。
普通ならノックした方が良いのだけど、ここで手を空けるためにトレイを片腕に載せたりなんてしたら、立てたばかりのフラグをきっちり回収する羽目になりそうだ。
「マゼンタ、シアン?ここ開けてもらえる?」
ドアの少し手前で声を掛けると、一瞬部屋の中が静かになり。ほどなくカチャリと鍵の開く音がして、ゆっくりと扉が開いた。
「ーーあ、ソフィア……」
「ええ、ただいま、かしら?」
「ーー帰っていたんですね。おかえりなさい」
うう、なんだか二人との会話がぎこちない。
今までオマエ、とかアンタって呼び掛けてきてたのに、何故か名前呼びになってる。
全然視線も合わせてくれないし、猫耳もしっぽもしょんぼりと元気がない感じ。
何よりドアを開けた姿勢のまま、どっちともピクリとも動かない。
それ以上は近づいてこようとせず、いつものように腕を拘束してきたり抱きついたりもしてこなかった。
昼まであんなにベタベタくっついてきていたのに、一体何なのよ。
……いや、決してくっついてきて欲しいわけじゃないのだけど。調子が狂うってだけで。
相変わらずフリーズしたままの二匹にさらに声を掛ける。
「とえあえず、中に入っても良いかしら?お茶を淹れてきたの」
夕食はここでご馳走になることになったから、呼ばれるまでオヤツにしましょう?と言ってトレイを軽く持ち上げる。……うん、いい筋トレだわコレ。
「ポップコーンにクッキーですか。変わった組合わせですね」
「クッキーはマヤさんに貰ったの。ポップコーンもマヤさんのお勧めで、おみやげとして買ってきたのよ」
変わった組合わせってところで「お前が言うな」と言い掛けたけど、なんとか思い留まった。
話は短く、簡潔に。余計なことを言って話が長引くのは良くない。少なくともこのトレイを置くまでは。
いい加減、腕がプルプルしてきてちょっとマズい。
「お、気が利いてるじゃん!ちょうど小腹空いてたんだよなー」
マゼンタがそう言うと、ひょい、とトレイを取り上げて持っていった。
ニッと笑って、ありがとなっ!と髪をくしゃくしゃ撫でてくる。
お、ちょっと良い感じじゃない?
少なくともマゼンタの方は、調子が戻ってきた気がする。
緩む顔を隠しながら、テーブルにお茶をセッティングしていく。
椅子は二脚しかなかったので、マゼンタはベッドに腰掛けるようだ。
「さあどうぞ。あ、ポップコーンは猫用のを買ってきたの。口に合うと良いんだけど」
「?猫用、ですか?」
「ええ、食べた感じ普通のハーブソルト味だったけど。猫用に塩分でも控えてあるのかしらね」
「へぇ、どれどれー? お、結構うまいじゃん」
「私の方はキャラメルにしたから、良かったらこっちも食べて」
「そうですか、なら遠慮なく頂きます」
ーー良かった、シアンもだいぶ元の雰囲気に戻った気がするわ。
気持ちも少し軽くなって、私もシアンの方からハーブソルト味をもらう。
うん、甘いしょっぱいの組み合わせって、手が止まらなくなるわ。魅惑の無限ループよね。
一瞬ダイエット、って言葉がよぎったが、ここは夢の世界。きっと食べても太らないハズ!味覚のある夢って最高だわ!
……うん、でもちょっと控えよう。
万が一、いえ億が一の確率で、ここが夢の中じゃなくて、異世界なんてあり得ない場所だった場合、ダメージが半端ないもの。
リスクへは常に備えておかなくてはね。
そんな風に意識を飛ばしてる間に、シアンとマゼンタはアイスティーにも口をつけていた。
「うっわー、何コレ!めっちゃスッキリしてるのになんかじわじわクる!」
「確かにこれは美味しいですね。普通のアイスティーに見えるのに、もっと飲みたくなるような……不思議な味です」
猫の好きなハーブというのは本当だったようで、二匹ともお茶の美味しさにテンションが上がって、すっかり元の感じに戻ってる。やっぱりこうじゃないとね。
元気がない時の美味しい食べ物って、やっぱり最高のクスリだわ。
自分もミルクティーを飲んでほっとしながら、そういえば二人とも何故凹んでいたのかしら?と首を傾げる。
ーーま、いっか。今聞かなくても。
また訊けそうなタイミングで訊けばいいわよね。
折角気分良く過ごしているのだから、水を差すようなマネをしなくてもいいでしょう。
今はゆっくりお茶を楽しみたいもの。
そんな風に疑問を後回しにして、午後の紅茶を味わうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる