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1章

35。金貨の価値は

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パリパリ、モシャモシャと音を立てながらポップコーンが消費されていく。

お昼にも思ったけど、二人とも食べるの早いわよね。
ちゃんと噛んでるのかしら。喉つまらせたりしたら洒落にならないわよ?
万が一そんな事になったら、全力で大声を出してマヤさんかリュウおじ様に来てもらおう。私に人命救助のスキルはない。あと獣医でもないし。


そんな微妙な心配をしつつ見ていたのだけど、なんの問題もなくお菓子の器は空になった。

今は二人してお茶をごくごく飲んでいる。マゼンタなんかもう三杯目なんだけど……そんなに喉渇いていたのかしら?ピッチャーごと持ってきて良かったわ。氷も余分に持ってくれば良かったかも。


「そういえば、無事に服は買えました?」

おかわりのグラスを渡すと、シアンが首を傾げながら聞いてきた。
両方の耳が横にペタりと垂れて、なんだかリラックスモード。
くっ、垂れ耳可愛い。ズルい。

「そーいや手ぶらだな。いいのなかったとか?」
「ううん、ちゃんと買えたわよ。ちょっと買いすぎて荷物が嵩張ってしまったから、後でお店の人が届けてくれるようにお願いしたの」
まあ、お金はマヤさんに立て替えてもらったのだけど……ってコレ言っておかないとよね。

「あの、なんかマゼンタに貰ってた金貨だけど、マヤさんに服屋では使わない様に言われたの。結局その場は立て替えてもらって。服の代金は、家の契約費用とまとめて請求になっちゃったんだけど」

そう言って預かっていた金貨を返そうとするが「あげたんだから返さなくていーの」と受け取ってもらえなかった。
向かいではなんだかシアンが渋い顔をしている。

「マゼンタ……もう少し細かいのはなかったんですか?」
「んー、昼飯買う時に使っちまったんだよなー」
「はあ……それは不動産屋ココでの契約用に渡しておいたお金なんですがね」

そこら辺の服屋で大金貨は使えないでしょう、と呆れ顔のシアンが諭す。

あ、大金貨って言うのね。確かに一般的なコインのイメージよりはこの金貨は大きいから、見た目通りの名前だわ。

「えー、とりあえず使って、ついでに崩してもらえばいいだろ~?」
なんかマゼンタも耳が垂れて、ついでに目も細くなってきてる。眠いのかしら?

「それはもはや店に対しての嫌がらせです」
ちょうどいいのがないなら一声かけてくださいよと言いながら、シアンが自分の財布を取り出す。

「ソフィア、そちらの金貨は預かります。代わりにこれを」
そう言って、シアンは一回り小振りな金貨一枚と、数枚の銀貨を渡してきた。

お礼を言って受け取り、代わりに手元の金貨を返しながら聞いてみる。
「ちなみに、その金貨の価値ってどのくらいなの?」

聞くと後悔しそうだが、聞かないとそれはそれで後で困りそうだもの。ここは腹を決めて聞いておかないと。

「そうですね…この大金貨三枚で、これから借りる家の一年分の家賃が賄えます」

…………。
……うん、予想はしてた。してたけど。

「マゼンタっ!あんた何てもの持たせてるのよ?!街で気軽に使える金額じゃないでしょ?!」

服屋で使ってもお釣りが出せないと断られたと思うし、ポップコーンの屋台なんかで使っていたら営業妨害で叩き出されても文句言えないじゃないの!

「ええ~。オレ、普通に街でも使ってるけどなあ?」
「こんな大金で何を買うっていうのよ!」
「武器とか魔石とか?」


……聞いた私が悪かったのかしら。

コイツらが普通じゃないのを忘れてたわ。
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