114 / 174
3章
27。お人好しと言われました
しおりを挟む
床には散らばった髪の毛、あわせて肩から前に垂らしてた髪が途中でパッツりなくなっている。
目の前のオルトさんの手には剥き身の剣。
ああそうか。その剣で髪、切られたのか。
一応伸ばしてるとこだったんだけどな。
「……ほーんと動じないね。今一センチでもズレてたら、頸動脈切れてるんだよ?」
「えっ?」
ーーへ? あ、あれ? 今ってそんな危機的状況だったの?
確か『危険な目に遭った迷い子がその場から消え失せた』って話も聞いたんだけど……ひょっとしてガセネタだった?
それとも、危険だと本人が認識していないと条件が成立しないとか……
何にせよ、つまりさっきは相当危なかったってことで。
ワンテンポもツーテンポも遅れて、頭から血の気がザーッと引いていった。
「あれ、今になって真っ青になってる。 ひょっとして状況理解してなかった?」
「……剣で斬られたことなんてなかったもので」
ものすごく今更だけど、異世界コワイ。恐ろしすぎる。
カタカタと震えだした身体をギュっと縮こませる。
……腕が縛られてなければ、もう少し震えも誤魔化せるのに。
「それに……いざとなったら迷い子だから、酷い目に遭えば元の世界に戻れるって思ってたから……アテが外れましたけど」
「ああ、そういえば君って迷い子だっけ? 確かにそんな話も聞いたことあるなー」
ーーん? そういえば?
え、ちょっと待って。
今回私が拐われたのって迷い子だからじゃないの?
でも今の言い方だと、迷い子だと忘れていたような口振りでーー
混乱する私の前で、逆に納得したという顔でオルトさんが剣を仕舞った。
「だとしたら、あんまり脅しすぎるのも良くないってことか。危なかった、任務失敗するところだったよ」
「任務?」
「俺の任務はここである人達に君を引き渡すこと。それと引き換えに俺の目的が達成できるってわけ」
折角ちゃんと誘拐できたのに逃がすとこだったよ、なんてカラカラ笑われる。
「……その目的って何なのか聞いても?」
さっきまで誘拐犯の事情なんて興味なかったけど、いまこの人は目的って言った。
ここまでの話の通りなら主犯は別のグループ。オルトさんは実行犯で、何らかの報酬目当てで動いてるということで。
それなら、聞き出せれば交渉のカードに使えるかもしれない。
「ん? そうだなぁ……俺結構君との雑談楽しいし、ネタのひとつとして話してあげてもいいけど。でも、聞かない方がいいんじゃないかな」
「ーー? なんでそんなこと言い切れるんですか」
「だって君、結構お人好しだろ? 今日だって最初は断ったくせに、俺が女王に叱られるって泣きついただけでアッサリ俺についてきちゃうだもん」
だから、聞いたら君、余計に逃げられなくなるよ? いいの?
続けてそう言われたが、意味が分からない。
流石に監禁されて剣を向けられまでした状態で、誘拐犯に同情するほどのお人好しではーー
「今ね、俺の妹が人質になってるの。で、君の引き渡しが解放の条件なワケ」
妹さん……?
『年の離れた妹がいてさー。もうマジで天使なの! 俺、妹の為だったら何だってできちゃうよ‼︎』
『うわっ、オルトさん筋金入りのシスコンですねー。ウチのお姉ちゃんと気が合いそうです』
『そうなの? へー、年の離れたお姉さんがいるんだ。十個差って俺んとこと同じだよ!』
ーー確かに、そんな会話はしたけど。
「だからさ、俺の妹の身代わりになってよーーお人好しの迷い子さん?」
目の前のオルトさんの手には剥き身の剣。
ああそうか。その剣で髪、切られたのか。
一応伸ばしてるとこだったんだけどな。
「……ほーんと動じないね。今一センチでもズレてたら、頸動脈切れてるんだよ?」
「えっ?」
ーーへ? あ、あれ? 今ってそんな危機的状況だったの?
確か『危険な目に遭った迷い子がその場から消え失せた』って話も聞いたんだけど……ひょっとしてガセネタだった?
それとも、危険だと本人が認識していないと条件が成立しないとか……
何にせよ、つまりさっきは相当危なかったってことで。
ワンテンポもツーテンポも遅れて、頭から血の気がザーッと引いていった。
「あれ、今になって真っ青になってる。 ひょっとして状況理解してなかった?」
「……剣で斬られたことなんてなかったもので」
ものすごく今更だけど、異世界コワイ。恐ろしすぎる。
カタカタと震えだした身体をギュっと縮こませる。
……腕が縛られてなければ、もう少し震えも誤魔化せるのに。
「それに……いざとなったら迷い子だから、酷い目に遭えば元の世界に戻れるって思ってたから……アテが外れましたけど」
「ああ、そういえば君って迷い子だっけ? 確かにそんな話も聞いたことあるなー」
ーーん? そういえば?
え、ちょっと待って。
今回私が拐われたのって迷い子だからじゃないの?
でも今の言い方だと、迷い子だと忘れていたような口振りでーー
混乱する私の前で、逆に納得したという顔でオルトさんが剣を仕舞った。
「だとしたら、あんまり脅しすぎるのも良くないってことか。危なかった、任務失敗するところだったよ」
「任務?」
「俺の任務はここである人達に君を引き渡すこと。それと引き換えに俺の目的が達成できるってわけ」
折角ちゃんと誘拐できたのに逃がすとこだったよ、なんてカラカラ笑われる。
「……その目的って何なのか聞いても?」
さっきまで誘拐犯の事情なんて興味なかったけど、いまこの人は目的って言った。
ここまでの話の通りなら主犯は別のグループ。オルトさんは実行犯で、何らかの報酬目当てで動いてるということで。
それなら、聞き出せれば交渉のカードに使えるかもしれない。
「ん? そうだなぁ……俺結構君との雑談楽しいし、ネタのひとつとして話してあげてもいいけど。でも、聞かない方がいいんじゃないかな」
「ーー? なんでそんなこと言い切れるんですか」
「だって君、結構お人好しだろ? 今日だって最初は断ったくせに、俺が女王に叱られるって泣きついただけでアッサリ俺についてきちゃうだもん」
だから、聞いたら君、余計に逃げられなくなるよ? いいの?
続けてそう言われたが、意味が分からない。
流石に監禁されて剣を向けられまでした状態で、誘拐犯に同情するほどのお人好しではーー
「今ね、俺の妹が人質になってるの。で、君の引き渡しが解放の条件なワケ」
妹さん……?
『年の離れた妹がいてさー。もうマジで天使なの! 俺、妹の為だったら何だってできちゃうよ‼︎』
『うわっ、オルトさん筋金入りのシスコンですねー。ウチのお姉ちゃんと気が合いそうです』
『そうなの? へー、年の離れたお姉さんがいるんだ。十個差って俺んとこと同じだよ!』
ーー確かに、そんな会話はしたけど。
「だからさ、俺の妹の身代わりになってよーーお人好しの迷い子さん?」
0
あなたにおすすめの小説
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる