67 / 174
2章
16。城の司書はウサ耳少年でした
しおりを挟む
「あの、お話しても大丈夫なんですか?」
書庫まで案内してもらう道すがら、メイドさんに声を掛けてみる。
てっきりエリザの読心スキルを警戒して、声を出さないようにしていると思ったのだけど。
「陛下の読心スキルは範囲が狭いので。今のように離れられている場合は、私達も問題なく話せるのですよ」
あ、そうなんだ。
お城に来た時誰も一言も喋ってくれなかったから、てっきり城全体が読心の範囲内なのかと思ったわ。
「…貴女様が来られるまで、陛下は大人しく部屋で待っていられずに城中ウロウロなさっていたのですよ」
何処で鉢合わせるか分かったものではなかったので、全員念のため黙っていたのです。
そう言われて、何してんのエリザ…と思うと同時に、本当に楽しみにされてたんだなと少しびっくりする。
まあでも良かったわ。一日中一言も喋れない職場なんて、いくらお給料が良くてもブラックだもの。
エリザがブラック企業の悪徳会長、みたいなキャラ付けでなくて何よりだ。
途中すれ違うメイドや兵士の皆様に会釈をしながら、城の廊下を進む。みんな普通に挨拶してくれた。
「ーー着きましたよ。こちらです」
そう言われ、再び目の前に立ちはだかった重厚な扉を控えていた兵士に開けてもらい、中へ入る。
ドアを潜ると三階分の高さをぶち抜いたような高い天井の広いホール。たくさんの本棚が整然と並び、壁側は天井までびっしりと本が埋まっていた。
上の方の本が取れるよう移動式の梯子がいくつもかけられ、周囲を囲む様に設けられた中二階の上にも、また本棚が並んでいる。
ーーーこ、れは。凄い、本当にすごいわ……‼︎
これらが全部お城の蔵書なの?
部屋の真ん中の辺りで立ち止まり、大きく息を吸い込む。
ーーコーヒーとバニラを混ぜたような、古書特有の甘く芳しい香り。
うわ、うわぁ…!堪んないっ……!
これよ、この匂い!古書店や図書館でよくある、独特の甘いニオイ。
カビ臭い、なんて言う人もいるけど、私はこの匂いが大好きだった。
ああ、此処なら何日だって通い詰められる…。なんならここに住みたいくらい。
「…ふふ、気に入られましたか?」
「ええ、とっても…!!」
勢い込んで返事をしたら、メイドさんに笑われてしまった。…ちょっと恥ずかしいかも。
でも、本当に素敵な場所ね。
それにしても…お城の蔵書、思っていた以上の規模だったわ。ここからどうやって目当ての本を探せばいいのだろう。
分類コード…は貼っていないわね。パソコンもないから、検索システムなんかもないだろう。
当てもなく探していたら、それこそ何年掛かるか分からない。
ひとまず、案内してくれたメイドさんに聞いてみる。
「あの、迷い子に関する資料を探したいのですけど。どの辺にあるとか分かりませんか?」
「申し訳ありません、私は普段ここには入りませんので…ですが専任者がおりますので、その者に聞けば分かりますわ」
専任…?あ、確かエリザが司書に話を通しておくとか言っていたから、司書さんがいるのよね?
レファレンスなんかもやってくれるかしらーーだったらとても心強い。
ならまずその司書さんを探さなきゃ…って見渡す限り本棚で、カウンターなんか見当たらないんだけど…。
「あの、その司書さんは…「ーー誰?」!?」
メイドさんにその司書さんの居場所を聞こうとしたところで、遠くからハスキーな声が掛けられた。
微かな足音がして、こちらに近づいてくるのが分かる。
しばらく待つと、小柄な十一、十二歳くらいの美少女…いえ少年かしら?とにかく中性的なウサギさんが本の奥から姿を見せた。
綺麗なショートボブの青みがかった銀髪に、銀縁メガネの奥は同じ色の瞳。
頭にはこれまた同じ色の、垂れたウサギ耳ーーーほんとにウサギもいたんだ。レアって言ってなかったっけ。
「何か用?」
胡乱げな目で、とてもぶっきらぼうに聞いてきた。
これ、明らかに歓迎されてないわね。逆に新鮮だわ。
「女王陛下からの御命令ですーー彼女に、望みの書物を探し与えるようにと」
「陛下からのーー?へぇ…あのロリババアを、どうやって誑かしたんだか」
そう言って目を細めてこちらを見てきた。
うわ、この子相当口が悪いわ。ウチのネコ達が可愛く思えるレベルって凄い。
引き攣る口元を何とか戻しながら、よろしくお願いしますときっちりお辞儀をする。
下げた頭を戻すと、目の前20センチの距離にウサギさんが詰めていた。
ひゃうっ?!ち、近いって!
ここの動物達、もれなく距離感おかし過ぎるわよ?!
「ふぅん?お前、ボクと同じ瞳の色してるんだな」
まあどうでもいいか、と呟きながらウサギさんは正常な位置まで戻っていったーーどうでもいいなら、至近距離で目なんか覗き込まないで欲しいのだけど。
「それで、ボクに何の用事?さっさと言ってくれる?」
「ええと、迷い子関連の資料を探しているの。何処ら辺にあるのかを教えてくれるだけでもいいわ」
「ーーああ、そう言うこと。すぐ戻るから少し待って」
そう言ってウサギさんはサッと本棚の向こうに消えて行った。
…なんか今の一言だけで、色々悟られた感があるような、ないような。
ウサギって敏い動物なのかしら。
書庫まで案内してもらう道すがら、メイドさんに声を掛けてみる。
てっきりエリザの読心スキルを警戒して、声を出さないようにしていると思ったのだけど。
「陛下の読心スキルは範囲が狭いので。今のように離れられている場合は、私達も問題なく話せるのですよ」
あ、そうなんだ。
お城に来た時誰も一言も喋ってくれなかったから、てっきり城全体が読心の範囲内なのかと思ったわ。
「…貴女様が来られるまで、陛下は大人しく部屋で待っていられずに城中ウロウロなさっていたのですよ」
何処で鉢合わせるか分かったものではなかったので、全員念のため黙っていたのです。
そう言われて、何してんのエリザ…と思うと同時に、本当に楽しみにされてたんだなと少しびっくりする。
まあでも良かったわ。一日中一言も喋れない職場なんて、いくらお給料が良くてもブラックだもの。
エリザがブラック企業の悪徳会長、みたいなキャラ付けでなくて何よりだ。
途中すれ違うメイドや兵士の皆様に会釈をしながら、城の廊下を進む。みんな普通に挨拶してくれた。
「ーー着きましたよ。こちらです」
そう言われ、再び目の前に立ちはだかった重厚な扉を控えていた兵士に開けてもらい、中へ入る。
ドアを潜ると三階分の高さをぶち抜いたような高い天井の広いホール。たくさんの本棚が整然と並び、壁側は天井までびっしりと本が埋まっていた。
上の方の本が取れるよう移動式の梯子がいくつもかけられ、周囲を囲む様に設けられた中二階の上にも、また本棚が並んでいる。
ーーーこ、れは。凄い、本当にすごいわ……‼︎
これらが全部お城の蔵書なの?
部屋の真ん中の辺りで立ち止まり、大きく息を吸い込む。
ーーコーヒーとバニラを混ぜたような、古書特有の甘く芳しい香り。
うわ、うわぁ…!堪んないっ……!
これよ、この匂い!古書店や図書館でよくある、独特の甘いニオイ。
カビ臭い、なんて言う人もいるけど、私はこの匂いが大好きだった。
ああ、此処なら何日だって通い詰められる…。なんならここに住みたいくらい。
「…ふふ、気に入られましたか?」
「ええ、とっても…!!」
勢い込んで返事をしたら、メイドさんに笑われてしまった。…ちょっと恥ずかしいかも。
でも、本当に素敵な場所ね。
それにしても…お城の蔵書、思っていた以上の規模だったわ。ここからどうやって目当ての本を探せばいいのだろう。
分類コード…は貼っていないわね。パソコンもないから、検索システムなんかもないだろう。
当てもなく探していたら、それこそ何年掛かるか分からない。
ひとまず、案内してくれたメイドさんに聞いてみる。
「あの、迷い子に関する資料を探したいのですけど。どの辺にあるとか分かりませんか?」
「申し訳ありません、私は普段ここには入りませんので…ですが専任者がおりますので、その者に聞けば分かりますわ」
専任…?あ、確かエリザが司書に話を通しておくとか言っていたから、司書さんがいるのよね?
レファレンスなんかもやってくれるかしらーーだったらとても心強い。
ならまずその司書さんを探さなきゃ…って見渡す限り本棚で、カウンターなんか見当たらないんだけど…。
「あの、その司書さんは…「ーー誰?」!?」
メイドさんにその司書さんの居場所を聞こうとしたところで、遠くからハスキーな声が掛けられた。
微かな足音がして、こちらに近づいてくるのが分かる。
しばらく待つと、小柄な十一、十二歳くらいの美少女…いえ少年かしら?とにかく中性的なウサギさんが本の奥から姿を見せた。
綺麗なショートボブの青みがかった銀髪に、銀縁メガネの奥は同じ色の瞳。
頭にはこれまた同じ色の、垂れたウサギ耳ーーーほんとにウサギもいたんだ。レアって言ってなかったっけ。
「何か用?」
胡乱げな目で、とてもぶっきらぼうに聞いてきた。
これ、明らかに歓迎されてないわね。逆に新鮮だわ。
「女王陛下からの御命令ですーー彼女に、望みの書物を探し与えるようにと」
「陛下からのーー?へぇ…あのロリババアを、どうやって誑かしたんだか」
そう言って目を細めてこちらを見てきた。
うわ、この子相当口が悪いわ。ウチのネコ達が可愛く思えるレベルって凄い。
引き攣る口元を何とか戻しながら、よろしくお願いしますときっちりお辞儀をする。
下げた頭を戻すと、目の前20センチの距離にウサギさんが詰めていた。
ひゃうっ?!ち、近いって!
ここの動物達、もれなく距離感おかし過ぎるわよ?!
「ふぅん?お前、ボクと同じ瞳の色してるんだな」
まあどうでもいいか、と呟きながらウサギさんは正常な位置まで戻っていったーーどうでもいいなら、至近距離で目なんか覗き込まないで欲しいのだけど。
「それで、ボクに何の用事?さっさと言ってくれる?」
「ええと、迷い子関連の資料を探しているの。何処ら辺にあるのかを教えてくれるだけでもいいわ」
「ーーああ、そう言うこと。すぐ戻るから少し待って」
そう言ってウサギさんはサッと本棚の向こうに消えて行った。
…なんか今の一言だけで、色々悟られた感があるような、ないような。
ウサギって敏い動物なのかしら。
0
あなたにおすすめの小説
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる