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3章

27。お人好しと言われました

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床には散らばった髪の毛、あわせて肩から前に垂らしてた髪が途中でパッツりなくなっている。

目の前のオルトさんの手には剥き身の剣。


ああそうか。その剣で髪、切られたのか。

一応伸ばしてるとこだったんだけどな。


「……ほーんと動じないね。今一センチでもズレてたら、頸動脈切れてるんだよ?」
「えっ?」


ーーへ? あ、あれ? 今ってそんな危機的状況だったの?

確か『危険な目に遭った迷い子がその場から消え失せた』って話も聞いたんだけど……ひょっとしてガセネタだった?
それとも、危険だと本人が認識していないと条件が成立しないとか……

何にせよ、つまりさっきは相当危なかったってことで。

ワンテンポもツーテンポも遅れて、頭から血の気がザーッと引いていった。


「あれ、今になって真っ青になってる。 ひょっとして状況理解してなかった?」
「……剣で斬られたことなんてなかったもので」

ものすごく今更だけど、異世界コワイ。恐ろしすぎる。

カタカタと震えだした身体をギュっと縮こませる。
……腕が縛られてなければ、もう少し震えも誤魔化せるのに。

「それに……いざとなったら迷い子だから、酷い目に遭えば元の世界に戻れるって思ってたから……アテが外れましたけど」
「ああ、そういえば君って迷い子だっけ? 確かにそんな話も聞いたことあるなー」


ーーん? そういえば?

え、ちょっと待って。
今回私が拐われたのって迷い子だからじゃないの?
でも今の言い方だと、迷い子だと忘れていたような口振りでーー


混乱する私の前で、逆に納得したという顔でオルトさんが剣を仕舞った。

「だとしたら、あんまり脅しすぎるのも良くないってことか。危なかった、任務失敗するところだったよ」
「任務?」
「俺の任務はここである人達に君を引き渡すこと。それと引き換えに俺の目的が達成できるってわけ」

折角ちゃんと誘拐できたのに逃がすとこだったよ、なんてカラカラ笑われる。


「……その目的って何なのか聞いても?」

さっきまで誘拐犯オルトさんの事情なんて興味なかったけど、いまこの人はって言った。

ここまでの話の通りなら主犯は別のグループ。オルトさんは実行犯で、何らかの報酬目当てで動いてるということで。

それなら、聞き出せれば交渉のカードに使えるかもしれない。

「ん? そうだなぁ……俺結構君との雑談楽しいし、ネタのひとつとして話してあげてもいいけど。でも、聞かない方がいいんじゃないかな」
「ーー? なんでそんなこと言い切れるんですか」
「だって君、結構お人好しだろ? 今日だって最初は断ったくせに、俺が女王に叱られるって泣きついただけでアッサリ俺についてきちゃうだもん」


だから、聞いたら君、余計に逃げられなくなるよ? いいの?

続けてそう言われたが、意味が分からない。
流石に監禁されて剣を向けられまでした状態で、誘拐犯に同情するほどのお人好しではーー

「今ね、俺の妹が人質になってるの。で、君の引き渡しが解放の条件なワケ」

妹さん……?


『年の離れた妹がいてさー。もうマジで天使なの! 俺、妹の為だったら何だってできちゃうよ‼︎』
『うわっ、オルトさん筋金入りのシスコンですねー。ウチのお姉ちゃんと気が合いそうです』
『そうなの? へー、年の離れたお姉さんがいるんだ。十個差って俺んとこと同じだよ!』

ーー確かに、そんな会話はしたけど。


「だからさ、俺の妹の身代わりになってよーーお人好しの迷い子さん?」
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