【本編完結】森で遭難しかけたら獣とおかしな人達に囲まれました 〜飼い猫が私を逃してくれません!〜

夕木アリス

文字の大きさ
126 / 174
3章

39★※ 末路①

しおりを挟む
流血表現があります。苦手な人は回れ右で。

*******************








「おい……本当にこの家に入って行ったんだろうな?」

ソフィアがオルフェントに最初に監禁されていた別荘で、男が黒猫に声を掛ける。

男が人質を捜してこの建物に入ってから十分も経っていないが、もともと部屋数も大したことない家だ。
家具のないがらんどうの家では隠れる場所などないに等しいから、探す場所なんて知れているーーが、見つからないのだ。


森を捜していて、微かにだが女の悲鳴が聞こえた。
状況からして捜していた奴に間違いないし、この建物以外に隠れる場所もない。

目の前の奴隷も「見つけたのか?」と尋ねた時にこの別荘を指し示したのに、だ。

(ーーまさか、ここに入ると見せかけて森に逃げたか? だとしたら厄介だな。)

捜し辛くなるというのもあるし、こちらが見つける前に奥に入り込んだ挙げ句、獣に襲われてしまう可能性もある。


普通の人質なら生きてさえいれば問題ないが、は迷い子だと聞いた。
迷い子が心の底から危険を感じるとそのまま元の世界に戻るという話もある。

あくまで噂なので真偽の程は分からないが、もし本当にそうなったら大損だ。


「ちっ……どのみちこの辺には居るはずなんだ。行くぞ、次は裏手の森を捜す」

見切りをつけて踵を返そうとした時、すぐ傍で“パンッ”と乾いた音がなる。
続いて右脚の脹脛に焼けつくような痛みが走り、男は手に持った灯りを取り落としたあげく、床に転がった。


「ーーーー!? グッ、あぁっ!?」
「……ダメじゃないですか、急に外に出ようとするなんてーーびっくりして撃っちゃいましたよ」

クスクスと笑う声とともに、上からそんな言葉が降ってくる。

「おっ、お前!? 裏切ったのか!?」

慌てて顔を上げれば、視界に入ったのは夜空に浮かぶ三日月のような口と、薄く青く光る目。
そして揺らぐ光に照らされた明るい青い髪。


「ーーは? お、前……誰だ……?」
「やだなあ、何時間も前から一緒にいたでしょう?」
「ち、違うっ! ここには黒いメス猫と入ったはずだ!」
「ーー頭が悪い人は嫌いなんですけどね。だから、そのが僕だったんですよ。ちょっと姿は変えてましたがね」

耳だってアンタに切られた傷がついているでしょう? と愉悦のにじむ声で目の前のが告げた。

それを聞いた男は咄嗟に自分の獲物に手を伸ばしたが、今度はナイフを握ろうとした手のひらを撃ち抜かれる。
銃声はそれだけで終わらず、反対の手、肩、左の太腿と続けざまに穴が開く。

飛び散る血が床を濡らし、男が絶叫とともにその上でのたうち回った。


「人間でも転移魔法は使える者もいるでしょうが、痛みで集中できなければ無理ですよね? ああ、でもうるさくて仕方ありませんね。先に喉を潰せばよかったでしょうか」

でもそれだと尋問の時に困るから別の方面が煩くなってしまいますね、と悩む素振りで銃を撫でた。

「て、めっ……何が望み、だ……」
「ちょっとした情報のため、だったんですがーーアンタにはそれ以上に借りを返さないといけなくなったので」


ーーよくもその薄汚い体で、に触れてくれましたね。
とりあえず、ソフィーあのヒトの背中に押し付けていた部位パーツは無くしてしまいましょうかーー


そう言って、すっかり正体を現したシアンがにこりと笑い、男の頭を片手で固定すると再び銃を突きつけた。


「ヒッーーゆ、許しーー」

次の瞬間、男の右耳の一部が弾け飛ぶ。
途中で銃弾を補充しながら、耳が全て削り切れるまで弾が撃ち込まれていった。

「グギャアァァァーーーー!!」
「やはり首から上だと出血が多いですねぇ。もう少し嬲れるかと思いましたが……」

急所は全て外しているとはいえあまりやると失血死してしまいますから、ココまでですね。
そう言ってシアンは男を解放すると立ち上がって血で滑りやすくなった床を避けるように後退あとずさる。


ーー次の瞬間背後に人影が現れ、銃を持った腕ごとシアンをギリっと締め上げた。

そのまま緩んだ手から銃をはたき落として奪う。


「で、でかしたぞ! お前、サビ柄の奴だな!? ソイツを殺せ!」

仲間の登場に喜色を浮かべた男が唾を飛ばしながら叫ぶと、錆び猫は手に持ったナイフをシアンの首筋に当て、二イッと口の端を吊り上げた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...